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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第127話 死闘 Ⅰ

 アルクネメは庇った拍子に倒してしまったダダラフィンに少し視線を移し、すぐに目の前の「魔物」になったマリオネットに戻す。


 醜悪な化け物になってしまった先輩。

 アルクネメの心にまた少し哀しみが顔を出しそうになる。


(ダダラフィンさんの止血、出来る?アクパ)


(大丈夫!今こちらから「テレム」を操って応急だけど細胞を活性化させた)


(ありがとう、アクパ。後、防御も任せていいかしら)


(そっちはもうやってる。こいつ、さっきからちょこまかとこの身体の中に充満してる「テレム」にちょっかい掛けてきてるから)


(助かる!これで全力でこの「魔物」と戦える)


 「魔物」のアルクネメを見る目つきが変わった。


(この場所から強制的に移動させるわ。バンスさんとダダラフィンさんが近すぎる!)


(了解。全力で、いいよ)


 アルクネメに止められている3本爪を動かせない「魔物」は、左肘が後方に引かれていく。

 その左手に「テレム」が集中されていくのが分かったアルクネメは、自分の右肘に「テレム」を集中させる。


 「魔物」の左手は常人にはとても見ることのできないスピードでアルクネメに向かって打ち出される。

 当然のようにアームインパクトを伴っていた。

 その巨大な衝撃は相手の内臓まで破壊し、その体を軽々と宙に舞わせるはずの力だった。


 が、その衝撃はものの見事にアルクネメとアクパにより無効化される。


 その「魔物」の左手は、防御のため硬質化したアルクネメの右肘にぶつかり、逆にその部位から衝撃波を喰らう形になる。


 「魔物」の左手はその瞬間に、骨が粉砕された。

 一瞬その左手に出現していた赤い目の光が消え、真黒な肌だけになった。


「くっ!」


 「魔物」はアルクネメから一旦離れようと、右手をアルクネメの剣から外そうとした。

 が、アルクネメはその3本爪に自分の剣を絡めて抜けないように固定、そのまま「魔物」ごと、上昇を始めた。

 その勢いは翼の羽ばたきで出せる上昇速度ではなかった。

 ガンジルク山の頂上を軽々と超え、クワイヨン国すら見渡せる高みに上ったところで、今度はそのまま急降下に転じた。

 そして、その勢いのまま近くに何もない地面に激突する。


 轟音が鳴り響き、そして地面を激しく振動させた。


 先程の戦場から優に1㎞以上は離れた場所である。

 衝撃により近くに点在する低木が吹き飛び、ただの荒野になっていた。

 その中心、爆心地には二つの影があった。


「この程度では殺せませんか。」


「てめえと心中なんか、反吐が出る!」


 「魔物」の背中を激しく地面に激突させたアルクネメであったが、「テレム」の流れで、「魔物」が無傷なことは想像していたが、「テレム」による障壁の効果は、思っていたよりも大きいという事だと悟った。

