第50話 ハスケル家の歴史 II ミフリダスとマゼンダ
PCが壊れて、書いていた文が全て回復不能になりました。さらにせってを書いた部分も一部消えたため、ひと月異常かけない状態が続きました。PCがWindowsからMacになり、未だなれません。
気長に付き合っていただけると嬉しいです。
まずはフランツ帝国皇女、マゼンダ姫について話しておいた方がいいようだね、ハスケルくん。
マゼンダ・フォン・フランテ。
当時のフランツ帝国の第2皇女として誕生。
12歳の時の帝国において「特例魔導士」と認定されたことにより、皇位継承権が剥奪された。
ただ、それでもその美貌と剣術、そして類まれな「魔導力」の大きさが、帝国民より「疾風の皇女」と呼ばれるようになる。
フランツ帝国から砂漠を越えた場所にアララギ大森林が存在する。
知っての通り「魔物」の巣窟と呼ばれるガンジルク山も脅威ではあるがこのクワイヨン国からそれなりの距離がある。
だがアララギ大森林はガンジルク山より多くの「魔物」が存在し、いわゆる3大「魔物」生息地といわれ、警戒レベルが4を記録する土地だ。
とはいえフランツ帝国から1日という近距離にあるにも関わらず、大気中の「テレム」濃度が極端に低い砂漠の存在がフランツ帝国の安全をある意味保障していたんだ。
あの大暴走があるまでは、ね。
マゼンダ姫が高等教育養成学校卒業時に帝国軍統括部に配属され、すぐに対「魔物」討伐部隊に仕官している。
皇族であるから当然ではあるが、それ以上に「特例魔導士」としての才能を買われている。
事実配属後すぐの第105アララギ大森林討伐作戦時には、エレファント級を含む「魔物」を3体を隊長を務める小隊で葬っている。
フランツ帝国には帝国軍と「バベルの塔」直轄軍があるのだが、クワイヨンと違い騎士団は存在しない。
その代わりに多くの冒険者チームが存在する。
冒険者と呼ばれる職業の内容は多岐にわたる。
「魔物」討伐は当然として、商人たちの物品の輸送の警護、交易ロードを使うことのできない理由を持つ旅客者たちの護衛、これは時に隠密に移動を余儀なくされる重要人物であることも少なくない。
その国によっては自警団的な依頼を受けることもある。
さらに公的機関からの依頼、大は「リクエスト」から小は行方不明者の捜索まで。
他国の情報収集といったその国においては重犯罪に当たるものまで、様々であった。
フランツ帝国において、冒険者を多く抱えているのはその地理的要因に帰することが大きい。
3大「魔物」生息地アララギ大森林。
フランツ帝国の辺境城壁都市ディープフルから徒歩で3日しかかからないという距離は非常に重要だ。
「魔物」が持つ外殻や硬質の牙や骨は、高価な素材として買取されている。
その「魔物」によって価格は異なるものの、A級の「魔物」であればその肉は非常に美味とされ重宝されている。
砂漠を往復しなければならないが、砂漠用の装備を整えている馬車や、通常の馬よりもこの砂漠に適した馬力のあるキャメル・ギガをレンタルできればかなりの物量を輸送することが可能だ。
この地理的有利によりフランツ帝国には多くの冒険者が集まり、そのための武具・装備を取り扱う商人の往来が増える。
人が集まれば当然のようにその人たち目当ての飲食業、歓楽業、宿泊業が賑わい、さらにそれらの経済を動かすための情報を扱う者が集まってくる。
経済が好循環するいい例でもあった。
冒険者が多くなれば、そこに衝突が起こるのもまた必然だった。
特にフリーランスの傭兵といってもいい立場の猛者も存在している。
結果「バベルの塔」主導で「冒険者ネットワーク」が組織されることとなった。
もともと各国にそれに近い組織があったのだが、それを統括・再編が行われ、ルールが作られた。
基本的には登録すればすぐに冒険者として活動はできる。
