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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第138話 「バベルの塔」からの謝意

「そう、オービットが殺されかけた相手ね。」


「それは事実なのですか、「サルトル」様。」


 アスカが「サルトル」の言葉に尋ねた。

 サムシンクの言っていた言葉だが、アスカは微かにしか聞こえず、本当にオービットがそんな言葉を言っていたか、確証がなかった。


 サムシンクは、オービットが防御障壁を外すように頼まれたと言っている。

 それが本当かどうかは、オービットが語らなければわからない。

 そう言えば、オービットは今どこに?


「我々「バベルの塔」はそう判断しています。オービットが見つけたというその少年のような悪魔。この比喩が何に由来してるかは、わかりません。ただ、はるか上空、高度100㎞ほどに何かがいたことは、「バベルの塔」より連絡がありました。また、ツインネック・モンストラムへの非常に細い糸状なものは、さらに高い場所から紡がれています。その起点になる場所の確認までには至っていないのですが…。」


「そうですね。その糸状のものが高濃縮された「テレム」だという話を耳にしました。」


「その通りです、ミノルフ司令。何者かが天より高濃度の「テレム」をツインネック・モンストラムの身体に供給することにより、ツインネック・モンストラムを「天の恵み」回収用搬送車両に向かって追撃させた。さらにそのツインネック・モンストラムを中継器の様にして、他の「魔物」達にも「テレム」を与え、併走させるというコントロールまでして見せた。とんでもないことです。」


 この言いようは、「敵」なるものが、「魔物」達をコントロールできるという事を暗に伝えているという事だろうか。

 ミノルフはそんなことを自問自答していた。


「つまり、賢者様は敵さんが「魔物」達をコントロールする術を持っていると考えているという事だな。」


 ミノルフの考えをバンスが代弁した。


「それで、「敵」とやらの目星はついているのか?」


「今の所は皆目見当がついていないというところです。「敵」の目的も、戦力も、所在地も。分かっていることはキーワードだけです。」


「キーワード?」


 アスカが不可解な言い方をする「サルトル」にオウム返しに言葉を出す。


「ええ、キーワードです。「少年のような悪魔」、「遥か彼方からの高濃度「テレム」の照射」、「魔物のコントロール」、そして「ヒトの「魔物」化」です。」


「やはり人為的に、マリオネットは「魔物」にされという事か。」


 ミノルフが「サルトル」の言葉に、ツインネック・モンストラムの死骸の上で聞いたマリオネットの言葉が重なる。その時のキーワードが「悪魔のような少年」だった。


「どういうことだ、それは!」


 バンスが机をたたくようにして立ち上がり、「サルトル」にきつい視線を向けた。


「我々はマリオネットが何者か、ええ、「敵」によって「魔物」にされたと考えています。」


 この場にいる者に、「サルトル」の言葉は、今まで疑いの域を出なかったことが事実であると突き付けられた。

 マリオネットの人為的な「魔物」化。

 出来ればそんなことがあってはならないと思いたかった事実であった。


「ここからは、「バベルの塔」からの要請になります。先程の人為的な「魔物」化の件と合わせて、この場にいる者だけで、他の者には口外しないで頂きたく思っております。何故、人の「魔物」化が行われたかを含めて、非常に重要な事実、決して「バベルの塔」の者しかし知らない事実をお話しします。」


「要は口留めという事だな。」


 バンスが賢者に向かって明らかに攻撃的な口の利き方で、発言内容を皮肉った。


「その通りです。何故、この事を公に出来ないかという事も合わせて説明させていただきます。よろしいでしょうか?」


「わかった。こっちもこのおかしなことや、常日頃からこの世界のねじ曲がった状態に、ほとほと疲れてきていたってのもあるからな。いいぜ、他言無用できくぜ。」


 バンスの荒っぽい言葉に、他の者も首を縦に振った。

 だが、その頷きに一人遅れた者がいた。

 アルクネメである。


 「サルトル」はおもむろに立ち上がり、アルクネメに身体を向けた。


「アルクネメ卿、この度の働き、「バベルの塔」並びにクワイヨン国を代表して礼を言いたい。そなたの辛い想いの中でマリオネット卿を殺すという判断、およびそれを的確に果たした労に報いたい。さらには、ツインネック・モンストラムの三度にわたる撃退。特に3度目の高濃縮「テレム」の供給の遮断、最後のツインネック・モンストラムの首の切断には、誰にも文句が言えないほどの感謝を持っている。本当に、ありがとう。」


 その言葉に、呆けていたようになっていたアルクネメは、意識を「サルトル」に合わせるのに、少しの間があった。

 言われてる意味を理解した時、アルクネメの目に涙が浮かんできていた。


「わ、私は、あれでよかったのでしょうか?賢者様。」


「貴方のやったことに、一つも間違いなど、ない!それは信じてほしい。オオネスカ卿に言われたことが、貴女の心を潰すほどに乱していることは、理解できます。私はその場に吐いませんでしたが、ミノルフ司令からは報告を受けております。あなたの心が、私の言葉で落ち着くことはないと思いはしますが、自分を必要以上に責めないでください。あなたの行ったことは、いつの日かオオネスカ卿も認めてくれると思います。必ずその日は訪れます。自分を信じてください。あなたはあの場にいた人々を、クワイヨン国の国民を、そしてこの星の人たちを守ったという事を、どうかその胸の片隅にでも置いておいてください。」


「はい、「サルトル」様、心遣いありがとうございます。」


 そう礼を言って、頭を下げた。

 隣のアスカからハンカチを差し出され、素直の受け取り、涙をぬぐう。


 その様子に少し安心したような顔をして、「サルトル」は着席した。


「では、まず「魔物」についての「バベルの塔」が有する資料から、説明を始めます。」


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