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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第3章 「天の恵み」攻防戦 Ⅱ
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第27話 アクエリアス別動隊 崩壊

【警告!「魔物」多数接近!】


 前方に配備されていた3両の砲撃装甲車が一斉に動き出し、ガンジルク山に向かって突進していく。


 モナフィートは命令を出すこともできず、茫然としていた。


「何が、一体、何が起きているんだ…。」


 戦闘司令車から恐ろしい速さでモナフィートを抜き去る影があった。


 賢者「カエサル」。


 マントを脱ぎ去り、燃えるような赤い髪をなびかせ、長身の青年の姿があっという間に砲撃車にまで達していた。

 そのまま、その体が持ち上がり、宙を走り出す。


 巨大な「魔導力」を感じた。


 その風のような賢者「カエサル」の動きに、モナフィートは目を覚ましたかのように体が動き出した。


 飛竜隊が次々と飛翔していく。

 スンチャン隊長が敬礼しつつ、パートナーであるイーグルの背の乗り飛び立った。


「アクエリアス騎士団騎馬隊、1番から3番まで、賢者「カエサル」様を追え。他の部隊は戦闘司令車を防御。国軍は速やかにシールドを発生させ、対「魔物」駆逐弾を発射準備。」


 ガンジルク山の麓の森から多数の「魔物」達があふれ出てきた。

 まだほとんどが、モンキー級か、ウルフ級の足の速い奴らだが、量が桁違いだ。


 砲撃車はそれを無視するかのように、群れの中に突っ込んでいく。

 そして砲撃音がこだました。砲撃車はそのまま森の中に突進していく。

 森の先の方で微かに煙があがる。


「4番隊、「魔物」に向かい火矢を放て!」


 その瞬間、立て続けに轟音が響く。


 だが、先ほどと異なり、一切の警告なしの射出であったため、近くにいた国軍兵士が吹っ飛んだ。

 だが救助に向かうことが出来ない。

 さらに射出機から爆裂飛翔体が次々と放たれていく。


 騎士団の騎馬隊は、あふれ出てくる「魔物」達に、勇猛果敢に戦っている。


 モナフィートはあまりにも混乱する自軍の状況を確認するため、自分に割り当てられている戦闘司令車に戻った。

 壁に貼り付けられてるマップ上には「魔物」を示す赤い光点が、既に面になっている。


【飛竜隊スンチャン隊長から入電】


【繋げ】


【爆裂飛翔体が開けたと思われる空間から、巨大「魔物」出現】


【形状、級、報告せよ】


【ホエール級を超えています。推定15m以上。2つの首を持っています。以上、形状不明。】


 ホエール級などいくつかの文献に散見する程度、それよりも大きいメガ・ホエールは伝説上の「魔物」という捉え方であった。


 ガンジルク山のような「魔物」の巣窟と言われている箇所は世界中にあふれている。

 にもかかわらずその姿を見ることがないのは、こいつらがその巣窟から出る必要がないから、と考えられている。

 山の中の生物は全て巨大なやつらの餌だからだ。

 そして巨大な「魔導力」は自分より格下な「魔物」さえも餌なのだ。


 「魔物」の正確な生態は解っていないが、長く生き抜くことがその体を大きくし、「魔導力」も強めていくと思われている。

 そして「テレム」が多くないと、その体を維持することが難しいのではないかと言われている。

 つまり、テレムリウムを多く含む植物がないと、「テレム」が供給されない。

 それが自分の生息地から出ない、というか出ることが出来ない理由ではないかと仮説を立てる生態学者もいる。


 モナフィートは流石に詳しいことはわからない。

 ただ、誰もこんな巨大な「魔物」と相対したことがないのだ。

 対処法などわかる筈がない。


 この場所も既に安全ではない。

 このアクエリアス別動隊の国軍の最高司令官はアナシルク・ニールセンというまだ30代の中佐だ。

 基本、モナフィートの補佐が主任務になっているのだが、国軍の重要な任務である「バベルの塔」から貸与されている機械兵器の操作・管理である。

 それが今、完全にこちらの制御を離れ、勝手に「魔物」に対し攻撃を加えて現在の混乱を生み出している。

 その為、何とか国軍の制御下に機械兵器を戻そうと各方面に連絡を取ろうとしている。

 この現状を打開するための助言を求められるような状態ではなかった。


 戦闘司令車が思った以上に役に立たない。


 モナフィートは戦況を確認するため、そして先ほど確認された化け物をこの目で見るために、戦場に出た。


 戦闘司令車はこのアクエリアス別動隊の最後部に配置されているが、すでに「魔物」との距離はかなり近い。

 モナフィートは自分の兵装を纏い、部下から自分の愛馬シラバスを受け取り、その背に跨った。

 すぐに自分の横に部下のアンドレロとフリーシアがつく。


「戦況は?」


「全く不明です。そこら中に「魔物」が湧いて出てきている状態で、個別戦闘を余儀なくされています。数での対応が出来ていません。」


 フリーシアが答える。


 機械兵器である砲撃車は山に突進し、その後を追った賢者「カエサル」がどうなったのか?


 なぜ勝手に機械兵器群が攻撃を開始したのか?


 戦闘車両が壁を作って、比較的安全地域としていた箇所にも「魔物」達が取り付き始めた。


 統合司令という職責を忘れ、モナフィートは一人の騎士として「魔物」達に剣を振るっていた。

 アンドレロとフリーシアもそれに続く。

 とりあえず、この戦場を一望できるところに向かい、改めて作戦行動を考えなければならない。

 個人用も戦闘用もリングが混線しているようで、必要な情報が入ってこない。

 アイ・シートも情報量過多のためか自分の目が対応できない始末だ。


 その間も、爆裂飛翔体がガンジルク山に向け射出されていく。


 この機械が我々の制御から離れていても「バベルの塔」の制御下であることは間違いなく、「天の恵み」を巧妙に外して、その周りに落としている。


 その瞬間だった。


 スンチャンが報告してきた化け物の姿をモナフィートは捉えた。


 大きさも巨大であるが、その異形さは今までの「魔物」達を圧倒していた。


 「魔物」はその体に現れる赤い目が一つの特徴だが、○○級と付くことからもわかるように、見た目と大きさで名前を付けているところがある。

 つまり、禍々しいことはあるものの似たような動物がいることが多い。


 だが、この化け物は、まずその2つの長い首が異様だ。

 全身に赤い目を発現させているが、その2つの首も赤い目で覆われている。

 首の先にはトカゲのような蛇のような顔と、もう一つの首にはトラのような狼のような顔が、先ほどから大きな口を開け奇怪な声を発している。


 遠目だが、身体には鎧のような甲羅のようなものを胴体に覆っている。


 全体に黒い体に赤い目が無数にあり、その奇怪さはかなり距離のあるモナフィートに寒気を覚えさせるほどだった。


 今、その化け物の身体が赤さが増したように思えた。


 瞬間、何かが大気を切り裂くように動いた。


 直後、その化け物から、先ほどまで自分が乗っていた戦闘司令車の間が、寸断された。


「いま、…なにが、起きた…?」


「分かりません。ですが、あの化け物が何かしたのは、間違いないかと。」


 フリーシアが呆然としているモナフィートの問いに、答えた。


 戦闘司令車が火を噴いた。

 そして、まだ爆裂飛翔体を発射していなかった射出運搬機も切断され、爆発。

 その爆発が爆裂飛翔体を誘爆させ、そして連鎖的にその一帯が爆発していく。


 人も「魔物」もみな、火の海に飲み込まれていく。


 戦闘用通信リングが繋がった。


【ミノルフ、助けてくれ!】


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