「バベルの塔」が主導したこともあり、「リング」と連動しておりその管理は厳密に行われている。
素材の売買、依頼の達成確認、ランク更新などの本人がその場にいなければ処理できないものに関しての窓口、また戸籍関連、「魔導力」のレベルなど市民の一般的な事務を行う場所も各国に数カ所存在している。
これは政府行政も関係していることから、公的事務一般総合管轄所、通称「オアシス」が設置された。
この「オアシス」の名称は、冒険者という荒事の専門職を生業とするものが、一般市民に恐れられていながら、同じ場所に居合わせなばならないことから、その暴力ごとを抑制するために「鉄のヒト」が配置されていることに由来する。
つまり、どのようなものもこの場では恐怖を感じる必要なく、心穏やかにできる、というものを目指したためだった。
必ずしもその目的が完全に遂行できているかは、訪れる者が感じることだろうがな。
そして、この「冒険者ネットワーク」そして「オアシス」が発足した初めての国がフランツ帝国だったということだ。
かなり話が傍に逸れてしまったな、ハスケルくん。
そんなフランツ帝国の帝国軍に在籍したマゼンダ姫は、基本的にはアララギ大森林のフランツ帝国方面の「魔物」の監視を行い、そこに顕著な動きが現れた時には、即座に対応する小隊の隊長を務めていた。
彼女の対「魔物」行動は恐ろしいほどの実績を上げていった。
やがてマゼンダ姫は「疾風の皇女」と呼ばれるに至った。
それほどにも圧倒的だったのだよ、マゼンダ姫、君のおばあちゃんはね。
マゼンダ姫は帝国軍の部隊だけで対処した時もあるんだが、冒険者とも連携を行ったことも少なくない。
本来フリーランスの彼らを圧倒的な指導力で作戦を実行したと聞いておる。
それだけの実力があるマゼンダ姫なんだが、かなりの「魔物」が帝国から近い森林に集結しているという情報が「バベルの塔」からもたらされた。
緊急「リクエスト」がかかり、他国からも多くの冒険者が参加することになった。
ディープフル殲滅攻防戦。
名前くらいは聞いたことがあるんじゃないか?
もっともその後の「大暴走」の影に隠れてしまってはおるがな。
今から45年ほど前のことだ。
「バベルの塔」からも重装備品が貸与された大がかりのものだった。
その招集された中に君のお爺ちゃん、ミフリダス・ダイモン・ハスケルだった。
このクワイヨンから参加した13人の冒険者筆頭としてな。
そんな顔をしなさんな、ハスケルくん。
ミフリダス氏は鍛治職人としてはまだそこまで名は売れていなかった。
というよりその父、ハスケルくんからしたら曾祖父に当たるサージカル氏が現役でやっとって、まだ修行中じゃったからな。
それよりも「ハスケル工房」が作り出す剣、刀、槍、盾、他の各種武具の扱いに異常な才能を出していた。
結果的にはミフリダス氏とマゼンダ姫の連携があの国を救った。
ディープフルという都市名がついていることから分かるように、実に城壁の1kmまでに「魔物」たちが迫る結果になったからね。
集結していた「魔物」の大半は森林内で駆逐できたんだが、約50体ほどの「魔物」たちがフランツ帝国に迫った。
もっとも全く「テレム」のない砂漠を走らせることによる、「魔物」たちの生命力の枯渇が目的という危うい作戦ではあったという話ではあるがな。
そこから二人は恋をして、そのままこの国にマゼンダ姫を連れて来たっていう話だよ。
その後、フランツ帝国・クワイヨン国・「バベルの塔」で会談があり、紆余曲折してマゼンダ姫は皇女としての国籍を剥奪、マゼンダ・センジュ・ハスケルとして「ハスケル工房」を手伝うことになった。
ミフリダス氏も冒険者を引退、正式に「ハスケル工房」を継ぐことになった。
幸せな家庭を築いた二人にとっては幸せな日々だったと思うよ。
マゼンダ姫は「特例魔導士」だから、その責務は負ってるけどね。
そして、運命の日、「魔物の大暴走」が起こったんだ。




