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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第2章 「天の恵み」攻防戦 Ⅰ
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第25話 新たなる戦場

 今回のユスリフル遭遇戦での人員的な損失は、思ったより大きかった。

 今後の戦闘よりも、国家運営に多大な損失だ。

 ミノルフは政治家ではないし、政治家になるつもりもない。

 だが、「特例魔導士」の損失はあらゆる分野の才能を無くしたようなものだ。

 特にアルクネメ、オオネスカの成長をこの目で見た今、その損失に目が眩むほどだ。

 そしてこれからの戦いを思うと自分に何ができるのか、真剣に考えてしまう。


 あらかたの学生はこの戦いで成長はしたことだろう。

 だが、その成長で、ガンジルク山の奥深くにいる、巨大な「魔物」とどこまで戦えるか。

 それよりも生きて帰ってこられるのか。


 ミノルフはエレファント級までは戦ったことがある。

 しかし、文献上に存在するホエール級、メガホエール級というのも存在するらしい。

 山の麓は比較的弱い「魔物」が、場合によって、山から捕食対象を求めて出てくることがある。

 しかし、巨大で強力な「魔物」は、山の中の生物がすべて捕食対象であり、また自分と同等または、より巨大なものはお互いが捕食対象ではないので、身の危険を考えることは少ないらしい。

 つまり、人間がガンジルク山の奥に踏み込まなければ、出会うことはない存在なのだ。


 だが、今回は事情が違う。


 山頂まで行く、という訳ではないが、山の麓から最短でも1200m。

 現在計画されているコースだと2100mである。

 砲撃による大まかな土木工事を行うが、その後の車両が走るための整備にどれくらいかかるか。

 その間の「魔物」達の攻撃をしのぎ切れるかが、今回の作戦の一番主要な話だ。

 できうることならその走行用の道の幅を広くとって、移動車両を両側に配置して、運搬車両への直接の攻撃を避けたいところだ。

 しかも作戦終了時刻の18:00は、陽が沈むギリギリのところである。

 「魔物」達が活発になる前に終わらせるという大前提になっている。


 すでにミノルフとペガサスの眼下には、「天の恵み」がその姿を見せている。


 だが、様子がおかしい。

 先程からミノルフの耳に爆発音が聞こえてくる。


 「天の恵み」は銀色に輝く、その卵型の巨大な物体で、山の麓から少し入った感じのところに突き刺さるように鎮座していた。

 着陸の衝撃の所為か、その周りには本来ある筈の木々が全くなく、山肌が露出している。

 よく見ると焼け焦げたような黒いすすのようなものが、周辺に散らばっていた。


 今、その周囲に何かが飛んできては、爆発を起こし、火柱と黒煙が認識できる。


 その飛翔体が来る方向を見ると、上空に砲門を向けている特殊車両がかなりの数を展開させていた。

 その周りを明らかにクワイヨン国の兵士と見られる人々が右往左往している。


 そこからまた、何かを発射した。


 ミノルフのアイ・シートにかなりの数の「魔物」達が迫っている。


 間違いない、アクエリアス別動隊の兵士たちだ。


 まだ作戦開始までは時間がある筈だ。


 なにが起こっている?


 アクエリアス別動隊の見たことのない特殊車両は、今回の作戦でアクエリアス別動隊に「バベルの塔」が特別に貸与したとされる、「爆裂飛翔体射出機運搬車両」だと思われるが、射出された爆裂飛翔体の威力はかなりの物のようだ。

 「天の恵み」をよけるように打たれたその場所の木々は跡形もなくなり、通常の生き物も「魔物」も吹き飛ばされている。

 問題は何が起きて、作戦時間前に戦闘を開始しなければならなかったのか?


 統合司令はモナフィートのはずだが、奴がこんなに簡単に作戦をないがしろにするやつではない。

 同行の賢者「カエサル」の命令か?


 混乱しているためか、アクエリアス別動隊への呼びかけに戦闘通信リングに応答がない。


「天の恵み」の巨体に視線を移すと、体表に赤い目を所々に浮き上がらせている「魔物」が数体取り付いていた。

 大きさが実感できないが、トカゲのようにその銀色に輝く表面に張り付いた「魔物」は首が二つに割れているように見える。かなり巨大なようだ。


 シリウス別動隊の作戦ポイントにもう間もなくつくであろう、その隊列も見えた。


 先頭に巨大な砲門を持つ砲撃装甲車両が5台。その後ろに国軍の移動車両、20人乗りの「魔導力」によって推進する車両が多数。

 その横と後ろにシリウス騎士団の騎馬隊が続き、その後ろにルーノ騎士団、ラバウル騎士団、ハーメルン騎士団、他計12の地方騎士団の騎馬や、馬車が続いている。

 そのさらに後ろに「バベルの塔」の移動車両18両が続き、最後方に、戦闘司令車3両となる。

 充分に立派な数ではあるのだが。

 この多大な車両と騎馬隊の配置が、作戦遂行計画通りに展開できる地形かは、考えた本人であるが難しいように思う。

 ミノルフは、この近辺の地形の資料が再三の要求にもかかわらず、「バベルの塔」からも、クワイヨン国の資料課からももたらされることがなかったからだ。


 本来の予定通りの時間に作戦を開始したとして、まずは砲撃から始まる。

 砲撃車両の進みに合わせて国軍兵士が展開。それを守るようにシリウス騎士団を動かし、後方の守りを他の騎士団が担当。

 学生と「冒険者」の移動車両はそのまま進ませて、出来れば砲撃車の10分程度後ろに着くのが理想か?


【戦闘司令車より急伝!】


 戦闘通信リングが予告なくメッセージを脳に叩きこんできた。


 アクエリアス別動隊からの応答はなかったが、別の形でミノルフが待っていたものが来た。


【何事か!】


【アクエリアス別動隊、「魔物」より強襲!戦列瓦解】


 アクエリアスが、敗走?


 飛翔体は発射されていたようだが…。


【アクエリアス騎士団団長代理、モナフィート卿から入電】


【繋げろ】


 アクエリアス騎士団7千人を束ねる男だ。


【ミノルフ、助けてくれ!】


 絶望の声だった。


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