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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
間奏 小夜曲 冒険者アルクネメ
159/231

第7話

当初の予定を大幅に超えてしまいました。

流石に10話までには終わると思うのですが。

もう少し、お付き合いください。

 交易ロードをクワイヨン国の移動車両にアルクネメ、ダダラフィンとヤコブシン、そして医療用ベッドにバンスが眠っていた。

 肩の怪我はもう大丈夫であったが、やはり限界以上の力を振り絞ったダメージは各所に来ていて、サルバシオンで一度、病院で見てもらった結果、入院を勧められた。

 だが、クワイヨンに帰還予定があったため、今は点滴で痛みを抑えていた。


 クワイヨンの「バベルの塔」との連絡をバンスした。


 アルクネメの抹殺を失敗し、アルクネメ本人が、「バベルの塔」に対して要求があることを伝えた。

 その内容に「バベルの塔」は難色を示した。

 というよりも、「バベルの塔」の住人ではない直属の国軍が拒否をしたと言っていい。

 だが、アクパをその心に宿すアルクネメと断絶と言う選択肢は「バベルの塔」にはない。

 結局クワイヨン本国で「バベルの塔」内での対話という事に落ち着いた。

 これは「バベルの塔」の臨時代表の「スサノオ」の意見に他の者が消極的な賛成の意を示したとの事だった。

 「スサノオ」達賢者は、アルクネメとの誤解を解きたいと言う旨を伝えてきたのだ。

 

 サルバシオンに長く居られると、いろいろ不都合があるのだろう。

 クワイヨン側がすぐに移動車両を手配してくれたという訳だ。

 どうやら、サルバシオンの隣国にあたるテラリカにモンテリヒト経由で軍需物資を輸送した車両の1台をまわしたようではある。

 積み荷が何かまでは解らなかったのだが。


 グリフィスはクワイヨン国とも、「バベルの塔」とも直接的な関係はない。

 その為、「バベルの塔」と交渉している時にその名は出さなかった。

 関係者以外でアルクネメとアクパの関係、さらにバンスの娘を人質にした「バベルの塔」のやり口をグリフィスが知ってしまったという事。

 それが当事者である「バベルの塔」に知られるとグリフィスの身が危険であるという判断だった。

 当然、このことに関しては口外しないようにダダラフィンからグリフィスに再三口止めをされていた。


 グリフィスはサルバシオンから故郷のスフィロートの実家に顔を出すと言っていた。


 クワイヨンの公用輸送車両にバンスの医療ベッドを運んだところで、グリフィスはデザートストームとの契約を終了。

 既定の雇用料と、短期間での依頼終了に対するボーナスを付加された金額が自分の口座に振り込まれたことを確認し、そのまま別れた。


 その軍用である公用輸送車両には運転専任に「鉄のヒト」が就いている。

 またほかにも1体の「鉄のヒト」が常駐しているそうだ。

 それ以外には3人の国軍兵士が乗車している。

 この中型の輸送車両の場合には15人で輸送部隊としての班を構成する。

 輸送に従事する者が6名。

 そして護衛として9名。

 さらにそれぞれが3グループごとに分かれる。

 これは輸送物資の管理並びに車両の管理と操縦補助としての輸送従事者、および護衛兵士が3交代で任務に就くためである。

 平時であれば、適宜休憩をとるが、基本は目的地まで昼夜関係なく走行するためだ。

 ただ、今回は積み荷はなく、さらに「バベルの塔」最重要項目にあたるアルクネメと「バベルの塔」直轄の特別従事者であるバンスの存在が、必要最低限の人員に絞られた理由である。


「お久しぶりです。」


 そう言って4人に敬礼したのは、「天の恵み」回収作戦で、学生たちの世話にあたった少し黒に近いブラウンの髪の毛の女性、メノカナ・アシナ元曹長。

 現在は昇任し、准尉となっている。

 優し気な微笑みをアルクネメに向けた。


 他には二人の男性。

 この車両の隊長にあたるオニシグ・ペンタリオス中尉と修理業務にあたるラゲブル・サーマン少尉である。


 4人の世話、特にバンスの処置のためにメノカナ准尉が残っているようだ。

 他の正規の者たちはテラリカでクワイヨンに輸送する物資、主に医療品と保存用食料を詰め込んで国に戻る車両に分乗したとの事だった。

 当然ながら、メノカナ准尉が残った理由はアルクネメと面識があったことが大きい。

 「バベルの塔」としても、アルクネメを丁重に扱うしかないのである。


 メノカナとはツインネック・モンストラムとの最後の戦いのために、あの「天の恵み」回収用運搬車を降りてからは、会うことはなかった。

 それでもあの時、傷つき疲れたオオネスカチームを世話してもらったことは忘れてはいない。


「デザートストームに入ったんだね。あの時でもあの化け物を撃退したからすごい人たちだとは思ってたけど。」


 メノカナは食事の支度をしながらそんな風に話しかけてきた。

 軍上層部から、何かしらの指示は受けているとは思うが、自分の立場については知らされてはいないのだろうと、アルクネメは判断した。


「メノカナさんにはあの時は私たちチームを気遣っていただきありがとうございました。その後、また戦う事になり、満足にお礼もできていなくて。」

「ああ、それは大丈夫だよ、アルクネメさん。私もこんな軍隊にいて、しかもあんな戦争みたいな状態に置かれて落ち着かなかったから。学生さんたちのお世話ができて、気がまぎれるところがあったし。でも後から、学生さんたちもかなりの戦いに巻き込まれてたって知って、自分も頑張ろうと思えたんだよ。お礼なんて、こっちが恥ずかしいくらいだから。」


