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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第125話 飛竜一族の秘術

 ミノルフがその戦場の上空に達した時、そこに恐ろしく濃い熱量を感じた。


 すでに、オービットからの情報は途絶えていたが、ブルックスから提供された「テレム発生器」の付属観測装置はアイ・シートとの同調を問題なく行っている。


 そこに描かれる情報は、濃い「テレム」の中にあって、さらにその「テレム」が集中している存在が2か所あった。


 1か所は激しい戦闘を行っている賢者「カエサル」とマリオネットであった「魔物」の戦場。

 その後方に傷ついて疲弊しているダダラフィンとそれを支えるバンスの姿があった。


「師匠…。」


 ミノルフは足を失い、県を杖代わりにやっとの思いで立っている、今にも死にそうなダダラフィンに対して、小さく呟く。


 ペガサスも、ミノルフの沈痛な想いに、しばしその場を旋回した。


 ダダラフィンとバンスの参戦による、「魔物」の隙をつく行動は失敗し、ダダラフィンは足を失い、今もその個所から少なくない血が流れている。


 ペガサスはエンジェルをすぐに捕捉し、その目だけで、空中の配置を確かめる。


 そこには、長年の付き合いからの阿吽の呼吸があった。


 エンジェルは高度を落とし、ほぼ地面すれすれで「カエサル」の体に隠れるようにして、ペガサスは「魔物」の後背からやや上空に位置を決めた。


 「カエサル」はその位置取りから、この2頭の飛竜の思惑を感じ、一拍呼吸を整えるとほとんどその動作を周りに感じさせない動きで、上空に跳ぶ。


 「魔物」も一瞬、その姿を見失った。


 その刹那、「魔物」は自分の体の動きが止められたことを知った。

 いや、体が止められるというほど柔なものではない。

 自分の体の中のすべてが停止した。思考すらできない。


 飛竜一族秘奥義、強制動作固定術。


 対象のすべての動き、即ち動作を完全に固定、停止する術。


 通常3頭一組で3方から仕掛けることにより、完璧になる技である。


 当然、「魔導力」を用いており、さらにかなりの「テレム」を使用している。


 この術中に落ちた者の体の中の動き、自律神経も、血流さえも完全に止める。

 心臓も停止し、脳内の思考も停止する。


 空を駆ける「カエサル」が、光弾と共に巨大な光の刃が「魔物」に振り下ろされた。


 「魔物」は完全に術中に落ちており、防御も、避けることもできないはずだった。


「消え失せろ、化け物!」


 珍しくも「カエサル」そう叫んで、光弾を打ち込み、光の刃を振り下ろした。


 「魔物」の体は、真っ二つに両断され、光弾がいたるところで爆発した。


 そこに「魔物」の姿はなかった。

 死体すらも…。


 おかしい、そう「カエサル」が感じた時には「魔物」の右拳が「カエサル」の腹部にめり込んでいた。


「いい夢見れてよかったな、賢者さんよ。」


 言うと同時に、「カエサル」の背中が爆発し、そのまま「カエサル」の身体も数m先に飛ばされ、力尽きたように地に倒れた。


「幻体を、使った、のか。」


 「カエサル」は光の刃を振り下ろした時の手ごたえのなさを、思い出していた。


「われらの術が効かなかったのか…。」


「ふふ、ははは。いいな、その顔。絶望に打ちひしがれた顔は、本当に俺様を楽しませてくれるよ!」


 一人悦に入る「魔物」。

 これに対し、術の効力を苦ともしない「魔物」に呆然としているエンジェルの背からとびかかった者がいた。


 オオネスカ・ライト・バッシュフォード。


 その体を竜鱗で覆い、大きな竜の翼を広げて、「魔物」に対してすべての力を開放した。


 皮膚を覆う硬質の竜鱗が宙を舞い、その後方から光弾が続く。

 持っている剣が瞬時に3つに分裂、さらに「魔物」の周りを強力な力場を発生し、一瞬の足止めを狙う。


 そしてこれらの攻撃を一斉にぶつけた。


 通常の相手なら、人であれ「魔物」であれ、無傷で済むはずのない攻撃である。

 しかし…。


 吹き飛んだのはオオネスカであった。


 エンジェルが吹き飛ぶオオネスカの体を何とか受け止めることに成功した。


 オオネスカの攻撃は全て防がれ、逆に多くの剣戟を受ける結果になった。


「何が、起こった、の?」


 エンジェルは、オオネスカを背に乗せたまま急加速で戦線を離脱した。


 ばらばらで闘っている冒険者や学生を指揮するためにやってきたミノルフは、ただ茫然としていた。


 自分が指揮を執る前に、多くの戦力を失ったのだ。


「俺は、何もできないのか…。」


「カエサル」は腹から背中にかけて爆発したような状態で倒れたまま、全く動かない。


 師匠であるダダラフィンは右足を失い、その横にいるバンスに支えられてようやく立っている状態。


 エンジェル、ペガサスには肉体的には無事だが、自分たちの術がまるで通じなかったことに、ショックを受けている。

 呆然としてしまっていた。


 「魔物」はその隙を逃さず、宙を舞い、青い竜のペガサスに迫った。


 が、迫りくる「魔物」に対し、ペガサスは反射的に音波攻撃を浴びせると同時に、ミノルフを乗せたまま、地面すれすれまで急降下した。


 「魔物」もまた、その音波攻撃をまともに喰らい、一時的に活動が停止した。


 ペガサスが地面すれすれを高速で飛び、一旦戦場から離れる。


(申し訳ない、ミノルフ!敵の前で一時、呆然としてしまった)


「だが、その隙を奴は生かしきれなかったようだが…。何があった?」


(奴は私の体の中に攻撃してきたよ、確かに…。だが、どうやら私の中の「テレム」の流れを見誤った様だ)


 ペガサスとミノルフがツインネック・モンストラムの首が残った場所に差し掛かり、そのまま上昇に転じる。


 そこで、ツインネック・モンストラムの傍らに剣を握りしめて立ち上がったアルクネメの姿を目視した。


 凛として立つ姿は、神々しく美しい。


 この血なまぐさい戦場で、ミノルフはつかの間、見惚れてしまった。


「ここが、非常に「テレム」が濃く熱いもう一つの場所だったが…。」


(ツインネック・モンストラムの残留「テレム」が高密度で、あの少女に流れ込んでいる)


「凄い変貌だな、アルクネメ。開戦前にあれだけ緊張して引きつった笑顔をしていたが…。あの時の少女とは完全に別人だ。」


 短髪だったはずの頭髪が長く金色にたなびき、白く輝く羽毛のようなものを全身に纏い、同じ輝きを放つ一対の翼を背中から大きく広げている。

 その金色の瞳がこちらを見つめている。


(ああ、そうか…。彼女が助けてくれたのか)


「どういう意味だ、ペガサス。」


(どうやら私の体の中の「テレム」の流れを奴に分からないようにしたようだ。彼女の心が流れてきたよ)


「そんなことが出来るのか、アルクは。」


(一緒に悩みも、な。彼女があの場所から動かなかったのは、マリオネットへの戸惑いが大きいらしい)


「オオネスカの攻撃も明らかに焦りが見えた。」


(だが、決心がついたようだ。大きな決意の心が流れてきた)


「では、我々も、行くぞ!ペガサス。」


(もう、遅れは取らん。奴を倒す!)


 ペガサスが大きく旋回した。


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