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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
142/231

第142話 「敵」の存在

やっと、この序曲の終わりが見えてきました。

引き続き読んで頂けると、嬉しいです。

「もう一つ、頼みたいことがあります。」


 「サルトル」の言葉に、一同が賢者に向かう。


「「敵」の存在は、皆さんの心の中にお仕舞いいただきたいと、お願いいたします。」


 「敵」-マリオネットを「魔物」にした、「少年のような悪魔」。


「一応聞いておく。何故だ?」


 バンスはその「敵」の存在を隠す理由は解ってはいた。

 だが、「バベルの塔」の住人を代表して「サルトル」が話すことは、正式に「敵」に関する見解をこの場にいる人間に共有できるということだ。

 飛竜二頭はこの会話を聞いているので問題ないが、今はベッドで意識を失ったように眠るダダラフィンはとオオネスカには正確にこの場の記録を渡し、了解してもらわねばならない。


 ダダラフィンは問題がないと思っている。


 だが、オオネスカには一抹の不安がある。


 アルクネメに対しての感情だ。

 落ち着けば、アルクネメの判断があの時の最善策だと考えてくれるとは思うのだが…。


 あの憎しみに満ちたオオネスカの瞳に、バンスは背筋が凍る思いがした。


「今のところ、確認されている「敵」は「少年のような悪魔」一人のみです。その人物だけが「敵」とはとても思えません。彼を操る、または所属する「敵」が存在する、と考えるのは普通のことでしょう。「天の恵み」がガンジルク山に不時着したことが彼らの仕業かは確証がありません。また、ツインネック・モンストラムが作られた「魔物」かどうかも不明です。ですが、その「悪魔」は確実にツインネック・モンストラムを含む「魔物」を操ることができる。高濃度「テレム」を細いビーム状にして遥か遠方に照射できる技術力。そして、おそらくは人を「魔物」化することができる物質を保有していること。一人でできうることではないでしょう。」


「聞いてるだけで寒気がしてくるな。仮にその組織?が我々に総力戦を仕掛けてきたら、手も足も出んな。秘匿するより、公開して全国民で臨戦態勢を引いた方がいいんじゃないか?」


「現時点でその考え方は既に却下されています。」


「却下された理由は、政治的なことですか?」


 ミノルフが話しに割り込んできた。

 政治的、という言葉を使ったことからも、自分の職務に関係すると受け止めたからだろう。

 バンスはそう思った。


「政治的な理由もありますが…。一番は、それだけの技術力持つ集団に対し、「バベルの塔」の対応策がありません。対応する手段があれば、バンス卿の言うように国家を上げて臨戦体制に移行も考えられるのですが。」


「政治的な理由とは?」


「この「敵」が何者か、判明していないからです。」


 その言葉を聞いたミノルフの体が他のものから見てもわかるほどに固まった。


 そう、「敵」とはこの星の外だと漠然とミノルフは考えていた。

 賢者たち「バベルの塔」の住人が、この星のものでないと考えていたから…。


「ミノルフ司令はかなり驚いているようですね。ツインネック・モンストラムへの高濃度「テレム」照射がかなりの情報からあったために宇宙からの侵略を想定したようですけど、他国が秘密裏に開発した、という懸念もあります。そのため、今回のこの作戦はあくまでも「天の恵み」回収作戦であり、ガンジルク山の強大な「魔物」による損害という態を取ります。損害は多大でしたが、あくまでも今まで知られていなかった全長30mを超えるツインネック・モンストラムの存在によるものであり、これを撃破したとします。当然、ツインネック・モンストラムを操られていた事実はありませんし、高濃度「テレム」照射は行われていません。ましてヒトが「魔物」になったという事実なない。いいですね。」


「了解した。」


「了解です。」


「「「はい。」」」


 学生の声は見事に重なった。


 「サルトル」が、大きく息を吸い、吐いた。かなり精神的にまいっているのかもしれない。


「また、今後、クワイヨンでは、内戦の事後処理終了後、内戦での犠牲者とこの作戦での犠牲者の追悼を行うことになります。特に国王が殺されたという事態に、各国の要人が集まるはずです。その来る要人のランク如何で、対応を考えねばならなくなりますね。その後、各国への、王室と政府による外交による、ある程度のあぶり出しを行うことになるでしょう。」


「今の事実共有はそれでいい。だが、その「敵」の現在の危険性について、「バベルの塔」の認識を教えてほしい。すぐに攻めてくるのか、それとも、それなりの時間の猶予があるのか?」


「そうですね。これは「バベルの塔」の予測というよりは、私個人の見解ですが…。」


 「サルトル」はそう前置きをした。


「実際の大規模侵攻や、「魔物」を使ったクワイヨンへの攻撃と言ったものは考えられないと思っています。」


「その根拠は何だ。今回はガンジルク山の戦闘とオオノイワ大平原での総力戦で、国には影響がない場所で行われた。だが、これが国の近く、もしくはそれこそ城壁の内部であれば、死者の数は桁違いだ。そういう状況にはならないと考えていいかということだ。」