 かなりラフな態度であるが、それはおそらくデザートストームを必要以上に刺激しないためなのだろう。

 横で二人の会話を聞きながらダダラフィンは考えた。

 そして、この親し気な会話により、こちらの真意を探っているのかもしれない。

 特別な士官候補生には見えないたたき上げの女性士官であることを考えれば、見た目や態度がそのままその女性の能力とは考えられなかった。


 だが、別にこちらが隠すようなことは何もない。

 アルクにはリラックスをしてほしいと本気でダダラフィンは思っていた。

 こういう風に同性で年の近いものとの気軽な会話で緊張がほぐされるのなら、それもまたよし、だ。


「クワイヨンの「バベルの塔」まではほぼ1日かかります。基本的には、この車両に搭載されている蓄電池、燃料、および「テレム」で補給なしで目的地に到着できる計算です。デザートストームの方々には仮眠用のベッドがありますのでそこで睡眠をとっていただきます。バンス卿については、容態は安定していますので、私が管理させていただきます。」


 これはチームリーダーであるダダラフィンに向けた言葉であることは、そこにいる者は皆承知していた。


「よろしくお願いしたい、准尉殿。」

「それではさっそく食事の用意をいたしますね。ザスルバシで購入した比較的新鮮な素材を使っています。楽しみに待っていてください。」


 そう言ってメノカナ准尉は微笑を浮かべて、彼らのいる居室から移動した。


 調理用システムは異状なく動作しており、それを「鉄のヒト」が腕から発している双方向通信機で微調整をしていた。

 その補助をメノカナはしていたわけだ。


 メノカナはその区画から前方の運転操縦指令室に入る。

 その部屋の一番前には「鉄のヒト」が鎮座してこの移動車両を操っている。


 オニシグ・ペンタリオス中尉とラゲブル・サーマン少尉が、入ってきたメノカナ准尉を見た。


「デザートストームの連中は問題ないか?」


 サーマン少尉が問いかける。


「問題ありません。ただ、アルクネメ卿のパワーは際限というものを知らないのか、あの、上級騎士以上の剣士、バンス卿に打ち勝ったのは事実のようです。バンス卿は自分の筋力の限界を魔導を使って突破してのアルクネメ及び「魔導精神生命体」、個体名称アクパを葬ることはできませんでした。先程、ザスルバシのナントサンク州立病院での治療経過と各種検査結果を照合しましたが、どれも筋肉量突破による筋肉切断の兆候が全身に出ていました。肩の粉砕骨折はアルクネメ卿の再生・治療魔導現象により問題がないのですが、自らの行った、魔導の上乗せによる限界突破事象での負傷は自らの再生能力に頼るしかないですので。」


 メノカナ准尉の説明に、バンスが手を抜いて負けたことではない、という事を二人は理解した。


「となると、現時点での「魔導精神生命体アクパ」の排除。もしくは捕獲は不可能という事か?」

「そうなります。わが国軍の戦力ですら、自由戦闘ではこちらが壊滅的な状態になるかと推測されます。何しろアルクネメ卿はツインネック・モンストラムを撃破し、続く人型の「魔物」を鎮圧してます。そこに今は、そのツインネック・モンストラムの意識がサポートに回りました。敵対しないことが最善だと思われます。」

「メノカナ准尉の意見が今のところの適正な解答であろう。今のところは彼らを賓客として遇することが最善とする。」


 ペンタリオス中尉が認めた。


「メノカナ准尉に彼らの、特に重要観察対象者のアルクネメ・オー・エンペロギウス卿とは、できうる限り親交を深めてほしい。いざというときの安全弁となれるように。」

「覚悟はできてます。万が一、アルクネメ卿が暴走に兆しを見せるようであれば、この命に代えて、無力化を行います。」

「期待しているよ、メノカナ・アシナ准尉。君の人の警戒感を解きほぐす技術、魔導力があるために「バベルの塔」に拾われたことを思い出せ。」

「はっ!その義理に応えるべく、このアシナ准尉、自分の職務を完遂する覚悟であります。」


 メノカナはそう言って、ペンタオリス中尉に敬礼する。


 メノカナは餓死してしまった自分の母親のもとで涙をこらえていた。

 出生時にはめたリングから逐一「バベルの塔」に国民の状態は知らされているが、才能がない者には、何の救済も「バベルの塔」は施さない。

 「バベルの塔」の住人には、なさねばならないことがあり、慈善事業自体を行う気はなかった。


 だが、メノカナの魔導がその時に質を変えたのである。

 いわゆる特例魔導士のような魔導力の高さではなく、その魔導の質の変化。


 いわゆる普通の人と同程度の魔導力であったメノカナの能力が、母の死によって、誰からも警戒されにくいという個性に変化した。

 これは、基本的に「バベルの塔」の住人たち、つまりこの星にとっての異星人である彼らには非常に必要な能力だったのだ。


 「バベルの塔」の直属の特務機関が、もう死ぬ一歩手前だったメノカナ・アシナを救助し、そして、育成することになったのである。


 「バベルの塔」につくまで、他愛ない女子トークをしながら、メノカナはアルクネメとの心の絆を深めたのであった。



ここまで読んで頂きありがとうございます。

当初の予定を大きく超えてしまいましたが、「バベルの塔」という組織の設定が結構出てきて、書いてる本人は楽しんでいます。この楽しさを教諭してもらえると嬉しいのですが…。

もし、この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークをお願いします。作者の書いていこうという気持ちを高めるのに、非常に効果的です。よろしくお願いします。

またいい点、悪い点を感じたところがあれば、是非是非感想をお願いします。

この作品が、少しでも皆様の心に残ることを、切に希望していおります。

よろしければ、次回も呼んでいただけると嬉しいです。


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