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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
間奏 小夜曲 冒険者アルクネメ
158/231

第6話

6話でも終わりませんでした。

次回、最終話となる、はず、おそらく。

 アルクネメとバンスの死闘について、それ以外のバンスの娘についてもすべてがほかの3人にも語られた。


「バンス、お前さんが何かを背負っていたのは知っていたが……。まさか、娘さんの命を「バベルの塔」に握られているとは思わなかった。」


 防護倉庫のベッドに横たわるバンスの周りに、他の4人が座っている。


 既に砕かれた肩は、砕いた本人であるアルクネメによって修復が終わっていた。

 だが、自分の限界を超える闘いを行った反動に、バンスの身体は疲労と全身に筋肉の損傷が認められていた。

 その為、栄養剤と鎮静剤がグリフィスにより点滴という形でバンスの体内に注入されていた。

 アルクネメもまた、その全身全霊での戦闘行為に、供給した「テレム」も尽き、バンスを治せる状態ではなかった。


「済まなかったな、大将。何も話せなくて。」

「何を言っていやがる。俺の方こそ、もっとお前のことをフォローすりゃあよかった。だから4年前にデザートストームを解散しようと言って来たのか?」


 ダダラフィンの言葉にバンスの表情が歪んだ。


「その頃に、「バベルの塔」から急遽呼び出しがかかった。それまでは「バベルの塔」の管轄ではあったんだが、国立病院内での治療だった。生まれてからうちの娘はその病院から出たことはなかったが、それでも俺や妻は面会に行って、親子の絆を保っていたんだ。それ内に治療費もかかるところだったが、「バベルの塔」から非常に特殊な病状であることから、その研究と引き換えに治療法を探るという契約をしていた。」

「その条件が変わることが起きたという事ね、バンス卿。」


 医師でもあるグリフィスがそう自分の推測を口にした。

 もしかしたらその症例について、噂くらい聞いていたのかもしれない。

 そうアルクネメは思った。


「ああ、そうだ、メイヤング女史。もともと定期的に薬と同時に「テレム」を体内に入れていたようなんだが、その間隔がどんどん短くなっていたようだ。」

「その治療には「テレム」が、しかも大量に必要だった、という事ですか?」

「ああ、そう聞いている。何故かは不明といわれたが、高濃度の「テレム」存在下であれば普通の子供として生活ができるという事だった。そういった空間は「バベルの塔」内でしか作れないという事だった。」

「それでバンスは子供を「バベルの塔」に預けるかわりに、「バベルの塔」のための仕事を請け負う事になった。その為には俺たちのデザートストームにいることが出来ない。だからチームを抜けたい、と言ったのだな。」


 ダダラフィンが口にした言葉の後に、「そういう事か」と呟いた。


「まさか、そのまま解散となるとは思わなかった。」

「ちょうどシシドーが研究のために医療開発研究所で働くこともあってな。なら解散が一番皆に負担がかからないという事があったのさ。バンスだけのせいではないよ。」


 そう言ったダダラフィンの顔は優しく微笑んでいた。

 この人たちはお互いを尊敬し、尊重するいいチームだったんだ。

 アルクネメは改めてそう思った。


 だが、「天の恵み」回収作戦で、その貴重なメンバーを二人も失った。

 さらにダダラフィンとヤコブシンは身体の一部を欠損することになった。


「俺は、まあ弟子であるキリングル・ミノルフから学生を助けて欲しいと連絡を受けた。バンスは直接「バベルの塔」から命令を受けたわけか。それでちょうどメンバーが近くにいたんでデザートストームを復活させた。なんか、奴らの言いように動かされているようで、気分のいいもんじゃないな。」

「申し訳ない、大将。」

「はっ、バンスが謝ることじゃあないよ。」


 ダダラフィンがそう言ってバンスの気持ちを少しでも軽くするようにしている。


 アルクネメは今の話を聞いて、ふと思いついたことがあった。


(アクパ、この症状って、まるで…。)

(アルクの思う通りだよ。まるで「魔物」のようだ。「テレム」のないところでは体を動かすことが出来ないというのは)

(まさか。バンス卿の娘さんって…)

(いや、流石にそれはないよ。マリオネットを思い出せ。たとえ人が「魔物」となっても、その外見は黒い皮膚と多くの赤い目。変わらない。バンスの話ではそれは当てはまらない)

(そう、よね。でも…)

(可能性としては、魔導力があまりにも高すぎて周りに、この場合はその自らの肉体を蝕んでる可能性だな)

(そんなことがあるの?)

(何とも言えない。ただ、その強大な魔導力を制御出来れば問題がないのだが、年齢から言って、暴走をしているのかもしれないな)

(やっぱり、「バベルの塔」と交渉する必要がありそうね。私たちのことも、バンス卿のことも…)

(我々もそうそう命を狙われるのもストレスだな。負けるとは思わんが…。それにバンス卿の今後のこともある)

(そうね。アクパもバンス卿のこと心配するんだ…。ちょっと、意外…)

(私はアルクとともにこの1年半を過ごしてきた。アルクの心に同調してもいるんだ。バンス卿のことをかなり好意を持っているアルクの気持ちに影響されるってもんさ)

(こ、好意って…、何言ってんのよ、アクパ)

(別に恋愛感情のことを言ってるわけじゃない。アルクは何時まで経っても、男女の恋愛感情はブルにしか持っていないんだろう?)

(私には、ブルを愛する資格なんか…)

(まあ、いい。その話はもっと時間が必要なんだろうな。私には経験がないから知識としてしか知らないからな…。かなりアルクの心を占めていたとしても)

(そのことには、触れないで、アクパ)

(……)


 皆黙ってアルクを見ていた。


 視線に気づき、アルクが自分を見る4人を訝しげに見る。


「どうかしましたか?」

「いや、どうやら心の中にいる、アクパだっけ、と話し込んでいるように見えてな。」

「分かるんですか?」

「何を話しているか迄は心理障壁があるからわからんが、そういう顔の時はよく話してんだろう?」

「そうですか、わかっちゃうんですね。ええ、アクパと話をしていました。」


 そのアルクネメの言葉に、ダダラフィンが真剣に瞳を見つめた。


「何を話してんだ。よければ教えて欲しい。」


 無理強いはしない、と言うよりできないといったところだろうか。

 アルクネメはダダラフィンが若干、自分に対してよそよそしい態度を取ったような気がした。


「これからのことです。私の、正確にはアクパの抹殺に失敗したバンス卿の処遇がどうなるのか?それと、私達への「バベルの塔」の対応。出来れば穏便に事を修めたいと思っています。」

「それは、つまり…」


 ダダラフィンが何かを言おうとしたが、言葉が詰まった。


「ええ、「バベルの塔」と交渉の必要があると思ってます。今回のことはクワイヨンの「バベルの塔」が行った事ですね、バンス卿。」


 横になっていたバンスが上半身を起こし、アルクネメにまっすぐに視線を向けた。


「ああ、その通りだ、アルク。お前たちのことは、他国の「バベルの塔」にも極秘事項になっている。」

「では、バンス卿。クワイヨン国の「バベルの塔」に連絡を願いしたいんですが?」

「ああ、そうだな。それしか、俺が出来ることはないな。」

「ありがとうございます、バンス卿。悪いようにはしないつもりですよ、バンス卿も、お子さんも。」

「よろしく頼む、アルク。」


 防護倉庫の外に大きく風を着る音が響いた。


 サルバシオンの撤収チームが上空に、飛空輸送艇が接近してきた音であった。


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