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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第144話 「バベルの塔」の住人の実態

「賢者「カエサル」様は亡くなったのではないのですか?」


 そう質問しながらアルクネメは厳密には死んでいないことを知っていた。


 「魔物」化したマリオネットが「カエサル」の遺体を捕食しようとした時、すでにその「カエサル」だった者は抜け殻であったことを知っていたから。


 そして、アクパのもう一つの違和感を思い出した。

 オービットが支援をしてくれたとき、言いにくそうにしていたのは、その思念がオービットのものではなく、アクパが知っている思念だった。

 それが「カエサル」のものだったとしたら?


「非常に説明はしづらいのですが、「カエサル」は生きています。」


 「サルトル」がきっぱりと言った。


「以前「カエサル」様が言っていた言葉があります。「この体は君たちと同じ血が流れてる。同じ人間だ」と。違和感がありました。でも、今わかりました。その言葉は続きがあった。「心は違うがね」と。」


 ミノルフの言葉に「サルトル」が悲しげに頷いた。


「私たち「バベルの塔」の住人と言われる者たちは、もともとこの星、ハイリゲスラントの出身ではありません。ここから遥か彼方の星の出身です。」


「ハイリゲスラント?この星の名前ですか?地球ではなく?」


「ハイリゲスラントは我々の先祖が初めてこの星を発見した時につけた名です。神聖な土地という意味です。地球はその名の通り、丸い土地、即ち母星を意味する言葉です。初代の移民がこの星の人たちにそう伝えたと聞いています。」


 アルクネメには「サルトル」が何を言っているのか、理解の外にあった。


「あなたの体は、あなた自身のものですか?「サルトル」。」


「いいえ、違います。この体は11歳、リラ・ジャカルタという少女のものです。本来であればもう少し成長を待つところでしたが…。不測の事態というものが発生しました。」


「誰でもいい、…ってわけではないんだな。」


「ええ、相性と言えばいいのか、精神波の同調に適したものでないと、うまく体を動かすことができません。さらに「魔導力」を的確に使用するとなると、その候補は恐ろしいほど低くなります。少しおしゃべりが過ぎました。そういった事情で、「カエサル」はあの体を放棄したんです。」


 意味が解らないながらも、アルクネメは、この星以外の生命体がこの星を支配していると認識した。ただ、現時点での「バベルの塔」の住人が、「魔物」関連以外に干渉していないことの意味が朧げにだが分かったような気がする。


 だが、一つの疑問が頭をもたげた。


「「サルトル」様。今の話の意味が全てわかったわけではないのですが、何故、「カエサル」様はそこまで同調する体が少ないにもかかわらず、あの体を放棄することになったのですか?右手を土から再生することができるほど、「魔導力」が強いのに。」


「それはあなたにもわかってると思ってたよ、アルクネメ卿。あなたがツインネック・モンストラムの首を切断した時の力を覚えていますか?」


「それは、覚えています。かなり自分の中の「テレム」と「魔導力」を必要としましたが…。」


「なぜそれを「魔物」となったマリオネットに使わなかったのでしょう?」


「そ、それは…。」


「無意識に感じていたはずですね、アルクネメ卿。あの化け物にその技を見られると、奪われかねないということを。確実に無効化できれば問題ないけど、もし生き残られたら、非常に危険な事態を引き起こす。そう思ったんじゃないか。」


 「サルトル」がアルクネメの瞳を見つめながら続ける。


「さらには、あの化け物に捕食されると、そのまま自分の持っている「力」を吸収されてしまう。「カエサル」は右手を喰われた結果、不完全ながらも「幻体」を操れるようになったのを目の当たりにして、体を壊された瞬間に、意識を身体から切り離した。そうしなければ「カエサル」の持つ今の人類では到達できない技術を吸収されてしまう可能性があったということです。とは言っても、あの体自身にも多くの情報が残っていたため、さらに奴を強くしてしまったわけですが。」


 少し悔しげに「サルトル」が強く吐き出す。


「ですが、同調が難しいのに、オーブの身体には入ることができるのですか?」


「そのことについては何とも…。ただ、オービット卿の意識がなかったこと、そして「カエサル」自身に強い危機感があったためと考えています。」


「いまだオーブの中にいるんですか。」


 ミノルフが聞く。


「おそらくは…。ですが、完全に一体化には無理があります。「バベルの塔」に戻り次第オービット今日からは離れ本体に戻ることになるでしょう。」


「オーブ先輩は大丈夫なのでしょうか?」


「我々を信じてほしいという以外の言葉はありません。ですが、アスカ卿の力は素晴らしかった。時間はかかるかもしれませんが…。」


「わかりました。「サルトル」様を信じます。」


 アルクネメは「サルトル」にそう告げて、上を向いた。

 涙が出そうになっていた。


「今、「スサノオ」と共に「バベルの塔」に向かってます。それよりも、本題に戻します。」


 「サルトル」がアルクネメを見た。


「あなたの心にツインネック・モンストラムの心が同調していることです。」


 アルクネメとアクパが言いようのない不安に陥った。


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