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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第2章 「天の恵み」攻防戦 Ⅰ
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第15話 「冒険者」デザートストーム Ⅰ

 アルクネメの属するオオネスカチームは他の養成学校のチームや、「冒険者」達と一緒に「バベルの塔」が用意した移動車両に乗り込んでいた。


 初めて乗ったその車の乗り心地は最低だった。

 もっとも車の所為だけではない。

 基本的に道ではない場所を馬車では考えられないくらいの速度で走っているのだ。

 その速度は昔、ブルが乗せてくれたバイクという乗り物より早い気がした。

 乗り心地という意味ではいい勝負だが…。


「アルクはこういった乗り物は乗ったことがあるの?」


 少し顔が青くなりつつあるオオネスカが横にいるアルクネメに聞いてきた。


「ええ、こんな箱形の物ではありませんが、ブル…、近くの幼馴染がバイクとかいう乗り物を乗っていたので、乗せてもらったことがあります。」


 アルクネメは言い換えたが、「ブル」という単語は、チームの人間に苦笑いを浮かべさせた。

 その笑いに顔が熱くなる。


「なあ、お嬢ちゃんたち、怖いんだろう。どうだい、俺達と一緒にやっていかねえか、悪いようにはしないぜ。」


 アルクネメの前に座っている筋肉がムキムキの大きな男が下簸た笑いを浮かべながら、そんな誘いをかけてきた。


 いわゆる「冒険者」達だ。

 その肢体が強さに直結しているわけではないが、体格の大きさはやはり戦闘時に有利に働くことが多い。

 「魔導力」も、ある程度の鍛え方で大きくはなっていく。「特例魔導士」ほどではないが。

 「魔導力」だけの問題であれば、「特例魔導士」は別格である。

 とはいえ、実戦となると、経験、体力、精神力、思考など様々な要素が絡んでくるため、「特例魔導士」といえども、初陣での戦闘能力の無力化されることは結構ある。


 チームを組んでの単体の「魔物」討伐で経験を重ねての、今回のような大戦なら生き残れる確率は高いのだが…。


「俺らのチームに入れば、生きて帰れるってもんだぜ。」


「無礼な!我々を誰だと。」


「やめなさい、アスカ!この方たちは、充分わかっていて、我々を揶揄っているのですよ。アザムル殿、そうなんでしょう?」


 オオネスカが激高するアスカを宥め、まだ自己紹介も何もしていない相手の名を告げた。


「ふん、既に調査済みってやつか。お前さん、貴族だな。」


「なぜ、そう思いますか?」


「見たところ養成学校の学生だろう。同じく「冒険者」をやってたり、お役所さんならいざ知らず、そうそう俺たちのことを知る筈がない。となりゃ、この「リクエスト」に参加した「冒険者」を知ることが出来る立場の人間がいるっつうことだろう。そんなことが出来る立場なんて、貴族か王族って相場は決まってんだよ。」


 あんな言い方をしてるが、この男、何度も死地を乗り越えてきた歴戦の勇士という事ね。

 アルクネメは、物言いは下品だが、知性のかけらは感じていた。


「この「リクエスト」の執行にあまり出自は関係ないとは思いますが、確かに私はバッシュフォード家の人間です。」


「おっと、伯爵令嬢でしたか!お気に障ることを言って失礼しましたぜ。」


 全く悪いと思っていない態度で、その筋肉男がオオネスカにからかい口調で言った。


「それくらいにしておけ、アザムル。いきなり自分の名前がバレたからと言って、拗ねるのはみっともないぞ。」


 アザムルの横にいる中肉中背の目つきの鋭い男が、アザムルの態度をいなす。


 オオネスカはその40代くらいに見える男に顔を向け、軽く頭を下げた。


「歴戦の「冒険者」チーム、デザートストームのリーダーでいらっしゃるジークナルデ・ダダラフィン殿ですね。狭い車内で礼を尽くせぬこと、お許し願いたい。」


「そんなに畏まらなくてもいいですぞ、オオネスカ・ライト・バッシュフォード殿。このようなところで顔を合わせるのも、何かの縁であろう。道中も短くはないからの、適当な話し相手だとでも考えて、気楽にいこう。本気になるのは、「魔物」たち、敵が来てからで充分であるからな。」


