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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
狂騒曲 第3章 新入生歓迎会
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第38話 激励の言葉

「今回は14名の新入生を我々の「アルス寮」に迎えることになった。様々な新入生がいるが、歓迎する。」


 この寄宿舎の自治長サダムス・アルトがそう第一声を発した。


「続いてこの寄宿舎の管理をしている、マーネット・ムル・ラーシェン管理長よりお言葉を頂く。お願いします、マーネット様。」


 そう言って演壇からサダムスが退き、マーネットが代わりにその小さめの身体を見せた。

 その後をメルナが続く。

 二人ともパンツルックのスーツ姿だ。


 学生たちは指定されたテーブルの周りに立って演壇を注目している。

 新入生14名はその演壇に一番近いテーブルを囲んでいた。

 新入生に限らず、年次とフルネームが書かれたプレートを左胸につけている。


 ブルックスは既にスコットは知っているが、他の12名は初めて見る顔だ。

 入学式にいた貴族様もいないところを見ると、もう一つの「テクネ寮」であろうと推測する。

 この12名も幼そうで、15歳に達しているものもなさそうだ。

 そうするとどうしても自分という存在が、ここに異質であることを思い知らされる。


「みんな入学おめでとう。既に入学許可書を手にした君たちは立派に「特例魔導士」となりました。この6年間で、その才能をしっかり伸ばしてください。アルト君が堅苦しいこと言ってたけど、最低限の規則をしっかり持ってくれれば、多少は羽目を外しても多めに見るからね。」


 瞳からハートマークで飛ばしそうな感じでウインクするマーネットを見て、ブルックスも少々頭痛がしてきたが、すぐ後ろの諸先輩方も思いは同じらしく、「ちょっとイタイな」という呟きが聞こえてきた。

 さらに隣のテーブル、きっとこの学校の教員と思われる体格のいい男性数名が頭を抱えていた。

 王族の一員であるマーネットの自由というか、演じるその姿に苦言を呈することも出来ないのだろう。


「みんな!これからはお互いがライバルでもあるけれど、同士でもあることを忘れないでね。卒業後、要職につく皆さんはお互いを助け合ってこのクワイヨン国を守っていく人たちだ、という事を忘れないで下さい。」


 そう言うと、後方から拍手がなり始め、ブルックスも慌てて拍手した。

 それに照れたようにしてマーネットが「てへへ」と可愛いと自分で思っているであろう表情を作る。

 実年齢を考えると、皆年下である寮生は苦笑している。


「今朝がたの騒ぎは知ってる人も多いと思うけど、ああいうことしちゃだめだよ。「盗むな、殺すな、犯すな」は大原則だからね。」


 マーネットが可愛い表情を作って物騒なことを言っているが、それは法律でも、宗教でも大原則だ。

 ただし中等教育を終わっていない少年たちにはいまだピンとは来てないだろう。

 ブルックスは大上段に言う言葉と、その可愛らしさを極端に前面に出す寮長、マーネットに先輩同様苦笑せざるを得ない気分だった。


「さっきの模擬戦が急に決まって、みんなも結構お腹空いてるよね?でも、もうちょっと待ってね。まず、新入生たちがこれからよく顔を合わせるかもしれない3人の先生を紹介します。先生方、こちらの壇上までお越しください。」


 隣のテーブルにいた男性3人が移動し、演壇に上がる。

 後には2名の男性が残った。

 一人は国軍の礼服を着ている知った顔の人物だった。

 サモンズ・ミリネル曹長。

 警備隊として顔を出しているという事だろう。


 もう一人は背の高い痩せた人物だ。

 見るからに高級官僚という感じだが、この学校とどうかかわっているのだろうか。ブルックスは不思議に思った。


「では紹介します。右端の騎士の礼服を着ているごついおっさんが、ウラヌス騎士団所属王宮警護隊にも名を列ねるアーク・ヨムンド講師。主に剣術や格闘術を担当します。2年間限定ですが、この人の技術はどんどん吸収してくださいね。確か魔導士としては中級ですけど、「特例魔導士」である君たちより明らかに強いですから、侮らないように。ヨムンド先生、一言お願いします。」


