第133話 「魔物」への攻撃
【私が力を貸すわ、アルク】
リングが光り、その声が聞こえた。
えっ!
「オーブ先輩、大丈夫ですか!意識がないって…。」
【心配させて、ごめんね。大丈夫。それより、その「魔物」を倒すための協力をするわ】
「お願いします!」
【これから、マリオが「魔物」化したそいつの、赤い目の全ての所在と、周りの赤い目をすべて「探索」します。終了次第、その標的を固定、情報を送るのですべての赤い目を潰して!】
「了解です。でもなんでそのことを…。」
【伊達に「探索士」をやってないわ。あなたともう一人の心の会話は全て聞かせてもらってる。アクパちゃん、だっけ?】
「は、はい。この事はどうか…。」
【解ってるわよ、内緒ね。では、「探索」を始めます。周りの戦闘可能な人にはすべて戦闘用リングを解放するように指示してもらえると助かる】
「了解しました、オーブ先輩!」
(今のは…)
(大丈夫!オーブ先輩は口の軽い人じゃないから!)
(いや、そういう事ではなく…)
(これで、奴を撃てる!)
アクパは何か言いたそうにしたが、オービットの連絡に先輩の意識が戻ったことに喜ぶあまり、アクパの不安には気付かなかった。
そしてアクパもその話を続けようとはしなかった。
近くの戦闘可能と思われるものは限られていた。
ミノルフ司令と、飛竜のエンジェルとペガサス。
オオネスカとダダラフィンは動くのがつらいと思う。
バンスはどうだろうか。
だが、あまり時間はない。
「幻体」に対しては、完全にアクパが相手をしていた。
この「幻体」はさほどの脅威を感じない。
アクパが言うようにスカスカで、こちらに対する攻撃も弱い。
おそらく「魔物」本体はツインネック・モンストラムの身体を支配下に置くために、神経を集中をしている。
その為の時間稼ぎの嫌がらせのような攻撃だ。
戦闘用リングを開き、赤い目に対する攻撃について、簡単に説明した。
ミノルフ、飛竜の2頭はすぐに返事があったが、ダダラフィンとバンスは完全に沈黙している。
問題はオオネスカだった。
【私も、攻撃に、参加するよ、アルク】
【ダメだ、お嬢!まだ体の負担が大きい】
本人はやる気があるのだが、エンジェルに止められている。
それだけ、先ほどの「魔物」の攻撃で、身体の各所に傷を負った状態らしい。
オービットから情報が送られてきたら、多くの攻撃を必要とするはずだ。
出来れば少しでもその攻撃に参加して欲しいところなのだが…。
「魔物」が左足を突き刺したまま、微妙に揺れるように動いている。
「テレム」の流れも、不規則にその方向を変える。
これは「テレム」を注入する作業と、ツインネック・モンストラムの下方の「テレム」を回収しているためと思われる。
が、それと「魔物」の動きは連動してるわけではないようだ。
【アルク、標的が揺れてるのか、うまく赤い目に照準を合わせることができない!何とかその動きをそちらで止めることできないかしら?】
「確かに辺に揺れています。別にこちらが攻撃をしようとはしていないのですが…。」
【わかったわ、それね。その「魔物」は私の能力を十分知っていると思う。今、私が目覚めたかどうかを、どうやって分かったかは定かではないけど…。でもマリオなら当然私の能力の特質上、距離が離れれば離れるほど、そのポイントを確実にとらえることが難しくなる。だから、動かないと私がヒットポイントを合わせてくる可能性に対抗してるんだわ】
「どうすればいいんですか、オーブ先輩。」
【10秒、いえ、5秒でいい。あいつの動きを完全に止めて!】
オーブからの通信を戦闘リングにのせて、戦闘参加者に意見を求めた。
その間も、ツインネック・モンストラムの背中の赤い目の数が増えていく。
その赤い目の攻撃が散発的に繰り広げられ、集中することがアルクネメにはできない。
何度自問したことだろう、どうしたらいい?
