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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
間奏 小夜曲 冒険者アルクネメ
153/231

第1話

狂騒曲編を書くまでにはまだかなりの時間を擁しています。すいません。

今連載中の「神の子」がもう少ししたら、終わる予定ですので、その後に執筆に入ります。

それまでの間で、間奏としてこの話を書きました。この話は大体5話前後で終わる予定です。

不定期連載となることは、先にお詫びしておきます。

楽しんで頂ければ幸いです。

 砂の混じる風がアルクネメの見事な金髪を揺らしている。


 ダダラフィンは細かい砂が入らないように、自分の義足を覆っている布の再調整をしていた。


 その横にいる少女、いや既に女性というべき様相であるアルクネメは標的のいる砂漠を見つめていた。


 今回の標的はこの砂漠に巣食うホエール級の「魔物」である。

 ホエール級と言っても、ダダラフィンにしてみれば巨大なミミズでしかない。

 本来であればこんな砂漠には出現しないはずの「魔物」であったが、この砂漠には 遥か昔に巨大な湖があり、樹木が多数あったらしい。

 それが気象の関係で砂漠化し、多くのテレムが砂の下に埋もれた。

 その結果ミミズのような「魔物」が多く巣食う事になった。

 もっともこのミミズたちは土地改良をすることから、滅多に駆逐することはない種である。

 今回はその大きさと、国同士をつなぐ交易ロードの近くにまで来たことにより、駆逐対象になった。


 しかしながら地中にいるこの「魔物」の駆除は並大抵ではなかった。


 ここ数か月で、何度か冒険者たちにこの巨大ミミズの駆除の「リクエスト」がかかっていた。


 1年半前の「天の恵み」回収作戦のような大規模のものではないが、政府や、数か国連名でこういった緊急駆除の「リクエスト」がかかることもあった。


 今回のダダラフィンのチーム、ダダラフィン、バンス、ヤコブシンに加え、アルクネメもこの1年ほど新生のデザートストームで行動を共にしている。

 そして今回はこの「リクエスト」のみの参加である女医、「医療回復士」グリフィス・メイヤングが加わっている。


 今回の駆除において、どれほどの被害か予想できないため、最低限の治療体制を整えた格好である。


 シシドーを亡くしたデザートストームにとって、生き残るための措置であった。

 しかしながら、この1年間で世界中を移動し、様々な依頼をこなしてきたが、この「医療回復士」のポストは空いたままである。

 単純にこのメンバーに同行できる実力者がいなかったという事と、アルクネメの「魔導力」の大きさ故、それほどの被害を受けずに済んでいたことが大きい。

 何度か身体的なダメージは受けたが、同行していた「医療回復士」が駆けつける前にアルクネメが治してしまった事が大きい。

 その為、自分の存在意義が否定されたような気がするのか、1回のミッションで皆辞退していったのだ。


 と言っても、アルクネメの本来の担当は剣士であり、最前線に立つ武人であった。

 さらにダダラフィンの右足とヤコブシンの左手は欠損しており、それぞれ義足と義手を装着している。

 クワイヨン国「バベルの塔」製のその人工義肢は「魔導力」で動く。

 既にかなり馴染んではいるものの、調整は欠かせない。

 それだけでも「医療回復士」の存在が必要だった。


 ダダラフィンの本音としては、このチームとミッション時に行動を共にする必要はなかった。

 後方で自分の身を守れる術を持つ「医療回復士」で十分だった。


 だが、冒険者協会への募集で来る「医療回復士」は、自分の身を守ることもできないか、伝説でもあるデザートストームの一員になることを夢見てるようなものが多かった。


 結果的にはこのチームについてこれるものはいなかった。


 今回参加しているグリフィスは通常は病院に勤務する医師であり、今回のみの雇用である。

 特に義肢について詳しい女性である。

 当然のことながら、今いるこの野営地から動く気はなく、もっぱら二人の義肢の調整に従事していた。


「さて、今の所はワームに目立った動きはありませんね。」

「君の相棒は何と言ってるんだ?「魔物」の動きには鋭敏なんだろう。」