 そう言って中央に出るようにマーネットが場を譲る。

 軽くため息をついて、アーク・ヨムンドが前に出た。


「諸君!今、マーネット皇女から紹介を受けたアーク・ヨムンドだ。ここの講師を務めるのは今回で3回目になるが、卒業生たちは皆立派に職務を遂行している。すでに私が敵わぬ奴らばかりだが、学生の時に私に勝つことが出来た奴は5本の指で足りる程だという事を、皆に伝えておこう。私は「特例魔導士」ではないが、「特例魔導士」という肩書に惑わされて修練を怠る者はすぐに痛い目を見ることになる。覚えておくように。この言を持って新入生、および今この場にいる学生全てへの挨拶とさせていただく。以上!」


 戦いに身を置く男ならではの言葉だとブルックスは感じた。

 「天の恵み」回収作戦時に多くの学生がその命を落としたと聞いている。

 この騎士がその戦いにいたかどうかはともかく、この学校に来て「特例魔導士」と認定されたと有頂天になっているものは、そしてそうじゃないものを軽く扱うことが、いかに危険な行為かという事を解いている。

 さて、どれほどの学生がその想いを受け止めることが出来たのだろう?

 ブルックスは甚だ疑わしい気分であった。

 力の籠らない拍手を背に悠然とアーク・ヨムンドは演壇から降りてきて隣のテーブルについた。


「実戦を経験した騎士ならではのお言葉をありがとうございます、アーク・ヨムンド先生。では続いて、魔導力全般を教えていただけるソウルフル・アリ・ダウンクリムゾン先生のお言葉をお願いします。ダウンクリムゾン先生はこのクワイヨン国立大学でも教鞭をとられている、わが国でトップクラスの魔導士です。では、ダウンクリムゾン先生、お願いします。」


 マーネットからそう紹介されたスーツ姿の眼鏡をかけ、やけに額の広い神経質そうな人物が演壇に立った。

 演壇に両手をついたのだが、その左手は金属特有のシルバーメタルの輝きを放っている。

 防具というにはいささか細かった。


「義手、か。」


 気付かずそう呟いたブルックスに、同じテーブルのスコットをはじめ、周りの新入生がこちらを見た。

 そのことで自分が無意識に呟いてたことに気付いた。

 演壇を見ると、その細い目がブルックスに向けられていた。

 暫くブルックスを見ていたが、軽く息を吸うと、その眼差しを会場全体に向けなおす。


「この学校で教鞭をとって結構な時間が過ぎた。上級生は知っていると思うが、新入生は私の左手に驚いた者も多いと思う。そう、この左手は肩から先が義手になっている。基本的には私自身の「魔導力」で動かしているが、補助として「魔導力」で発生する磁場を用いた電気も使用し、非常に快適に生活をしているので、新入生も気にしないように。「魔物」との戦いにおいて四肢を欠損しているものも多くいる。その補助を行う義肢、義手や義足と言ったものをつけているものも少なくはない。初めて見るものも多いだろうが、そう言った者には、敬意を払うように。多くの者は「魔物」からこの国を守った証拠なのだから、な。」


 ブルックスの父親も、専門ではないが義肢の修理は行っている。

 特に「魔導力」の少ない人用に、それを補佐するための工夫はいたるところにしていた。

 特に戦闘を前提としないものの義肢に関しては、その軽量化、関節部分の動きの滑らかさを主体に、必要であればモーターと小型のバッテリーも搭載していたことがつい1年前にあった。


「フワンツ国に「魔物」の暴走があったことを知っているものもいると思う。私も魔導士としてその暴走を食い止めるために「緊急リクエスト」に応じた。結果、何とかフワンツ国の1/4の国土が荒らされるだけで済んだのだが、私はこの左腕を失った。多くの者が死に、生き残った者の多くも私の様にどこか欠損したり、臓器を亡くしたりしたのだ。2年半前の「リクエスト」でも多くの命を失った。この学校の学生の多くも死亡したり、四肢の欠損を抱えたり、精神を壊された者もいた。だが、我々の持つ「魔導力」、特に君たちのような「特例魔導士」は、時にはそう言った人々を守り、さらには欠損した部位を修復できたりする者もいるという事をその胸に刻んで欲しい。君たちの能力の高さは君たちだけのモノではない。多くの人々のモノであり、そう生きて欲しいと切に願い、挨拶の言葉としたい。今後の君たちの進む道は厳しいものになるかもしれない。それでも、「特例魔導士」の君たちに栄光あることを祈っている。」


 自分の義手から、「特例魔導士」の持つべき魂についての言葉は、あの日のアルクネメの手紙をブルックスに想起させた。

 アルク姉も、そんな地獄の中にいたのだろうか、と。


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