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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第3章 「天の恵み」攻防戦 Ⅱ
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第26話 アクエリアス別動隊

 アクエリアス別動隊は、ここまで何のトラブルもなく、偶発的に「魔物」を数体葬っただけで順調に進んでいる。

 順調すぎて、野営地を目的地の手前100㎞に野営地を構えることが出来た。

 この野営の間も何事も無く静かに過ごせた。


 すでにシリウス別動隊が「魔物」の強襲を受けたことは報告が来ている。


 モナフィート・デム・ギルガメントは、部隊の行動が予定通りに進行していることに、少し退屈になっていた。


 モナフィートはアクエリアス騎士団副団長の職に就いている。

 そしてアクエリアス騎士団は4大騎士団で最多の7千人の人員を、この作戦に投入していた。

 これは、比較的アクエリアス騎士団内に不穏な動きがないことと、王都と外壁部の中心を管轄としていて、政情的にも安定していることも関係している。


 このアクエリアス別動隊のほとんどがアクエリアス騎士団であることから、モナフィートが統合司令としてその任についている。

 シリウス別動隊は三分の一が国軍である。

 その統率力には明らかな違いがあるとモナフィートは考えている。


 目的の場所までほぼ達している。

 あとは戦力を展開し、他の隊と連携するための準備に入るだけである。

 ガンジルク山の横に巨大建造物が聳えているのが分かる位置にいる。


「先頭の砲撃車が目的ポイントに到着!」


「了解。兵士輸送車、騎馬隊を予定通りに「魔物」に警戒しつつ、配置させろ。爆裂飛翔体運搬射出車、発射ポイントに移動。国軍に対「魔物」シールド発生器を展開後、本隊、シリウス別動隊と連携、一斉攻撃に入る。全ての兵員は所定の場所へ。」


 戦闘司令車のオペレーターの声に統合司令としてモナフィートは命令を発し、司令車から外に出る。そこには飛竜隊が羽を休めていた。


「イソヒ・スンチャン飛竜隊隊長はいるか。」


 その呼びかけに、緑色の飛竜のそばにいた騎士がモナフィートに駆け寄り、敬礼する。


「お呼びでしょうか、モナフィート司令。」


「5分後に跳べるように頼む。上空での監視、報告を密で連絡してくれ。もう暫くすればシリウス隊も上がってくるはずだ。連携も忘れるな。今回に関しては、特に功を焦らないように、隊員に周知徹底してくれ。」

「は!」


 どうしても飛竜隊の人間はミノルフが束ねるシリウス飛竜隊を必要以上に意識してしまう。

 仕方ないことだが、このような大軍では、功を焦ると隊列が乱れ、命を失うことになる。


 自分たちがある意味、陽動という事は理解していた。


 本隊があの巨大な「天の恵み」回収するまで、極力「魔物」の一部を行かせないということが、この別動隊の目的である。

 少し山から離れていることもあり、遠距離攻撃用に爆裂飛翔体を「バベルの塔」はこの隊に用意したわけだ。


 国軍から説明は受けたが、このようなものがあるなら、最初から「天の恵み」の周りに打ち込めばよさそうなものだが、「天の恵み」回収を無傷で行いたいという事の他に、この飛翔体そのものの数が少ない、いわゆる虎の子なのだと国軍から説明は受けている。


 このアクエリアス別動隊の顧問でもある賢者「カエサル」は、自分とは違う戦闘司令車に乗って、戦況の観察を行うとの事だ。

 遠距離支援を目的とするこの別動隊において、それが一番効率がいいらしい。


 まだ、作戦開始まで20分。

 シールド発生器を展開し、調整を繰り返している。

 少し後方に4つの砲門を上空に向けた爆裂飛翔体射出機が全部で80。

 320発を一斉射出するために、国軍の兵士が走り回っている。


 その爆裂飛翔体がどれほどの威力があるのか、モナフィートは知らない。

 発射機構は「魔導」を一切使用していないらしいという事は聞いているが、理屈は全くわからない。

 ただ、このようなガンジルク山の「テレム」や「魔導力」の影響を受けないため、この異常な「テレム」量のある地域での作戦には、必要不可欠らしい。


 そう思いながらこの射出機を見ていた。すると急にアラーム音がこだました。


 「魔物」か?


 自分のアイ・シートには全くその兆候はない。


「警告!爆裂飛翔体、射出体制にフェーズ移動。目的ポイント、ロック・オン。直ちに準備兵員は退避!繰り返す。爆裂飛翔体、射出準備完了。準備兵員は退避!」


 電子声帯が警告を繰り返す。


 モナフィートは慌てて賢者「カエサル」のいる戦闘司令車に飛び込んだ。


「何事ですか!賢者「カエサル」。射出機が稼働を開始しています!」


 そこには真っ青な顔をした賢者が棒立ちしていた。


「私にもわかりません…。今、「バベルの塔」と連絡を取っているんですが。」


 その直後、轟音が戦闘司令車の中に広がった。


 モナフィートは司令車から出てその正体を見る。


 先ほど動き出した射出機の周りが、砂埃と焼ける匂いに囲まれている。


 射出機の先に施されていた蓋のような封印が無くなり、何もない空間がそこにはあった。


 モナフィートは射出機が向いている方向に、慌てて視線を送った。


 火を拭きながら空を飛ぶ巨大な矢が4本、聳え立つ「天の恵み」の右側に向かい拡がっていった。


「あれが爆裂飛翔体。」


 やがてその4本が森の中に消え、一瞬後、爆発音が轟いた。


 アイ・シートが真っ赤になった。


【警告!「魔物」多数接近!】


 前方に配備されていた3両の砲撃装甲車が一斉に動き出し、ガンジルク山に向かって突進していく。


 モナフィートは命令を出すこともできず、茫然としていた。


「何が、一体、何が起きているんだ…。」


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