「ありがとうございます。そう言っていただけると、こちらも助かります。」


 オオネスカはもう一度、静かに頭を下げた。

 他の4人も、今の話を聞き、一緒に頭を下げた。


 先ほど絡んできたアザムルは居心地悪そうに頭をかいている。


「まあ、オオネスカ殿は我々のことをわかっているようだが、他の学生さんはよく解らんじゃろうから、一応紹介させてもらうよ。」


 ダダラフィンはそう言ってまずアザムルを見た。


「君たちに最初に声を掛けたアザムル・ダスタムだ。巷では「剛腕」の戦士として名が通てる。」


「存じ上げております。ナックルのグローブでリノセロス級を一撃で仕留めたという伝説は有名ですからね。」


 オオネスカがアザムルをそう言って褒め称えた。

 アザムルは少し照れている。


 野蛮さが男らしさと勘違いしてる感はあるが、結構初心なのかもしれないと、アルクネメは思った。


「その横にいる男はチャチャナル・ネルディ・バンス。剣士だ。アザムルがリノセロス級なら、バンスはエレファント級を手裏剣と長剣で仕留めている。」


「おお!」


 学生が驚嘆の声を発した。

 一般的に「魔物」固有の名前を付けるのが難しいとされている。

 捕らえて分類を試みた学者もいたが、あまりにもバラバラなのだ。

 しかも性別すら怪しい。

 結果、その大きさと見た目の特徴で○○級という呼び名が定着している。

 ちなみに、リノセロス級はサイのような大きさで頭から胴体まで、かなり硬い甲羅のような鎧で覆われていることが多い。

 その反面、腹部が脆弱だ。

 近接戦闘を得意とするアザムルは腹部に潜り込み、「魔導力」のありったけをそのナックルに込めて、腹部を打ち上げるという手法で仕留めた。

 とてもではないが、そこまで潜り込めること一つとっても、優秀な戦士であることが分かる。


 これに対し、エレファント級はその3周りはでかいが、身体の堅さはそれほどではない。

 バンスは手裏剣で足止めし、「魔導力」で宙を滑空、長剣に自分自身での回転とスピードの力を乗せ、首をたたききっている。

 ただし、個人プレイではなく、このチームの連携で達成したものである。


「あれはヤコブシンの防御楯で、攻撃を封じ込めてくれたからです。私だけの手柄ではありません。」


「凄いですね。私共は机上の知識でしか知りえませんが、どちらの「魔物」も危険度Aランクですよね。」


 オービットが感嘆のセリフを口にした。

 その野戦服からもわかる胸の膨らみに「冒険者」達の視線が集まった。

 普段のオービットのスタイルに慣れているマリオネットなどは、今のオービットのスタイルには全く興味はなさそうだが、普段女性と接することの少ない目の前にいる「冒険者」のような男性には目の毒かもしれない。

 アザムルのような野蛮にみえる男からすれば時と場合によっては襲われかねない。

 もっとも「探索」のオービットは自分に対する「敵意」に鋭敏に対応することが出来る。

 その自信が今の野戦服にも出ている。


 一方、そのオービットの能力を知らないであろうこの「冒険者」の男性は、一瞬その胸に目を奪われたものの、すぐに気を取り直した。


「お嬢さんの言うとおり、危険度の高い「魔物」だよ。「リクエスト」時の討伐はそんな危険なやつらが私たちの生活圏を脅かすとき発令されるからな。チームだけでなく、チーム同士の連携で倒すときもあるもんだよ。今回は、そんな「リクエスト」とは全く違うがね。」


 ダダラフィンが少し声を抑えた感じでそんな述懐をする。


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