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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第2章 「天の恵み」攻防戦 Ⅰ
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第16話 「冒険者」デザートストーム Ⅱ

「お嬢さんの言うとおり、危険度の高い「魔物」だよ。「リクエスト」時の討伐はそんな危険なやつらが私たちの生活圏を脅かすとき発令されるからな。チームだけでなく、チーム同士の連携で倒すときもあるもんだよ。今回は、そんな「リクエスト」とは全く違うがね。」


 ダダラフィンが少し声を抑えた感じでそんな述懐をする。


「今、バンスの話に出てきたのが隣のこの、少し小さめの男、防御の剣士ソーディスタシン・ヤコブシンだ。我々チームの防御をしつつ、連携して、剣を扱う男だ。そしてうちのチームの医療を担当しているシシドー・カミュ。一応こいつも貴族だよ。」


「貴族とは名ばかりの落ちぶれもんですよ。親父がどうしようもない道楽もんで、うちの姉さんを王族の親戚筋にあたるメーンドロン侯爵の側室に娶らせて、平気なクズだ。できるならこのカミュという名を捨てたいと思っている。お前さん方、俺を呼ぶときはシシドーで呼べ。警告はしたぞ。」


 少しやさぐれた感じの細見・長身の銀髪を短く刈っている暗い瞳の男がそう毒づく。

 これ以上自分のことを言う気はないようだ。


「シシドー殿は医療系の「魔導」の使い方を変えた人物として知られている方だ。切断された部位の細胞を賦活化する方法を薬剤と「魔導力」、そして「テレム」の濃縮器を使って神経的にも回復させる一般方法を開発した。現在、戦闘時の兵士を病院や治療院へ運べれば80%の確率で治せるまでになった。まさかまた「冒険者」に戻っていたとは知らなかった。」


 アスカが敬意をこめてそう語る。

 その言葉に驚いたようにシシドーは、男性には見えないアスカを見つめた。


「ほう、よく知ってるな。確かに、一時期、プリマテラで、「魔物」と戦って負傷したものの蘇生術に関して、一般的な方法の開発には協力していたが、俺の名前まで覚えてる奴に会うとは思わなかったよ。お前、「医療魔導」の使い手か?」


「はい。アスカ・ケイ・ムラサメと申します。出来れば医療省か、王立の医療機関に行きたいと思っています。」


「なんでここに居る?」


「シシドー殿には理解できないかもしれませんが、バッシュフォード家のオオネスカ嬢を守るためです。」


 シシドーの顔が歪む。

 貴族絡みで気を悪くしたようにも見えたが、違う理由であることが、次の言葉で分かった。


「男か、お前?」


 アルクネメをはじめ養成学校の学生は「あ、そっち」と思った。


「ええ、性別上は男です。普段はあまり自分でそうは感じてはいませんが。」


「いろんな意味で変わってんな。」


「よく言われます。ですが、このチームがこの「リクエスト」に参加するのは何故ですか?それこそ、あなた方なら、この大規模な戦闘に参加する意義はないような気がするんですが。」


 アスカはシシドーの顔を見つめて切り出した。

 

 それこそ学生の身分の自分たちも、この「リクエスト」に参加せざるを得ない理由がある。

 それを逆説的に尋ねているような気が、アルクネメにはしていた。


「それは単純だ。まず報酬がいい。そして、今までこの目で見ることのなかったガンジルク山という「魔物」の巣窟ってやつも見たいという好奇心だな。当然、俺たちは生きて帰ってくるという絶対の自信があるがね。もう一つ、あるっちゃあるが、まあ、それはいいだろう。」


 最後の言葉の時、ダダラフィンの鋭い目つきがシシドーを睨みつけていた。

 明らかに「余計なことを喋るな」という感じだ。

 その雰囲気をオオネスカは見逃さなかった。

 そして、納得したような顔つきになった。


「デザートストームの方々、我々若輩者のために有意義な言葉の数々ありがとうございます。では、我々のチームの面々も紹介させていただきます。まず、わたくし、このチームのリーダーをさせて頂いております、オオネスカ・ライト・バッシュフォードです。先程指摘された通り、家は伯爵位を頂いております故、今回のクワイヨン国の有事たる「リクエスト」に参加しております。剣士として日々鍛錬をしております。横にいるこの女性も剣士です。名をアルクネメ・オー・エンペロギウスと申します。」


 アルクネメはその紹介に軽く頭を下げた。


「嬢ちゃん、悪かったな、さっきは変に絡んでよ。」


 アルクネメにアザムルが謝ってきた。

 それに対し、アルクネメは笑顔で返した。


「その横の男性が、マリオネット・オグランド。戦士です。その横が先ほど自己紹介したアスカ・ケイ・ムラサメ。さらにその横が「探索」を主任務とするオービット・デルム・シンフォニア。」


 オオネスカの紹介にオービットが軽く笑顔で礼をする。男たちの目が蕩けるようにオービットに注がれる。


「「探索」を主任務としているので、人の心情にはかなり鋭敏です。よろしくお願いします、殿方様。」


 その言葉に、少し不埒な視線を送っていたもの、特に最初の印象と変わったアザムルは、顔を赤らめている。心情に鋭敏、つまり「特例魔導士」の力は、心の壁を結構たやすく突き破り、その心を裸にしてしまう。「探索」はテレパシー能力だけではないのだが…。


「もうすぐ、日の入りだな。たぶん野営地も近いと思う。日が暮れると奴らが活発になる傾向がある。気をつけろよ、学生たち。」


「心得ました。」


 オオネスカがダダラフィンの言葉に応える。



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