 ダダラフィンの問いかけに、金髪をかき上げ困ったように顔を向ける。


「今の所、何も言っては来ません。今は眠っているような感じです。動きもないようです。この砂漠の奥に潜まれると、我々ではどうしようもないですね。」


 アルクネメの心に潜むもう一つの存在。

 1年半前の「天の恵み」回収作戦時に襲ってきた超巨大「魔物」ツインネック・モンストラムの意識体。

 アクパと名付けられたその「魔物」との初めての意志疎通を可能にした思考体は、急激に成長したアルクネメの魔導力に呼応して、今はアルクネメの身体に憑依した状態になっている。


 だが、その状態はアルクネメには何の問題もない。

 それどころかアクパの能力を取り込み、その実力が格段に大きくなったのである。


 一方で、アルクネメの出身国であるクワイヨンを支配している「バベルの塔」は、そんなアルクネメの扱いに苦慮していた。


 今はデザートストームという冒険者のチームにその対応を任せていた。


 アルクネメの同居体、アクパからの情報や能力を供与され利用価値を認める一方で、いつ、アルクネメが「魔物」に乗っ取られてしまうのではないかという疑念、危機感は拭えないでいた。

 その点から言えば、クワイヨン国内にとどめていた方が、監視する対象としては都合がいい。

 そのはずなのだが、デザートストームという冒険者のチームに入ることを条件に、2年間の期限で国外へ避難させた。


 アルクネメはツインネック・モンストラムとの最終決戦時、同じチームで「クワイヨン高等養成教育学校」の先輩にあたるマリオネット・オグランドが「魔物」化した。その人物を殺すことにより、その後のツインネック・モンストラムの復活を阻止し、災厄級の犠牲を未然に防いだという経緯があった。

 人の「魔物」化、続くチームメイトの殺害という事実を伏せるため、さらにチームリーダーであったオオネスカ・ライト・バッシュフォードとの決裂もあり、クワイヨン国政府との協議の末のアルクネメの避難処理であった。


 本来であれば、超巨大「魔物」ツインネック・モンストラム討伐の最大の功労者であるアルクネメ・オー・エンペロギウスは、そうした諸処の事情により、現在、デザートストームの一員としてサルバシオンとスフィロート間の交易ロードに広がるザハラ砂漠にいた。


 アルクネメが加わってから、デザートストームの実績はさらに上がった。


 ダダラフィンとヤコブシンの二人が「バベルの塔」内の医療室でリハビリを行っている時にも、バンスとアルクネメは2件の「魔物」討伐を果たしていた。


「奴が現れんことには俺たちはどうしようもないか。」


 ダダラフィンは夕陽に美しく映える金髪をなびかせているアルクネメに向かい、そう告げた。


「そうですね。「魔物」達が夜間に行動することが多いですが、今回の標的はほぼ地中にいますから、あまり関係ないようですし。」

「仮称のサンド・ワームって言葉に、何の意味があるんだ?。」

「サルバシオンの担当者によると、「砂漠のミミズ」だそうです。まんまですね。」

「この言葉はどこの言葉なんだ?」

「おそらくですが、「バベルの塔」共通言語ではないかと。前のツインネック・モンストラムもそう言った名づけみたいです。」

「安易だな。」


 眼下に広がる砂漠をふたつの太陽が赤く染めている。

 その中央にドーム状に囲まれたチューブのような交易ロードの遥か彼方に城壁都市「サルバシオン」が見えた。


「確かにこいつが破壊されるとやっかいではあるんだが…。姿を見せないのでは、こちらとしては動きようがない。」


 ダダラフィンが軽く息を吐き、アルクネメにそう言った。


 基本は二人一組で、この丘の野営地からワームの出現の監視をしている。


 最低でも、その巨体を見えるところまで引きずり出さないことには、駆逐のしようがない。

 ダダラフィンとしては、大きく(ソビ)え立つ交易ロードの外殻にでもぶつかってこないものかと、不埒な期待をしているところだ。 


「そうですね、確かに。実際にはそこまで地中深くには潜れませんが…。ただ、ここから西方ににあった古代都市でしょうか、がこの砂に埋もれた状態です。そこから大量の「テレム」が存在しています。もともと大きな湖があったオアシスでもあったため、その都市の周りにあるテレリウムを多く含んだ植物たちがあったのでしょう。どういった機構か分かりませんが、いまだ地中で生きて「テレム」の放出を続けています。」

