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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第130話 ツインネック・モンストラムの身体

 3本の爪の攻撃はオオネスカを襲うことはなかった。


 オオネスカとエンジェルの前に蒼い飛竜と青年が立ち塞がっていた。


 ミノルフとペガサス。


 オオネスカのピンチに駆けつける騎士だった。


「ミノルフ司令、いけません!あの「魔物」は危険です!」


 ミノルフは飛ばされた爪の攻撃を、「テレム」で充足された剣でかろうじて弾き、その軌道を変えた。

 が、その衝撃波は両手で握っていた剣から腕にかけ、身体に痺れをもたらした。


 だがそんなしびれる腕をものともせず、オオネスカにほほ笑む。


「騎士はその良心と守るべき姫のために戦うものさ。」


 そう言いながら、少し臭かったかな、と心の中で反省する。


 オオネスカはその言葉に、目の前に最強の敵がいることを忘れ、しばしその言葉に酔ってしまった。


 だが、防がれたとみるや、「魔物」は何の予兆も示さず、ミノルフに向かって跳ぶ。


 ミノルフは反射的に斬撃を向かってくる「魔物」にぶつける。


 「魔物」もその斬撃をよけた。

 が、飛竜に乗るミノルフと違い、そのままツインネック・モンストラムの首の死骸に降りた。

 不敵な笑みを見せると、すぐにその後方に跳躍する。


 先程まで「魔物」のいた空間を三日月の光が次々と通り過ぎていく。


 その光を追うようにアルクネメが空中を駆け抜けた。


 速い!


 ミノルフはアルクネメの速度に舌を巻いた。


 とてもではないが追いかけることは不可能だ。


 ツインネック・モンストラムの首を蹴り、さらに上空に駆け登っていく。


「まるで女神のような鬼神だな。」


「アルクネメの力は、尋常じゃないんですよ。」


「あの「魔物」が、もとはマリオなのか?」


「はい、いったい彼の身に何が起こったのか、私にはわかりません。」

 オオネスカは「魔物」とアルクネメの行った方向に目を向けた。


 アルクネメは、間に合わなかった自分の代わりにミノルフがオオネスカを守ってくれて、胸をなでおろしていた。


 元賢者の死肉を喰らい、さらにツインネック・モンストラムの首から流れる「テレム」を吸収し、異常に強くなっていることをアルクネメは感じていた。


 だからこそ、ここでその命を絶たねばならない。


 先程の助命を懇願するマリオネットの顔が胸を締め付けてくる。

 だが、もう迷うべき時は過ぎた。


 どんなことがっても、私、アルクネメ・オー・エンペルギウスが、ツインネック・モンストラムのような力をつける前に、倒す!


 「魔物」は逃げたわけではなかったようだ。

 ツインネック・モンストラムの身体、大きな甲羅のような装甲に覆われた広い楕円形の小山のような場所に悠然と立っていた。


 その対角線上に「スサノオ」も腕を組んで「魔物」を見ている。

 その顔は観察者のものだった。

 おそらく「魔物」は「スサノオ」に対しても攻撃をしたはずだ。

 だが、「カエサル」の様に戦う気がない。

 防御に徹すれば、今の「魔物」では賢者は倒せないようだ。

 それとも「スサノオ」の方が「カエサル」より数段実力が上という事だろうか?

 二人に限って言えば、「スサノオ」が司令官で「カエサル」が現場責任者というところなのだろうか?


 事ここに至っても、やはり「スサノオ」に動く意思はないようだ。


 このツインネック・モンストラムの身体も、首と同様に大量に体の中にあった「テレム」が流れている。

 「魔物」が戦う場として選んだ意味も理解できた。


 だがそれは、アルクネメにとっても同じはずなのだが…。


(いや、違うよ、お姉ちゃん!奴がここを戦場に選んだ理由は、ぼくの身体を動かす気なんだ)


「えっ、それって、どういうこと…。」


 アルクネメは思わず声を出して、そう聞いてしまった。


 その瞬間、「スサノオ」の冷たく厳しい目が、アルクネメに注がれる。

 つい、いましがたまで「魔物」に向けていた観察するような眼差しではなく、明らかに何かを感じて、それを探るように、そして自分の知らない脅威を感じるような眼。

 アルクネメの中で起こっている変化を見極めているようだ。


(アクパ、どういうことなの!何をどうすれば、この死体を動かすことが出来るの?)


(あまり詳しくは僕にもわからないけど…。僕が「魔物」として生きているという事は、全身に赤い目のようなものが無数にあったと思うけど、あれがあることによって僕たち「魔物」は生きている。逆に言えば、あの赤い目が全て消えると、それは「魔物」の死を意味するんだよ)


(確かに「魔物」を殺すと、赤い目の光は消えて、皮膚と同じ黒い色になるわね)


(そう。でも一つでも残っていればすぐに増殖できるから、赤い目が多ければ多いほど、死ななくて済むんだよ)


(ちょっと待って、アクパ。あの赤い目のようなものは、一体何なの。「魔物」とどういう関係なの?)


(赤い目の中にはたくさんの小さな虫がいるんだよ、お姉ちゃん。その虫たちが僕たち「魔物」を作っている。ちょっと違うかな?ぼくたちはその虫がいないと生きていくことが出来ない。逆に虫たちも僕たちがいないと生きていけない。そういう関係)


(共生関係という事かしら。では、その赤い目をすべて同時に潰せば、「魔物」は死ぬのね)


(でもそれは凄い大変だよ。だから、お姉ちゃんに僕の首を切って楽にしてもらったんだから)


(そう、何だ…)


(さっきも言ったけど、少しでも、極端に言えば、その「魔物」の中に一匹でもその虫がいれば再生は可能だという事。でも、基本的な動物としての生存機能、脳、肺、心臓はあるから、この器官を潰されても本体は死ぬ。そして小さな虫も死ぬんだけど…)


(どうしたの?)


(もし、充分な「テレム」のある死体に、その虫を注入して、脳以外の機関を「テレム」で再生できれば、注入してる部分を介して、神経を接続、その体の所有者ではない「魔物」が体を支配できる)


(ちょっと待って、アクパ。では、今この場に奴が来たのは…)


(この僕の身体を動かして、人間を一気に殺す気だよ、あの「魔物」は)


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