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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第131話 赤い目の中の虫

 アクパの話にアルクネメは愕然とした。


 やっと倒したツインネック・モンストラムが再び動き出して、人類を攻撃しようとしている。

 あの「魔物」にそんなことが本当に出来るのだろうか。


(できるかどうかはやってみないとわからないかな。人間程度の大きさでこの巨体全てを動かすだけの「テレム」と「魔導力」、そして増殖させる虫を飼っているかどうか)


 ああ、そうだ。私たちは「テレム強化剤」をその体内に注入している。

 「魔物」にとっての「テレム強化剤」は進化を促していたんだっけ。


(え、なに、その「テレム強化剤」って)


(「テレム強化剤」というのはね、体内にある「テレム」を効率よく使うための薬だっていう話なんだけど、それはあくまでも人間の話で…。これを「魔物」が使うと、恐ろしいほどの速さで体が大きくなるのよ。実際に、ガンジルク山に落ちた「天の恵み」から漏れて、それを吸った「魔物」が巨大化したらしいの。だけど、「テレム強化剤」を打ったのは、まだ人間だった時のマリオ先輩だったから…。どうなるか、分からない)


 私の話に、アクパが驚いてることが伝わってきた。

 何かを考えているらしい。


(そんな薬があるんだね。だとすると、何が起こるか分からないな。この場所がお姉ちゃんが戦うのには不利になるかもしれないけど、あいつは早く倒さないと!あいつに時間を与えれば与えるほど、状況は悪くなるよ。あいつ自身も強くなる)


(うん、わかった)


 アルクネメは剣を握りしめ、剣に「テレム」を流し込み、剣自体の力を強め、さらに自分のこれからの戦闘をイメージする。

 「魔物」をこの剣で切り裂く。


 翼を開き、「魔物」の立つ場所に跳んだ。


 左手のない「魔物」が飛んでくるアルクネメを見て、まるで自分が強くなってることを示すような余裕な笑みを見せた。


 おもむろに左足をあげ、ツインネック・モンストラムの身体に叩きこむように踏み込んだ。


 本来なら、厚い装甲のような甲羅の上だ。

 何事も起こらないはずだった。

 しかし、大きな3本の鉤のような爪が生えている足が、その甲羅に突き刺さった。


(まずいよ、お姉ちゃん!あそこはもともと赤い目のあった場所だ。あそこはまずいんだよ!)


 アクパが悲鳴のような感情をアルクネメにぶつけてきた。


 「魔物」の左足はそのくるぶしまでが甲羅の中に埋没していた。

 そして、「魔物」の赤い目がその輝きを増していく。


 「魔物」の中に貯められていた「テレム」がツインネック・モンストラムの身体に注入されていくことがありありとわかった。

 だが、それとは別の「何か」が一緒に注入されている。これは…。


(それが虫だよ。すごっくちっちゃな虫。そいつがいると、身体が調子よくなるし、体の一部が壊れても再生することが出来るんだ。時間はかかるけど)


(でも、「テレム」を注入しても、零れて行っちゃうんじゃない?)


(全体的には死んでから、体の中のものがどんどん壊れるし、穴が開いているんで、今はこの身体の中にあった「テレム」はどんどん流れてる。でも、この場所はもう「テレム」が少ないから、あの虫を増やすには「テレム」が必要。あ、ダメだ。ここら辺の場所だけだけど、奴が操ることが出来るようになり始めてる!早く、お姉ちゃん!)


 アルクネメはアクパの絶叫に押される形で、「魔物」に突撃する。


 アルクネメの周りに光弾が出現し、次々に「魔物」に向かって撃つ。さらに握りしめた剣を薙ぎ、そのままロングソードを起こし、剣戟をぶつけつつ、そのスピードで接近戦に持ち込もうとした。


 光弾が笑う「魔物」の前で消え、剣戟も弾かれた。

 アルクネメの身体も、「魔物」の前で強制的に止められてしまう。


(えらく硬い障壁を張っている)


(大丈夫、任せて、お姉ちゃん)


 アクパがそう言うと、アルクネメを抑え込んでいる強制的な力がすぐに弱くなった。

 急に力がなくなったことで、アルクネメはバランスを失うような形で前に出て、剣を振るう。


 当然、力の籠ってない剣だったが、「魔物」の表層を削る程度だった。

 だが、何個かの赤い目が潰れた。


 よろめくアルクネメは、懸命に態勢を立て直した。

 アクパも障壁を展開して隙のできたアルクネメのために対応する。


 が、来るはずの攻撃は来なかった。


 それどころか、少しだけ触れたようなアルクネメの剣先がぶつかったところを、右手で覆うようにしている。

 笑みを浮かべていた表情も、苦々しげなものに変わっていた。


(何が起こった、アクパ?)


(おそらく、結構な量の「テレム」と虫を送ってるんだと思う。だから防御する力が落ちているんだよ。それと赤い目をいくつか潰すことが出来たのが大きい)


(赤い目を潰す?)


(そう。さっき言ったけど赤い目はすぐに再生されるのが普通だけど、今はその虫を僕の身体に送っていて再生するのに時間がかるんだ。もしかしたらチャンスかもしれない!)


 アクパの声に希望がこもっていた。


 だが、次の瞬間、それが絶望に変わった。


 「魔物」とアルクネメの周りに赤い光が点っていった。


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