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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第124話 捕食

 ダダラフィンとバンスはシシドーとヤコブシンを兵員輸送車でオービットの具合を見ていたアスカに託し、すぐに戦場に戻った。


 アスカは先ほどまでオービットを診ていてくれたシシドーの変わり果てた姿に驚愕し、すぐに治療に取り掛かった。


 シシドー追ったはずのサムシンクもその治療に参加していた。


 サムシンクの速度は、シシドーにはるかに及ばなかった。

 その為、シシドーとヤコブシンを連れて疾走するダダラフィンとバンスに途中で出会い、そのまま二人の搬送に協力したのである。


 アスカの冷たい目は続いているが、サムシンクにはこの二人の命を助けることに尽力した。


 ヤコブシンに関しては引きちぎられた左手の止血を行って、命に別状はなかった。

 が、シシドーの状態は酷かった。全身の火傷、右肩からの出血。

 だが、内臓の殆どが損傷している。


 アスカはシシドーの身体を懸命に冷却し、損傷部に疑似的な皮膚でコーティングを掛けるが、損傷部が多岐にわたっており、「テレム強化剤」で辛うじて生きている状態だった。


 サムシンクはアスカに合わせて、自分の中の「テレム」をシシドーに注入していくが、その消費は供給を上回っていた。


 アスカは自分の能力を最大限使い、体温を落とし仮死状態に移行させていく処置に切り替えた。


 サムシンクの献身的な態度に、少しその眼を和らげたが、事態は予断を許さない状態だった。




 ダダラフィンとバンスは速やかに戦場に戻るべく、地を駆けていた。

 いまだ「魔物」の討伐の報告は受けていない。

 「カエサル」とオオネスカ、エンジェルが戦っている筈だが…。


 なぜか戦闘に参加しない「スサノオ」の存在は気になるが、もし、全滅していればすぐに自分たちを追ってくるであろうことは容易に想像がつく。

 それがないという事は、まだ戦闘は続いてるという事だろう。


「あいつを止められますかね、大将。」


「絶対に止めてみせる!」


 ダダラフィンが力強く言い切った。


 二人の尋常ではない速度で、「カエサル」と「魔物」が対峙する戦場に着いた。


 「カエサル」の野戦服はボロボロに切り裂かれていた。

 細かな傷もあるようだが、大きな損傷は見当たらない。

 が、かなりの疲労が見て取れた。

 そして、「魔物」に対して攻め切れていない。


 一方、「魔物」に疲れも損傷も見られない。

 悠然としているように見えた。


 ダダラフィンは地を駆けてきたスピードのまま、「魔物」に突っ込むように襲い掛かる。


 自分の周りに光弾を発生させ、そのまま「魔物」にぶつける。

 兵員輸送車両にあった剣と小太刀を振りかざし、こちらに向いた「魔物」の足元を剣で薙ぐ。


 こちらに向いた「魔物」は自分に放たれた光弾を全く気にせずにダダラフィンに向かって跳んだ。

 光弾は不意に消失し、ダダラフィンの右ふくらはぎが爆ぜた。


 激痛がダダラフィンを襲う。

 バランスが崩れる中、宙空に跳んでくる「魔物」に小太刀を投げた。

 そのまま地面に転がるダダラフィンの後方からバンスのロングソードが「魔物」に向かった。


 自分に向かってくる小太刀を苦も無く掴んだ「魔物」は、しかしバンスのロングソードに対応が遅れ、小太刀を掴んだ右手を切断された。


 が、すぐさま左手で切断された右手を掴むと、空中で回転しつつ、その腕の切断面に掴んだ右手を躊躇なく付けた。

 その切断されたはずの右手は、切断された個所に何事もなかったように接着、すぐにその切断面が分からなくなった。


「今のは、気付かなかったな。もっと気を付けないと。」


 着地して、切断されたはずの右手を開いたり閉じたりしながら、そう呟いた。


 一瞬、驚愕の表情を作ったバンスだったが、すぐさま剣を杖代わりに立ち上がったダダラフィンの体を抱えて、その場から後退する。


 その直後、「カエサル」がその場から「魔物」に向かい、跳ぶ。


 薄ら笑いを浮かべた「魔物」が向かってくる「カエサル」に地に落ちていた小太刀を拾いつつ、投擲し右横に跳躍。

 だが、「カエサル」は空中で直角に軌道を変え、右手で「魔物」の顔を掴んだ。

 そのまま、接触直接攻撃を放とうとした刹那、「カエサル」の全身を冷たい感覚が走った。


 掴んだ右手が爆散する。

 と同時にその散ろうとした「カエサル」の散り散りになった右手が「魔物」の大きく開いた口に吸い込まれていく。


「ちっ!」


 後方に恐ろしい勢いで退避する「カエサル」。


「さすがに、右手が精一杯か。」


 「魔物」もまた、「カエサル」の接触に対し、直接にその右手ごと、捕食しようとした。


 いくらこの「テレム」の濃厚な空気でも、矢継ぎ早の戦闘で、自身の体力が消耗してきたため、一番栄養価の高いと思われる賢者を喰らおうとした。


 瞬時にその考えが「読め」た「カエサル」は、攻撃を絞り離脱を試みるも、「カエサル」の右手の中で「魔物」との力がぶつかり、結果、「カエサル」の右手が爆発した。


 「魔物」はそれでも、その爆散した賢者の右手の捕食に成功。

 自らの力が充足されてきたのを感じた。


 右手を吹き飛ばされた「カエサル」はすぐに出血を止めた。

 その右腕をやおら地面にたたきつけた。

 顔が歪む。

 するとその無くなったはずの右手がみるみる構築されてきた。


「ほう、土から構成成分を抽出して右手を再構築か。賢者の力と素晴らしいものだ。やはり、丸ごと食らいたくなってきた。」


「既にヒトではないとはいえ、やはり「魔物」化してきてるというわけだ。先程までは殺戮を、ただ楽しんでいただけだったが、喰らうことを欲してきたわけだな。」


 「カエサル」はそう言いながら、明らかに「魔導力」の強さが大きくなってきていることを感じた。

 その「魔物」の成長を観察している「スサノオ」の顔が笑っていることに、憎しみを感じる。


 「カエサル」の右手の再生を目の当たりに見たダダラフィンとバンスは、賢者が「魔物」のような化け物であることを痛感した。


 これが、同じ人類か!


 だが、その賢者の体の一部をその体内に取り入れた「魔物」が、より強くなっていることも、ダダラフィンとバンスは感じていた。



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