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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第3章 「天の恵み」攻防戦 Ⅱ
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第29話 モンデリヒト

 この小型飛翔機は本体の重要な機構は損傷しておらず、「魔導力」を電力に変える回路が焼け切れていただけであった。さらに電力を貯蔵する装置、古代語で「バッテリー」と書かれた部分の基本の構造が理解できたため、ハーノルドはその容量を大きくすることにも成功したのだ。


 モンデリヒトは謎の多い国家である。基本、大統領制を導入した民主国家とされている。

 しかし、大統領であるベルファスト・ネックロングは20年にわたって国家元首の地位にいる。

 議会の選挙はたまに行われたことを知ることが出来たが、大統領選については聞こえてくることがなかった。


 また、その高い技術力がどこから来ているのか不明な点が多い。

 その証拠がこの小型飛翔機の技術である。

 通常の技術力では考えられない代物だ。


 もともとモンデリヒトの周りには地下資源が豊富ではあった。

 「魔導力」を使用するに際しての効率のいい鉱石群が産出する地域が集中している。

 さらに、植物油ではない可燃性が高い燃料油も多く取れることから、「魔導力」と組み合わせての製品を効率よく作り、輸出している事実はある。

 単純に金持ちの国だ。

 だからと言ってここまでかけ離れた技術力を生み出される理由にはなるとは思えないと、ハーノルドは思ってる。


 考えられるその技術力は「バベルの塔」しかなかった。


 「バベルの塔」は各国に存在する。

 ただ、それがすべて同じものかどうかは分からない。


 とすれば、「バベルの塔」の考え方によって、それぞれの国の執政が変わるのかもしれない。


 ハーノルドは寝転がるブルックスにこの小型飛翔機を見せれば、並々ならない興味を示すことは解っていた。

 人はそれを血筋だというかもしれないが、ハーノルドはそれが間違っていることも解っていた。

 ブルックスには自分や父のミフリダスよりもはるかに高い才能を感じていたのである。


「アルク姉さんは大丈夫かな。」


 ブルックスは情熱的に自分を求めてきたアルクネメの唇の甘さを思い出し、一人赤面した。

 だが、それ以上にアルクネメの安否が気になった。

 あの「テレム」発生器の別の使い方を説明する暇がなかった。

 それが悔やまれる。


 「テレム」発生器は発生するだけでなく、リングとアイ・シートとの連動で「テレム」の濃度を三次元的の可視化することが出来る。

 ただ、そのための操作方法をうまく説明することが出来なかった。

 戦闘通信リングとの連動もあるため、単純にあの場で説明することが出来なかった。


 通信系統の連動が分かる「探索士」系の能力があれば、説明もできたのだろうが…。


「ブルはそんなにアルクちゃんが心配か?」


「当然だろう、父さん!かなり危ない作戦であることはミノルフ様が言ってたじゃないか。」


「そう、だな。ブル、もし仮に、だ。仮にアルクちゃんや「リクエスト」の現在に状況を見ることが出来るとしたら、どうする?」


 ハーノルドの言葉に、ブルックスは跳ね起き、ハーノルドが座っている作業台の横に立った。


「え、どういうこと?できるの、そんなこと。」


「だから、もし仮に、といっただろう。お前ならどうする?」


「見るだけかい、父さん?なにも、出来ないのか?」


 真摯な瞳でハーノルドを見るブルックス。

 そう、それが出来ることをまったく疑っていない瞳だ。


「通信は可能だ、としたら?」


「アルク姉に伝えたいことがある。もし、可能なら。」


 ハーノルドは一つ、大きくため息をついた。


「ミフリダス父さん!持って来てくれるか。」


 ミフリダスが両手に抱える大きさの機械をもって上から降りてきた。


「やっぱりブルックスに渡すことになったな、ハーノルド。」


 そう言ってミフリダスは作業台に抱えて持ってきたものを置いた。


「小型飛翔機だ。私と父さんでそう呼んでいるにすぎないがな。正式の名称は知らんが、モンデリヒト製であることは間違いない。」


「小型飛翔機?モンデリヒト製?」


「あの国の工業力は強いからな。どういう理屈か分からんが、空を飛ぶ機械だ。先日、修理調整が終わって、飛行試験も完了した代物だ。」


「なんでそんなものがうちにあるの?」


「バイクの時と一緒だ。うちが変な機械好きと知られているようで、壊れて使えなくなったものでも、珍しい機械を持ってくると、剣や盾の料金を払わなくて済むとか、何とか。」


「そりゃ、まあ、うちはそんな傾向があることは知ってたけど…。」


 ブルックスは微妙に納得した。

 だが、バイクはまだ実際に使われていることは知っているが、こんな空を飛ぶ機械など聞いたことがない。


「それにしてもこんな機械が早々手に入るわけないよ。大丈夫なの?」


「それは解らんが、とりあえずこの国では別に犯罪にはならん。どういう経路でこの機械がこの国に持ち込まれたかは知らんが、ハーメルン騎士団の副隊長だったかな、あの顔だけいかつい小心者のジューノとか言った騎士。奴が盾と剣の代金が足りないという事で置いてった。」


「ああ、あの日か。母さんがやけに機嫌の悪かった…。」


「まあ、その日なんだが。奴の隊に出入りしている交易業者が持っていて取り上げたそうだ。だが、どうもわざと見せて、体よく騎士団に押し付けたんじゃないかと、ジュノー殿は言っていたよ。で、ジュノーはジュノーで、このものの処分に困っていたところ、変な機械好きの鍛冶屋に代金代わりに押し付けようとして、まんまと成功したって訳さ。」


「それ、全然大丈夫じゃないよ、父さん!」


「当然だが、この大きさで持ち込まれたわけじゃないさ。部品がバラバラでな。でも運がいいんだか、悪いんだか、主要部品に問題はなくて、な。わたしとミフリダス父さんとで直すことが出来て、さらにパワーアップまでしてしまった。」


 ブルックスは呆れつつ、父親と祖父の顔を交互に見た。


 本当に、この人たちときたら。


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