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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第2章 「天の恵み」攻防戦 Ⅰ
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第23話 サムシンク・オオキ

 東の空が少し明るくなって来た。

 野営テント自体は無事であったが、焚火のあった場所には移動車両が陣取っていた。

 既に乗り込んでいる者も多い。


「おお、無事そうで何よりだな、アルク。」


「バンス殿、お見事でした。戦い方、非常に参考になりました。」


「そのようだな。ロングソードをいきなり使ってるのを見たときには、こっちは腰が抜けそうになったよ。」


 そういいながら、水で湿らせてあるタオルを渡された。

 礼を言って受け取り、浴びた血をぬぐう。


「嬢ちゃんはそっちのほうが似合う。血だらけの顔は、正直悪鬼に見えたよ。」


「褒め言葉として受け取っておきます。これからのことを考えると、この戦いの比ではないでしょうから。」


「いい根性だ。たぶん、もっと山の中に入ることになる。あのタイガー級が蚊トンボ程度に思えるような「魔物」たちがウヨウヨ出てくるはずだ。」


 目的地方向に目を向け、バンスは少し厳しい表情をした。


「お、嬢ちゃんの上司の帰還だ。」


 オオネスカを背に乗せた飛竜が舞い降りてきた。


 アルクネメは直ぐにオオネスカのもとに駆け寄った。


「先輩、飛竜に乗れるんですか?しかも、乗ってすぐにベア級を二頭も仕留めて!」


 飛竜から華麗に飛び降り、オオネスカが飛竜の頭を撫でている。


「紹介するわ、アルク。彼はエンジェル。私の大叔父にあたるダルク元騎士のパートナだった飛竜よ。」


(お嬢のパートナーとして、お嬢を守ることを約束するよ。エンジェルだ。よろしく、アルク)


「オオネスカ先輩をお願い致します。エンジェル。」


エンジェルが優しく笑った。


オービットとアスカがテントから顔を出した。


中には見たことのある女性の上級生が肩に包帯をして座っていた。


「お帰り、オオネスカ、アルク。ちょっと、けが人を見ててね。オービットがいてくれると、細かい部分の損傷がハッキリ見えて、やりやすいよ。」


 アスカが現状を説明してくれた。


「ああ、アルクは初めてかな。リジング先輩のチームにいたサムシンク‣オオキ。私たちと同じ5年生。防御剣士よ。幸いタイガー級の爪を肩に受けただけで、他は大丈夫そう。」


 座っていた女性は軽く頭を下げて、アルクネメに挨拶をする。

 アルクネメも慌てて礼を返した。


「ただチームの半分はそのタイガー級にやられて瓦解して、「冒険者」に助けられた後の処置を私がしてたとこ。」


 その声にサムシンクの目から涙が落ち、すすり泣きの声が聞こえてきた。


「こういう状態だけど、これから彼女をうちのメンバーに加えたいんだけど、オオネスカ、いい?」


 アスカがアルクネメの後ろから見ていたオオネスカに聞いた。


「ええ、問題はないけど、サムシンク、できそう?」


 泣いていたサムシンクが顔を上げ、しっかりした瞳でオオネスカを見る。


「仲間の敵を、とりたい。」


 シンプルに答えた。


(この状況で新しい人間を入れて連携はできるのか)


「大丈夫よ、エンジェル!こちらには「探索」のオービットがいるから。よろしくね、オーブ!」


「任せて!もう、同調は終わったから。」


 アルクネメは帽子を外し、ヘアーバンドで留めていた「テレム」発生器をサムシンクに渡した。


「これ、「テレム」発生器というんですけど、今の戦闘で実証済みです。是非、先輩も使ってください。」


「えっ!」


 驚いて、オオネスカに視線を向けた。


「アルク、いいの?」


 オオネスカはサムシンクではなく、アルクネメを見て、確認した。

 そして、サムシンクに視線を移し、頷く。


「サムシンクには何のことかはわからないわね。」


 オオネスカは自分の持っている、今サムシンクが持っているものと同じ円盤のような装置を見せる。


「これはね、アルクネメのボーイフレンドが作った「テレム」発生器らしいの。事実、この装置を握ると、リングの「テレム」量が格段に増えている。しかも今の戦いで自分の力とは思えない戦果をあげた。サムシンクもアルクのロングソード現象は見たでしょう。彼女はまだ3年よ。」


 オオネスカの言葉に、驚きの目をアルクネメに送る。


「あのロングソードが3年生でできる、ものなの?」


「実際にやって見せたわよね。そのあとも空中に足場を作って、空を駆け上がっていったわ。」


「先輩、褒めすぎ。それにブルはただの幼馴染み…。」


「今さら幼馴染みは通らないでしょう。マリオと違って「男」なんて表現しないだけで、感謝なさい!」


「はい、ありがとうございます。」


 いまだにサムシンクはアルクネメを見つめていた。


 自分たちが「魔物」に攻撃されている中、戦場を駆け抜け、タイガー級を仕留めた姿は確かに脳裏に焼き付いていた。


「ありがとう、アルクネメ。使わせてもらうね。使いこなせるか、不安だけど…。」


「とりあえず握ってみて、リングの値を見てください。肩の痛みは大丈夫ですか?」


「アスカのおかげで、ほとんど痛みは感じないけど、違和感は少しあるかな。」


 アルクネメはその発生器を右手に握り、サムシンクの包帯の上から、かざしてみた。


 「テレム」の量がすぐに上がる。


「アスカ先輩、肩の調子をお願いします。」


「OK!ちょっと触るよ。」


 すぐにアルクネメはアスカと交代する。


「あ、いい感じ。」


 サムシンクが自分の肩の調子が格段に良くなっていくのを実感した。


 アスカは、肩の関節部と周りの筋肉が正常に稼働していることを確認した。


「アルクネメはすごいな。剣士でなく、医療者としても活躍できそうだ。」


「違います。今のは「テレム」をそこに留めて、アスカ先輩の仕事がしやすいように環境を整えただけです。その後にアスカ先輩がサムシンク先輩の肩の調子を考えていたことに「テレム」が反応して、結果的にサムシンク先輩の調子がよくなったんですよ。」


「言ってる意味は理解できるけど、そんな使い方ができるのか?」


「長時間は無理ですが…。」


 アスカは感心したようにアルクネメの手元にある「テレム」発生器を見て、自分が渡された同じものを見つめた。


 これがあれば、もっと広い治療の可能性があるということ、なんだな。


 アスカは未来の医療に関して、その可能性を広げてくれるかもしれない装置と、これを開発した少年を思い浮かべていた。


「日の出が近い。このテントを撤収しろ!」


 外から、国軍の兵士と思われる男の声に、その場にいた4人が立ち上がり、テントを出た。

 既にオービットとマリオネットが当たりを片付けている。


 ここで亡くなった者たちは、そのまま遺体を焼かれていた。

 4人はそちらに向かい、しばし黙祷を行ったのち、撤去を手伝った。


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