第30話 小型飛翔機 発進
「私とミフリダス父さんとで直すことが出来て、さらにパワーアップまでしてしまった。」
ブルックスは呆れつつ、父親と祖父の顔を交互に見た。
本当に、この人たちときたら。
「ちなみに、飛行原理の部分はブラックボックスのままなので、新しく作ることは出来ん。出来たのは、電力を貯める「バッテリー」とやらの容量を大きくしたことと、お前が作っていた「テレム」発生器を取り付けたことぐらいだ。「魔導力」での遠隔操作とは違うタイプの通信波を出せるようで、「魔導力」に攪乱されずに飛ぶことが出来る。そこそこ大きいから、視認されたら落とされるかもしれんがな。」
ブルックスはしげしげとその小型飛翔機を見た。
上から見ると正三角形の形をしており、厚さが20㎝くらいだろうか。
その中央部に見慣れた「テレム」発生器が取り付けてある。
「これから通信機を取り付ける。さすがにこれは「魔導力」由来の精神波での使用になっちまうがな。作戦現場が分かってるなら、設定すれば勝手にその場まで行ってくれる。ブルはアルクちゃんの向かう作戦現場は解っているのか?」
「向こうでミノルフ様に会って、聞いてるけど…。そんなに長距離を跳べるの?」
「そうだな。その考えはもっともだ。結論から言うと、ガンジルク山までの往復は出来ないと思う。「魔導力」を電力に変換し、バッテリーに貯蔵して、最大片道分だと思う。ただ運よく行った先に「特例魔導士」がいて、最大級の「魔導力」を注ぎ込んでくれれば帰ってこられるという算段だ。」
「アルク姉頼みか…。」
ブルックスがあきれて、ため息をついた。計画が穴だらけだ。
確かに、自分が求めているのは、作戦地域の様子と、アルク姉さんとの会話、出来れば自分が造った「テレム」発生器のさらなる使い方を説明したいという想いはブルックスにはある。
であれば、ハーノルドの言うような方法も検討できるかもしれないが、前提がおかしい。
アルク姉さんを広い作戦地域の中探し出せるのだろうか?
「それは大丈夫だ、ブル。」
どうやら思考が流れてしまったようだ。
「既にアルクちゃんの精神波の特徴は収集済みだ。」
「いったい、いつそんなことが出来たんだ?」
ブルックスは当然の疑問をハーノルドにぶつけた。
「先日試験飛行を実施したんだが、操作する方法がうまく掴めなかったんでな。お前がセイレイン市に行くとき後方50mばかり後をつけさせた。」
「何、それ?」
「ブルの精神波の特徴はサンプリングしておいたから、この飛行は順調にいったよ。」
「で、おまえがアルクちゃんとミノルフ様と接触してくれたおかげで、二人の精神波も無事採取できた。」
その言葉にブルックスは凍り付いた。
「それはつまり…。」
「嘘ついてもしゃあないしな。うん、バッチリ見させてもらった、ブルとアルクちゃんのラブシーン。」
一気に体の熱が上がった。こともあろうに、あの瞬間を、実の親に見られた!
「何してんだよ、このくそ親父!」
「そこは感謝して欲しいな。この小型飛翔機がセイレインまで行けることの実証実験が成功して、なおかつ、アルクちゃんとミノルフ様の精神波をサンプリングできたことは、「天の恵み」まで、彼らがいるところまで、しっかりとこいつが行ってくれるってことさ。」
もうブルックスは何も言えなかった。
「で、技術的なことだが、先ほど言ったように、作戦地点までは問題なくこいつは行ってくれる。そこで問題になるのが、向こうの状況をこちら迄伝えられるか?そして、こちらから通信が彼らに届くかってことだ。」
「そういう言い方をするってことは、目途はついてるんでしょ、父さん。」
少し拗ねたような言い方をする息子に対して、少し得意げな表情でハーノルドは答えた。
「このバッテリーとやらの容量を大きくしたものを取り付けた通信中継器ともいうものを作ってな。最外壁の一番高いところに置いてきている。」
「ちょっといいかな、父さん。操作がしづらいようなことを言ってなかったけ?」
「操作はしづらいが、思念で微調整くらいはできる。特にあの時のセイレイン市第18門界隈は異常な量の「魔導力」が集まっていたから、非常にスムーズに動かせたよ。」
「人の力をいいように利用してんな。」
「という事で、セイレイン市を経由して、現在「天の恵み」のある所へは、こいつを差し向けることが可能だが、ブル、どうする?一応、この大きさだから普通に不審に思った騎士や国軍に落とされる確率も結構ある。」
ブルックスはしばし考え、そして自ら決断した瞳をハーノルドに向けた。
「アルク姉の安否は当然に確認したい。それに「テレム」発生器の別の使い方を教えたい。」
「よし、では飛ばすぞ。この先端についているレンズが映像を送ってくれる。リングを通じてのイメージを直接、脳内に展開もできるが、2階のホログラムを使ってみることにしよう。いいな、ブル、父さん。」
「母さんはそんなのに興味はないもんな。」
カイロミーグはアルクネメのことは心配していたが、殺伐とした戦場をハーノルドは見せる気はなかった。
ハーノルドはミフリダスとブルックスを伴って家の外に出て、少し開けた土地にその小型飛翔機を置いた。
裏底のどこかに触れると、低いうなり声のような音が響く。
「よしモーターは異常なし。では発進させるぞ。」
ハーノルドはそう言うと、手にしていた太い刀の柄のようなものゆっくりと握りしめた。
「父さんそれは?」
「さっき言っただろう、細かいことならできるコントローラーらしい。いま、これに「魔導力」を込めている。一応、バッテリーには「魔導力」を変換して電力を満タンにしてあるがな。」
「分かった。父さんを信じるよ。」
「よし、小型飛翔機、発進!アルクネメ・オー・エンペロギウスに向かって‼」
その機械は一際、甲高い音を立てて、垂直に飛び立った。