赤い光弾から身を護るために、「魔物」の周りを不規則に右左、上へと動く。
「魔物」はアルクネメを見ることなく、ゆらゆら揺れるように小さく動いている。
その「魔物」に向かい、光弾を向けるが、直前で霧散するの繰り返しだ。
時間が「魔物」に対して有利に働いているようだ。
【私たちで何とかしてみよう】
空から戦闘用リングを介して、そう語りかけてきた。
エンジェルである。
背に痛々しいオオネスカを乗せている。
エンジェルの翼がひと振りされた。
風圧と同時に、礫が「魔物」に降りかかる。
あらかたは「魔物」の前に霧散したが、やはり数発は「魔物」に着弾する。
かなりその力をツインネック・モンストラムに振っているようだ。
数発あたった光弾の赤い目は一度消えるが、すぐに再生されてはいる。
それほどの威力はないが付きまとう「幻体」を折れた剣で振り払い再度ロングソードを仕掛け、さらに跳びあがって剣を振りかぶったところに、ツインネック・モンストラムの赤い目からの光弾により、バランスを失って、アルクネメはそのまま地面にまで落ちてしまった。
だがそのタイミングでペガサスに乗ったミノルフが接近してきた。
「一人で戦わせて済まない!」
そういうと、ミノルフがペガサスから飛び降り、アルクネメの近くに着地しようとした瞬間、ツインネック・モンストラムの側面の黒い闇のようだった場所が赤く光り、瞬時に赤い光弾が二人めがけて撃たれた。
さすがに黙って敵が増えることは許さないってわけね。
アルクネメはそう思いながら、ミノルフの前に回り込み、翼を広げると当時に障壁を展開させる。
(アクパ、ミノルフ司令の防御もお願い!)
(他人の体内にバリアーを張るのは大変なんだよ!)
そう言いながらも、律義にミノルフの体内爆破を防いでいるようだ。
赤い光弾は障壁に弾かれ軌道を変えて消えていく。
【ペガサス、準備はいいか?今回奴はその場に固定されている。先程のような失態は許されんぞ!】
【承知しています、師匠!飛竜一族の名に懸けて!】
【飛竜の名に懸けて!】
動作固定術、発動。
アルクネメはどこかからそう聞こえた気がした。
一瞬の静寂。
【OK!照準固定!アルク、今よ】
アイ・シートに無数の赤い目に、照準を固定したことを示す赤い光点が無数に広がっていく。
【私も参戦しよう】
戦闘用リングからその声が流れてきた。
その瞬間、天から恐ろしいほどの光のシャワーが降り注ぐ。
その光がただの光ではなかった。
アルクネメやミノルフが使う光弾の圧倒的な数の暴力が、降り注ぐ光に見えたものだ。
その証拠が、ここの光が急に曲がり的確に「魔物」やツインネック・モンストラムの赤い目に襲い掛かってきているからだ。
「魔物」自身も周りに障壁を張り、初弾こそかわしたものの、周りのツインネック・モンストラムの赤い目は確実に潰されていった。
さらに圧倒的な数の光弾は「魔物」の張る障壁すら無効化してしまい、その後は一気に赤い目めがけて光弾が着弾し、潰されていく。
その物量は、赤い目の再生を許す暇を与えなかった。
「これが「スサノオ」の力。」
(そう、これが賢者と言われる者たちの真の力。「カエサル」は周りに君たち人類がいたことと、当初から戦闘に参加していたことが、基本的な「魔導力」の低下を招いていた。でもね、僕の元の身体だと、これくらいの攻撃は耐えきって見せてしまうほどに強固になってる。だから、赤い目が生まれたばかりのところは潰されてるけど、他の甲羅の所はそれほど壊されていないよね)
確かに降り注ぐ光弾の雨は、赤い目のみを潰していた。
(単純な頭上からの攻撃だけでは、赤い目は潰せない。オーブという人の「探索」の結果がないと完全に潰すことが難しいんだよ。だからあの賢者は、お姉ちゃんたちが赤い目のすべての場所を知りえた時点で、あいつが負けることが分かった。この時点でこの戦闘に参加した理由は、そんなとこだと思うんだ)
「ひどい総司令だわ、全く。」
そう吐き捨て、庇っていたミノルフ司令に声を掛けた。
「終わったようですよ、ミノルフ司令。」
ツインネック・モンストラムの赤い目の攻撃から守っていたアルクネメの声に、「結局役立たずか」と言いながら立ち上がったミノルフの腕に、自分の腕を絡めるようにする。
「えっ、アルクネメ!何をしてるんだ!」
「ちょっと摑まってください。行きますよ!」
そう言ってアルクネメは翼を羽ばたき、ツインネック・モンストラムの甲羅の上に空に飛びあがり移動した。
そこには、すべての赤い目を潰されて、倒れている「魔物」がいた。
左足はいまだにツインネック・モンストラムの中にあるようだが、その太もも部分はあり得ない方向に曲がっている。
あの「魔物」は息絶えたように見えた。
ツインネック・モンストラムの甲羅の背中は、赤い目が輝いていたところは破壊され、どこにもその痕跡を見ることができなかった。
アルクネメは、静かに「魔物」の横に降り立つ。
そこにはもうあの「魔物」はいなかった。
黒い皮膚も、赤い目も、その体にはなかった。
体も明らかに縮んでいた。
皮膚も黒から緑色に変わっていた。
「魔物」化する前のマリオネットの姿がそこにあった。