 そういうアルクネメも、全身に障壁を施していた。


 さらに「魔物」の左手が復活を示すように、次々と赤い目が開いてきた。


 その赤い目に気を取られた隙に「魔物」の右足の蹴りがアルクネメの腹部に炸裂した。


 多大な衝撃波はアクパの防御で相殺できたが、純粋な力をまともに浴びてしまい、3本爪に絡めていた剣ごと、弾き飛ばされた。


「油断した!」


 が弾き飛ばされている最中に、空中に光の足場を作り、そこで反転、再度「魔物」に飛び込んでいく。


 「魔物」も体を立て直して立ち上がった。

 右手を上から斜め下に振り下ろす。

 さらに左手にも3本の爪を作り出し、こちらは横に薙いだ。


 その両手の爪から黒い影のような刃が放たれ、「魔物」に向かって飛翔するアルクネメに襲い掛かる。

 縦方向と横方向の各3つの刃、計6本の殺刃が向かってくることに対し、全く避けずに「魔物」に剣を振り上げた。


 6本の殺刃はアルクネメの直前で霧消する。


 アルクネメの剣が白く発行し、そのままロングソードとなり、「魔物」を直撃した。


 が、完全に両断されたその右側に「魔物」がいた。

 切られたはずの「魔物」は散り散りに消えていく。

 だが「幻体」すら、アルクネメは捉えており、すでに完全に左手が攻撃状態に入っていた。


 「魔物」の左脇腹に拳が突き刺さる。

 アームインパクトの衝撃も同時に襲い、左わき腹の赤く光る眼は沈黙、内臓も内部が破壊され、ゴホッと吐血した。

 さらに右手の剣の突きが「魔物」の顔めがけて突き刺してくる。

 「魔物」は赤い礫を発生させ、その剣に集中してぶつける。さすがにその衝撃で片手持ちの剣先が微かに上方に弾かれ頭部を掠めるにとどまる。


 「魔物」は脇腹の苦痛を抑え込み、まだ十全ではない左腕をアルクネメの腹から胸の隆起した箇所にかろうじて当て、自分の「テレム」を流し込もうとした。


 「カエサル」に勝った方法を再度試みたが、まるで勢いが足りず、さらにその「テレム」の流れは完全に読まれており、アルクネメの中のアクパによりカウンターをかけられた。


 アルクネメの白く輝く羽毛のようなその体に左手が触れた瞬間、電撃が「魔物」の体を駆け巡った。

 さらに流れ込もうとした「テレム」にアクパが体内破壊を仕掛けた。


 電撃による一時的な思考停止に陥った「魔物」は体内に侵入するその力に抗うことができずに、「魔物」の左手は肩口まで爆散した。


 そのまま一気に剣に「魔導力」を最大限に込めて、「魔物」に向けアルクネメは打ち下ろそうとした。


「た、助けてくれ…。」


 最後の一振りにその心情を乗せて踏み込んだアルクネメに「魔物」が哀願した。

 そこにマリオネットの顔を浮かべて…。


 アルクネメの動きがほんの一瞬止まった。


 「魔物」にとってはそれで十分だった。


 足にも鈎状の爪を持たせた3本の指を、アルクネメの腹部に叩き込んだ。


 鈎状の爪はアルクネメの羽毛のような皮膚が完全にガードしたが、体は少し後退した。


 「魔物」はすぐさま地を蹴り、一旦後退し、そのまま地を駆け始めた。

 その先には「カエサル」が腹から背を爆散したままそこに倒れている。

 生死は解らない。

 だが、賢者があの程度で死ぬのだろうか?

 なくなった右手を大地から再生してしまうほどの「魔導力」を持つものが…。


(あいつは、あの賢者?の肉体を喰らって、力を取り戻そうとしてるよ!)


 アクパが「魔物」の行動予測を伝えてきた。


 まずい!


 アルクネメは助けを乞うマリオネットの顔に、攻撃の手が怯んだ自分を叱責した。


 「魔物」は今まで対峙した「魔物」とは、その知力において圧倒的に差がある。

 本能のままに襲ってくる「魔物」達は、1体や2体くらいであれば刺して戦うのは難しくはない。


 A級のリノセロス級や、エレファント級であれば、大きさや装甲の強さから攻撃に難儀することはあるが、そこに技術はない。

 ツインネック・モンストラムの大きさは脅威だが、攻撃自体に複雑さはなかった。


 だが今相手にしている「魔物」は、人間の知力を有し、数々の技を複合的に組み合わせて攻撃してくる。

 そしてこの「テレム」高濃度地域では、その体力が枯渇することがない。

 さらに、才能のある「魔導力」を持つことから、未知の攻撃に対し、生き抜ければその技を吸収してしまう。

 厄介なことに、そのような優秀な「魔導力」を持つ人間を喰らえば、喰らわれたものの持つ才能をすべてではないが、吸収するらしい。


 今、その「魔物」が、人類の中で最高位に君臨する賢者の体を求めて疾走している。


 アルクネメはその危険性を考慮して、戦場を移動したにもかかわらず、今自分の甘さより、最悪の事態を招いてしまった。


 疾駆する「魔物」に追いつくべく、低空で「カエサル」に向かって飛び出す。


 後ろから追いすがるアルクネメに気づき、赤い礫を放出する。

 アクパが間髪を入れずにアルクネメの周りに障壁を展開し、その礫に備えた。


 だが、その礫はアルクネメの直前で地面に向かいその軌道を変えた。

 地面に接触した礫が相次いで爆発。

 アルクネメの前に大量の土砂が舞い上がった。


「しまった!」


 アルクネメは視界を失った。


 その中で、「テレム」がその爆風で空気中で一斉に動き、一種の目くらまし状態になってしまった。


 視界を奪われ、「テレム」の流れからの「魔物」の動きも捉えることができなかった。


 その降り注ぐ土砂に飛び込み、「カエサル」を目指した。


 しばらく進み、やっとその土煙がクリアになった時、そこには「カエサル」の右腕を掲げ、上半身と下半身が分かれて大量の血が滴る中に立つ「魔物」がいた。


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