「その報告は受けているんだが…。その元オアシスはかなり西にあったはずだ。この交易ロードまで距離がある筈なんだがな。」

「本来は問題なかったようですが。どうやら、その放出されている「テレム」がこちらに多量に流れてきている模様です。さすがに、このテレム発生器では地下1mまでしか判別できないようで、詳細は不明なんですが…。」


 それは解っていることだが、ブルックスという青年が作ったこの機械は、2年近くたっても作動し続けている。

 しかも地下1mまでの「テレム」の濃度を判別できるってのは、どういう才能の持ち主なのか。


 だが、以前アルクネメが語ってくれたその青年のことは、目の前の金髪の女性剣士の前では禁忌(タブー)となっている。

 帰郷した際に、二人に何かしらあったことは察していたが、詳細は解らなかった。


「お前さんの相棒にはわからないのか?」


 風が砂漠の砂を運んできた。

 ダダラフィンは軽く自分に降りかかった砂を払いながら金の髪が揺れるアルクネメに問いかける。


「大雑把ですが、砂の下くらいなら見えるようです。西の方100mほど下に植物群の映像が見えるようで…。そこから「テレム」がこちらに流れてくるイメージは見えます。ただ、現在のところ巨大な「魔物」は見えません。巣が何処にあるかも見えないというところです。」

「本当にすさまじい能力だな、相棒さんの力は。」


 アルクネメには、それが自分に対する嫌味に聞こえた。

 そんなことを言う人間ではないという事は知っているのだが。


「どのみち、ここの岩盤であればミミズどもも襲いにはこれんだろうが…。かと言って、砂から出てくるようなら、討伐もしやすくなるんだがな。」


 ダダラフィンはそう言って、仄かな光に浮かび上がる巨大建造物、「交易ロード」に目を向ける。


 この高台から見える砂漠の下がどういう理屈で対流しているのかは、まだ謎に満ちていた。

 それはサンド・ワームが蠢く地帯を率先して研究しようという科学者がいないからではあるが、一応「バベルの塔」がその砂の動きは観測している。

 今までこの砂漠の砂が、埋まっている元オアシスの位置から北から北西方面に流れて南西方向から戻ってくるというルートを通っていたため、「交易ロード」に被害はないと判断されていたというのも大きい理由だった。


 だが、その対流方向に何らかの異変があったようで、南東に位置するこの「交易ロード」に「テレム」が流れてくるようになった。

 そのため、サンド・ワームが出没し始めたのである。


 この砂漠の砂は、地下100mほどまで達している。

 さらにその下にしっかりとした岩盤があるわけだが、この「交易ロード」の支柱は、その岩盤からさらに深く打ち込まれている。

 この広大なザハラ砂漠の「交易ロード」が破壊された場合、その修復には膨大な時間と資金を必要となるのは、誰もが理解していた。

 ほかの「交易ロード」のように地面に「魔物」除けの防護壁を作る、というだけでは済まなかったのである。


 サルバシオンとスフィロート間の交易ロードは壊されるわけにはいかない。

 特にこの2国にとっては。


 アルクネメの中で眠っていたものが急に起き出した。


(来るぞ、アルク)


 自分の中にいるアクパという名の「魔物」の警告がアルクネメの心に響いた。


 その刹那、轟音とともに、巨大な化け物がアルクネメとダダラフィンの前にその姿を現した。


間奏として、またアルクの主人公での話になってしまいましたが、いかがでしょうか。

よろしければ感想等、よろしくお願いします。

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