第13話 セイレイン市第18門 開門
ミノルフは「賢者」サルトルの礼を受け、時間を確認する。
そして、セイレイン市第18門の上部に設置された城外門監視詰め所をでる。
その後を「賢者」サルトル、バイエル准将、ヤーバンの順で続く。
「時間です。マントはどうされますか?」
ヤーバンが尋ねた。
このままの姿で、この「リクエスト」参加者の前に出るか、と聞いたのだ。
「いえ、このままで。」
「賢者」サルトルはきっぱりとした声でヤーバンの提案を断った。
門の下には、開門時に定められた手順に従い、それぞれの部隊に整列していた。
ヤーバンがまずこの大門の上部中心に立った。
「「天の恵み」回収作戦「リクエスト」に参加したすべての物に礼を言う。大義であった。この作戦は我がクワイヨン国にとって非常に重要な作戦である。その意義について、この作戦行動の責任者たるものより、語っていただく。一言も漏らさず傾聴し、その心に刻むように!では、まずこのシリウス別動隊顧問、「賢者」サルトル様よりお言葉をいただく。」
このヤーバンの言葉は、眼下にいる「リクエスト」参加者に、衝撃を走らせた。
各部隊の間で、この情報の意味を語り合っている。
「静粛に!では、「賢者」サルトル様、お願いいたします。」
ヤーバンが下がる。
マントを纏った「賢者」サルトルが前に出た。
そして、そのマントを脱ぎ、ヤーバンに渡す。
その愛くるしい少女の姿に、地鳴りのようなどよめきが上がった。
この少女が、「賢者」サルトル!
「この重要な「天の恵み」回収作戦に参加していただき、「バベルの塔」執政者の一人としてお礼を申し上げます。」
そう言うと深々と腰を折って、頭を垂れた。
その模様は、拡大され三次元拡大ホログラムで大門の前に展開された。
そして、顔をあげたその雰囲気は、決して10代の少女が持つ者ではなかった。
単純に「魔導」の力が凄まじい圧となり、眼下にいる戦闘員、参加者を押し黙らせる。
「我は「バベルの塔」執政者が一人、「賢者」サルトルである。この少女の姿に目をくらませ、われの力を見誤るものは、この作戦で生き延びることは出来ぬであろうことを忠告する。」
先ほどの少女と、同じ肉体ではあれど、全く別の人格が憑依したようだ。
「今まさに、このクワイヨンは非常に危機に満ちている。「魔物」たちの力が強くなりつつある。その中でこの「天の恵み」回収は、この国を、人民を、君たちの家族を守るために必須の物が格納されている。このため、今回の「リクエスト」は最大、最速の実施が必要となった。この作戦が重要な証拠として、「バベルの塔」は持ちうる最大の戦力をこのシリウス別動隊、本体、アクエリアス別動隊に回している。また「バベルの塔」執政者である我々「賢者」を、各隊に赴任させ、作戦の顧問として必要な助言をしていくつもりである。
諸君!厳しい戦いになるかもしれん。しかし、君たちの崇高な魂は、決して奴ら「魔物」達に負けることはないことをここに断言しよう。君たちの大いなる健闘に期待する。」
「賢者」サルトルのアジテーションと、大きな「魔導」が戦闘員の士気を確実に上げていった。
演説の終了後、大きく力強い声が、「賢者」サルトルを、「バベルの塔」を呼ぶ声に埋め尽くされた。
「賢者」サルトルは熱から覚めたように、熱が冷め、先ほど丁寧にあいさつをした見た目通りの少女に戻っていた。
少し肩で息をしているようだ。
かなりの消耗なのだろうことは想像に難くない。
「ありがとうございました、統合司令官ミノルフ殿。あとを任せます。」
少女はマントを纏い、城壁を後にする。
このあと、下にある砲撃装甲車両に同乗するようだ。
つまり、戦場に赴くという事になる。
ここにあるこれらの部隊の後方に戦闘司令装甲車が3両控えている。
先程の国軍のバイエル准将はこの車両に乗り込み、戦闘、戦略の指令を発することになっている。
本来ならミノルフもその戦闘司令車両から各隊の指令を送るべきなのだ。
しかし、ミノルフ自身は飛竜に乗り、前線の状況をこの目で見て各隊に指令を送る気でいた。
ミノルフが前に出る。
熱狂的な雰囲気が収まりを見せ始めた。
「作戦参加する諸君!このシリウス別動隊、統合司令を務めるシリウス騎士団のキリングル・ミノルフである。先に「賢者」サルトル様よりこの「天の恵み」回収作戦の意義をその身に感じたと思う。
既に各部隊に作戦概要は伝えてあるが、途中、ユスリフルで野営、その後本体と合流、「天の恵み」回収に入る。この際、回収運搬車両の経路を確保、襲撃してくる「魔物」達を排除する。「魔物」達の排除後、その素材の回収は自由だ。基本的な戦略、戦術を確認のうえ、統合司令部の指示に確実に従うように。
今回初陣の物も多いと思う。確実に我々の指示に従い、経験を重ねてほしい。あと5分でこの門を開ける。全て、通達してある指示に従い、各移動手段へ登場するように。以上。」
その瞬間、各部隊が配置された通りの場所に整然と並ぶ。
遠目に、ブルックスの恋人(ミノルフはあの時かなり近い場所にいたから、アルクネメの熱い思いは確実にわかっていたが、そこは大人、全く気付かないふりができるのだ!)アルクネメの部隊も整然と並んでいる。
このチーム、微妙に笑みがこぼれ、アルクネメ自身は俯いているようだが。
たぶん、あの熱い思いをばらされたんだろう。
だが、それがいい方向に向いたようだ。初陣のこの戦闘に、必要以上の緊張を感じない。
ミノルフは全部隊を見渡し、東の空にα太陽が昇りつつあるのを感じる。
「開門!」