 バンスは冒険者だ。

 本来が自分たちの利益にのみその考えを巡らせる。

 通常、国のことなどは二の次のはずなのだが、デザートストームが伝説のチームであること、そして国のことを考えているミノルフのしっようがこのチームのリーダーであるダダラフィンであることも影響してか、大局を見る目が養われていた。


「ガンジルク山の戦いはこの場合、気にしなくていいでしょう。問題はオオノイワ大平原での総力戦の方です。ここは「テレム」濃度が低い。にもかかわらず「魔物」が異常な多数で攻めてきた。ツインネック・モンストラムも含めてね。私は、これが「敵」のある種の実験だったのではないかと思っています。」


「実験?」


「ええ、多くの「魔物」を操り、平原を移動させての多数の「魔物」での戦争のための実験、もしくは準備行動です。この行動はその目的からすれば6割くらいは成功したと考えられます。」


「100%ではなく?」


「そうです。まず、おそらく最大限に絞り込んだ照射線の太さ。それでも見つかってしまうこと。さらにそこを攻撃されると、照射している機械そのものが破壊されてしまう可能性が分かったこと。」


「なぜそう考えられるんだ?」


 さっきから質問ばかりだな、とバンスは10代にしか見えない「サルトル」を見ながら思った。


「アルクネメ卿がブルックス君の剣に大きな「テレム」を乗せ、高濃度「テレム」と接触した時の光景を思い出してください。」


「あの白い爆発、と言うか白く輝く球が出現して、どんどん大きくなった時のことか?」


「はい、その現象です。あれは高濃度の「テレム」同士の接触により、急激に「テレム」が拡散した現象です。ここに際限なく「テレム」が注ぎ込まれれば、アルクネメのあの糸状のものを切断しようという思いが、「テレム」を通じて逆流していたはずです。であれば、照射している機械が破壊されたはずです。この星の上空でそのようなことは観測されていません。」


「だがまたそのビームを使えば、いいだけだろう。切断される時にOFF、必要に応じてON。」


「それが出来たのなら、「魔物」化したマリオネットがツインネック・モンストラムの死骸に強制的に神経を接続したときに、照射していますよ。」


「たしかに。」


「あれだけの極細のビームを当てること自体、かなりの技術を要すると思います。また際限なく「テレム」を照射していましたが、たぶん無限ではない。その「テレム」の量を充填するにもかなりの時間を要すると考えられます。」


「それが時間に余裕があるということか。」


「また、マリオネット卿の「魔物」化は純粋に実験ですね。でなければ、あの戦場にその「悪魔」が出てくるわけがない。」


「自前で「魔物」化した人を送り込めばいい、ということか。」


「それもあります。ただ、「魔物」化には厳しい条件があるのではないかということです。マリオネット卿は「特例魔導士」です。もともと「魔導力」が高い。そこに「テレム強化剤」を注入し、人間離れした様相だった。」


 バンスはマリオネットの姿を思い出した。

 緑色の鬼。

 まさにそのままの姿は、人には見えない。

 事実戦場で仲間であるはずの兵士に怖がられていた。


「もう一つ、心理的に弱いところをつかれた可能性があります。」


「一度人間に戻った時に言っていたな。アルクに対する羨望を。」


 バンスのその言葉に、アルクネメの体がビクッと震えた。


 そのアルクネメを見たバンスは違和感を覚えた。

 アルクネメの纏っていた神々しさが消えている。

 白い光も弱弱しい感じで、翼が消えていることが分かった。


 「テレム強化剤」の効果が薄れてきたのか?


「そのすべてが重なって、マリオネット卿は「魔物」になった。だが完全ではなく、赤い目を潰すことにより、人間の心を取り戻した。」


「そうだな。その「少年のような悪魔」はうまくできたらラッキー程度だった、というわけだ。」


「はい。そしてそれはものの見事にはまった。奴にとっては、その後はどうでもよかったため、自分がその結果を最後までは見ずに立ち去った可能性が高いと言ったところですか。」


「そうですね。でなければ、最後のマリオネット卿の再「魔物」化しそうなときに、何かあっても不思議ではなかった。」


 「サルトル」はそうこの場を締めた。


「皆様、先程のお願いを、よろしくお願いします。」


誤字脱字の報告ありがとうございます。非常に助かります。

ここまで読んで頂けて、ありがとうございます。

あまりにも長くなりすぎて、本来の主人公ブルックスが殆どでない話になりました。

そんな序曲ももうすぐ終わる筈です(笑)

今年も、もうわわりますが、終わらせることが出来ませんでした。この序曲の最後まで、お付き合いいただけると嬉しいです。

もしよろしければブックマーク、お願いします。

また、いい点、気になる点等、ございましたら感想もよろしくお願いします。

本人の書く意欲に直結しますので、よろしくお願いします。

来年は、本当いい年になりますように‼

P.S. 1/1から、こんな状態ですか短期で終わる連載を開始する予定です。そちらもよろしくお願いします。

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