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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第146話 アルクネメ、冒険者になる

 アルクネメたちを乗せた大型輸送車はすでに「天の恵み」回収用搬送車を追い越し、交易ロードをひた走っている。


 オービットと「スサノオ」を乗せた兵員輸送車と、ヤコブシンを乗せた車両も「バベルの塔」内に到着し、医療所に搬送されている。

 「スサノオ」は回収したマリオネットの注射筒の解析に取り掛かったという報告を「サルトル」は受けていた。


 「サルトル」は「バベルの塔」について、全てを語ったわけではないが、自分たちが異星人であることと、この星の人間に精神を同調、乗っ取っていることを説明したことが、本当に良かったのか、いまだ悩んではいた。

 だが、オービットの「探索」の力が使用された説明をするにあたり、どうしても「カエサル」の生死について語らねばならなかった。

 さらに「アクパ」の件をアルクネメから聞き出すために必要と判断した。

 ミノルフの口の堅さは信用している。

 でなければ筆頭騎士としての人望、上からも下からも信用されることはないであろう。

 アルクネメも「アクパ」の件がある以上、下手なことは言わないと思っているのだが…。


 アルクネメはデザートストームに参加する意思を示した。

 ただし、旅立つ前にオオネスカに面会することを要求してきた。

 どういう思いがあるかまでは「サルトル」には想像できなかった。

 だが、あの強い意志の瞳には拒絶という選択肢を選ぶことは出来なかった。


 緊急的にオービットの脳に強制同調し、「魔物」と化したマリオネットを倒す助力をしたが、そのままオービットの中にいることはできないはずだ。

 「バベルの塔」内で、オービットから分離、元の身体に戻るための処置を受けるはずである。その結果、またこの国の賢者は3名と数を減らす。


 クワイヨン国の「バベルの塔」最高責任者「ヤマトタケル」がいまだ深い眠りの中にいる以上、早急に賢者を増やさなければならい状況になった。


 賢者「アインシュタイン」が肉体の病気で死亡し、3名の時代が続いた。

 だが、最高責任者の不在は、他の「バベルの塔」に対して劣勢になる。

 急遽「サルトル」の器になる少女が10歳を迎え、本人並びに家族の了承を得て、憑依せざるを得なかった。

 10歳の少女、リラ・フォーミュラの意識はすでに傍らに寄り添っているが、もし出来得ることなら、彼女に戻したいと思っている。


 現在の最高責任者の代行は「スサノオ」が担っている。

 だからこそ今回のガンジルク山に不時着した「天の恵み」回収作戦の総指揮を執った。

 だが結果的にさらに代理の「ランスロット」が23か国会議を招集せざるを得なくなってしまった。


 強硬派、大を生かすためには小を切り捨てるタイプの「スサノオ」と「ランスロット」、逆に極力すべての人類を助けたいと思ってる、いわゆる穏健派と言われる「サルトル」。

 そのちょうど中立で立ち回り調整役であった「カエサル」。

 このバランスが崩れることになる。


 もっとも先の「アインシュタイン」も強硬派よりであったから、それよりはまだしもなのかもしれないが…。

 実際問題として、この同調できる個体は数が極端に少ないのだ。

 とりあえず既にピックアップされているものから再調査を行い、同調作業に入らなければならないという事だ。

 早くても半年を必要とする同調作業は、早ければ早い方がいいのだ。


 クワイヨン国は叛乱の後始末と、この「天の恵み」回収作戦の事後処理を並行して行い、さらに賢者の器の探査を行わねばならない。


 にも拘らず、「敵」の存在が浮上してきた。


 マニュアルとして確立していることはそのままに、修正で済むことは補助事項として整える。

 問題は想定外の事態が発生している。

 出来れば23か国会議にかける内容だ。

 だが、その「敵」の一部に関係している国があったとすると話が変わってくる。


 「サルトル」は「バベルの塔」に戻るまでに、できうる限りの想定を作成、草案とするべく作業に没頭した。




 アルクネメはバンスの個室の前に立っていた。


 心は決まっていたが、今、話すべきか迷っていた。


 オオネスカも、ダダラフィンも、負傷し、医療ベッドに眠っている。


 デザートストームのリーダーはダダラフィンだ。

 最低限、意識が戻ってからがいいのかもしれないとも思う。


 少し躊躇していたら、唐突に扉が開いた。


「ああ、アルクか。さっきから扉の外側で変な音がしてたんで、何かと思ったよ。」


 無意識に足を小刻みに動かしていたらしい。

 顔が急速に赤みを帯びた。


「まあ、俺一人の部屋に入るのを躊躇っているのなら、廊下ででも話を聞くぞ。「サルトル」から聞いたんだろう?」


 待っていてくれたのだろうか?


「いえ、よろしければ、入れてもらえると助かります。」


「ああ、別に大したものは出せないのは解ってるよな?」


「同じタイプの部屋を割り当てられてるので、さすがに…。」


 バンスは身体を開け、アルクネメを招き入れた。


 椅子を引き、アルクネメに勧め、自分はベッドに腰かける。


「変な気分ですね、この部屋。機能的ではあるんですが、やけに電気を使ってる。こんなに故郷では使えませんよ。」


「そうだな。この車両は電気を蓄える装置があるらしい。どういう原理かは知らんがな。」


「やっぱり、未知の技術ってことですか。」


「あまり「バベルの塔」に関することは、考えない方が精神衛生上、いいと思うよ。」


「そうですね。」


 バンスは「バベルの塔」のことを知らない。

 それはたぶん幸せな事なのだろうと、アルクネメは思った。

 自分も、まさかあんな話をされるとは思わなかった。

 もう、自分は後戻りはできないのだ。


 アルクネメは、無性にブルックスに会いたくなった。


「で、どうするんだ、アルク?」


「お願いします。デザートストームとご一緒させてください。」


「OKだ。いろいろな国を見るのは、いい経験になるよ。とはいえ、当分大将とヤコブシンはリハビリだ。あと、出来れば「回復士」を探したいと思ってる。アスカを誘ったんだけどな。オオネスカについていたいと言われたよ。」


「アスカ先輩らしいですね。では、当分はお休みですか?」


「いや、簡単な「魔物」退治の仕事の依頼はあるんだ。アルクと二人ならすぐ終わるが、トレーニング代わりにはなると思うよ。今回のような経験してれば、あらかたの「魔物」は問題ないだろう。」


「分かりました。クワイヨンではないんですね?」


「ああ、スフィロートとテラリカになる。もともと俺と大将で受けたんだ。もう、デザートストームは解散してたんでな。期間は2か月弱。多分だが、そのくらいの時間で大将とヤコブシンの状況もよくなってるだろうからな。」


 明るい口調を作っているのは解っていた。

 アルクネメはこのバンスの人柄を好ましく思っている自分を、嬉しく思った。


「はい、よろしくお願いします。」


 バンスはそのアルクネメの声に笑いで返した。


 家に帰ったら、すぐにブルックスに会いに行くこう。

 アルクネメは愛する男の顔を思い出しながら、そう考えていた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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この作品が、少しでも皆様の心に残ることを、切に希望していおります。

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