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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第2章 「天の恵み」攻防戦 Ⅰ
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第24話 戦場の野営地 Ⅳ 戦況報告

 オオネスカはそのまま飛竜のエンジェルの背に乗り、飛び立つ。

 空いた席にサムシンクが座った。そのサムシンクをオービットがいたわっていた。


 空を飛ぶオオネスカの横に、飛竜のペガサスに乗るミノルフがついた。


(ミノルフ、申し訳ないことをした。インデライルを助けることが出来なかった)


「仕方のないことだ。エンジェルのことだから、危険を回避しようとしたんだろう。インデライルが君についていくことが出来なかった。まだ飛竜隊に入って間がなかったからな。」


 ミノルフは、エンジェルを慰めるように穏やかに言った。


「君はアルクネメのオオネスカ・バッシュフォードか?」


「はい、ダルク元飛竜乗りの騎士の身内です。」


「ダルク元飛竜大隊隊長はバッシュフォード伯爵家の出身だったな。」


「はい。引退してからも、エンジェルが遊びに来てましたから。小さい頃から背中に乗せてもらって遊んでくれたんです。」


「ほう、エンジェルは当時全飛竜のボスで、かなり恐れられていたんだが、飛竜からも人からも…。子供好きだったか?」


(恥ずかしいことを言うな、オオネスカ)


「まあいいだろう。慣れていたから、あの危ない時に助ける事が出来たんだろう。特例だが、「特例魔導士」の特権だ、オオネスカ。エンジェルのパートナーと認める。一応、シリウス騎士団麾下に属する形だが、自由に行動することを、このシリウス騎士団飛竜大隊隊長キリングル・ミノルフの名において認める。」


【オオネスカ・ライト・バッシュフォードをシリウス騎士団飛竜大隊特別遊撃隊として認可。自由行動をミノルフ隊長の命により認める】


 戦闘運用リングがオオネスカの立場を認める。


「頑張れよ、オオネスカ、エンジェル!」


 そう言葉を残し、騎士団に合流するべく離れていった。


(エンジェル師匠!ご武運を‼)


 ペガサスもまた、激励を告げる。


(まず、この戦いを生き抜かんとな、オオネスカ)


「はい、よろしくお願いします。」


 オオネスカとエンジェルは自分のチームメンバーの乗る移動車両の上空に同じ速度で飛び続けた。


ー--------------------


「今回の遭遇戦で死者が国軍73名、シリウス騎士団3名、他騎士団18名、クワイヨン高等養成教育学校学生20名、戦闘不能負傷者は131名に上ります。」


 国軍第3大隊所属情報第2小隊に籍を置く准尉がバイエルに報告した。


「現在戦闘不能者は移動車両2台を用い、セイレイン市に向かって帰還させています。遺体に関しては現地で荼毘に伏せました。遺族に対しては遺品のみを帰還させた車両に同乗させてます。セイレイン市にて、現地の残留国軍後方担当が処理をする予定です。」


「了解した。残っている学生のチーム編成はどうなっているか?」


「ある程度のチームの編成は行えましたが、残っている学生はそのまま、国軍と同行、戦闘中は国軍の管理下に入ります。」


 250名余りが戦線を離脱。

 ここで2%近くの戦力の低減。

 あの程度の「魔物」相手に…。


 バイエルは頭を抱えてしまった。

 特に「特例魔導士」たるものが1割も死亡してしまった。

 いくら初陣の戦士の死亡率が高いと言っても、もともとの才覚ある筈の貴重な人間が…。


 確かにその初陣で、間合い以上に離れた相手を損傷させるロングソードや、空中浮遊術を使いこなす学生がいたという。

 さらに、飛竜乗りが死んだ直後に、その飛竜を乗りこなす学生まで出てきている。

 ある意味、戦力の底入れにはなっているのかもしれない。

 だが、その学生も、これから入る領域内でうまく戦えるものなのかは、疑問以外ない。


 国軍単独の戦闘であるなら、作戦の作りようもあるが、騎士団はまだしも、普段チームで動く「冒険者」や実践を知らない子供である学生の戦力をもとに、作戦を組み立てることなどできるはずがない。


 「バベルの塔」の機械戦力で大まかな土木工事を行い、その後に、国軍で「天の恵み」回収用運搬車を通せるように整備をする。

 騎士団が邪魔をする「魔物」の討伐をするという基本戦略は変更はない。

 今のところ、今回の被害の報告とともに情報共有を行い、本隊、アクエリアス別動隊ともに今のところ遭遇戦にまではいっておらず、出てくる少数、弱戦力の「魔物」を狩った程度に過ぎないらしい。

 当然戦力の損失は0。

 こちらの隊とは偉い差だ。


 ただ、これは偶然ではなく学生達「特例魔導士」の存在が、「魔物」を引き付けたという事らしい。

 「バベルの塔」執政者の判断なのだろう。

 この考えを勧めた場合、実際の作戦の主体、運搬車の通路確保時、邪魔をするはずの「魔物」は、このシリウス別動隊に惹きつけるつもりではないのか。

 この隊自体が巨大な撒き餌になっているのではないかと考えてしまう。


 バイエルはこのクワイヨン国のためには、「特例魔導士」が必須であることは十分承知している。

 だからと言って、その「特例魔導士」を目当てに「魔物」が集まってきて、一般の兵士が殺されるという事には到底耐えられない。

 自分の心の中の矛盾に整理をつけなければならないが、では「特例魔導士」を守って国軍兵士を殺すか、国軍兵士を守って「特例魔導士」を見捨てるか?


「現時点で、野営地出発の遅れは取り戻しています。大きな戦略上の変更はありません。」


「了解した。」


 准尉は一礼して、戦闘司令車内の別室に移動した。


 現着まで1時間。


 ふたつの太陽が照り付けるこの地に、今のところ「魔物」達が襲い掛かる気配はない。

 太陽の下では、奴らはあまり活発には動かない。


 上から周囲の監視をしているミノルフ統合司令からも、緊急の連絡は入らない。

 現場到着後が、本当の戦争になる。

 バイエルは自分の前に置かれてるコーヒーを飲み干す。出来れば酒の力を借りたいと本気で思った。


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