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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 終章
149/231

第149話 ブルックスの告白

 2階に上がると何個か扉がある。

 その奥にアルクネメはブルックスの手を引き招き入れる。


 ブルックスはアルクネメに引かれて階段を上がる時に、騒いでる風を装う親たちの目が自分たち二人に注がれていることに気付いていた。

 言いようのない恥ずかしさだ。


 アルクネメの部屋に入ると同時に扉が閉められ、鍵が掛けられた。


「えっ!」


 鍵の掛かった音に驚いたブルックスの手を引き、アルクネメが抱き着く。

 驚いたままのブルックスをその扉に押し付けるようにして、素早く唇を合わせた。

 ブルックスの口の中に舌と一緒に何かが口に中に入ってくる。

 アルクネメの舌の動きにブルックスの思考が甘く溶かされて、舌と一緒に入ってきたものを拒絶できず、嚥下してしまった。


 アルクネメはブルックスののどの動きを確認して、唇を離す。

 唇と唇の間に引かれた銀の糸がツインネック・モンストラムの天空への糸を連想してしまい、アルクネメは慌ててその糸を吸い、切った。


「アルク姉、俺…。」


 ブルックスが何か言おうとした唇をアルクネメの右手人差し指が軽く塞ぐ。


 アルクネメは抱きしめていた腕を離し、またブルックスの手を引いて、部屋の奥に移動した。

 扉近くは灯を点していないので暗めだが、部屋の奥は外の月明りが微かに入ってきている。


 そこには、アルクネメがクワイヨン高等養成教育学校に行く前から置かれているベッドが、いまは寝られるように真新しい白いシーツが敷かれている。

 そこに引っ張られたブルックスは、アルクネメがその位置を巧みに変え、気付いたらベッド背にするようにしてアルクネメと相対していた。

 その状態でアルクネメの足がブルックスの足を払い、ベッドに押し倒すように倒れ込む。

 そのまま、またアルクネメに唇を奪われた。


 ブルックスは自分が情けなかった。


 と、同時に、アルクネメがやけに積極的すぎる、とも思っていた。

 これは死ぬかもしれない「リクエスト」の前夜と同じではないか、と考えていた。

 だが、今は無事「リクエスト」を終了して帰ってきたのではないか?

 何がアルクネメを焦らせているのか?


 また長い口づけを終え、アルクネメが体を起こした。


「作戦の前の日にブルが私に言いかけたこと、ここで聞いてもいい?無事こうして帰ってこれたご褒美として。」


 アルクネメが、ブルックスから離れ、立ち上がりながら言った。


 ブルックスも上半身を起こし、アルクネメの瞳を見つめる。

 そして立ち上がりアルクネメに近づく。


「アルク姉、俺、アルク姉のこと…。」


 アルクネメが無事に戻ってきたら、絶対に自分の想いを伝えると決めていた。

 それはアルクネメとの約束でもあった。

 だが、今、あんなに情熱的な口づけをしておきながら、それでも腰が引けそうな自分がいた。

 アルクネメの真剣な瞳と、期待するような頬の色づきに、ブルックスは勇気を振り絞る。


「アルク姉と一生を共にしたい。好きだ。大好きだよ、アルク姉‼」


「うん。ありがとう、ブル。」


 そう言うと、またアルクネメがブルックスに抱き着いた。

 その勢いに負け、ベッドに再度押し倒された。


 あれ、俺の告白、答え貰ってないよな?

 ブルックスは、アルクネメがブルックスの告白に礼は述べたが、答えてはいない。

 でも、この行動が答えなのか、とブルックスは自分を納得させた。


 アルクネメが軽く唇を合わせ、起き上がるとハーフジャケットを脱いだ。


 ブルックスは月明かりに照らされるアルクネメの姿に釘付けになった。

 ピンクのワンピースのリボンを解き、脱いでいく。

 白い下着に包まれた女性らしい肌がブルックスには煽情的に映る。

 ワンピースとハーフジャケットをハンガーにかけ、ヒールの高いエナメルの靴を脱ぐと、アルクネメの女性を強調している箇所を隠していた白い下着を少し躊躇いながら、取り去った。


 月光りに浮かぶアルクネメの一糸纏わぬ白い肌が、煌めいている様にブルックスには見えた。


「なんて、なんて綺麗なんだ…、アルク姉、本当に美しい。」


 呆けたような表情をしたブルックスが、そう、アルクネメを称賛した。


 アルクネメの顔が、ブルックスの讃辞に赤らんでいく。


 その表情にブルックスの血流が一気に下半身に集まり、痛いほどになっている。


 見つめられることに耐えきれなくなったアルクネメが、ベッドに腰かけてアルクネメを見ていたブルックスの横を抜けて、ベッドの中に潜り込んだ。


「わたしだけ…。恥ずかしい…。」


 その言葉の意味に気付いたブルックスが慌てて服を脱ぎ始めた。

 そしてアルクネメの待つベッドへ…。




 この夜、二人は一つになった。


 その時に、アルクネメは月光に照らされる美しい水滴を瞳から零した。


 ブルックスには、その意味が、うれしさからなのか、哀しみなのか、その時は解らなかった。




 ブルックスが1回で終わらなかったその行為の疲れにより、深い眠りについた。


 朝、いや、もう昼に近い時刻にアルクネメのベッドで起きたとき、いるはずの女性の姿は、そこにはなかった。


 アルクネメの机にブルックス宛の手紙が置いてあった。


ここまで読んで頂いて、ありがとうございます。

予定では、この序曲はあと2回程度でおわると思います。

お付き合いいただけると、作者として、大変うれしいです。

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