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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第123話 「サルトル」の要請

 ミノルフとペガサスは「カエサル」と「魔物」の戦闘地域に向け飛行している時に、戦闘用リングが「サルトル」からの連絡を伝えてきた。

 ミノルフが回線を開く前に緊急時非常回線が強引に開かれる。


【ミノルフ司令、今どこに居ますか?】


 勝手に兵員輸送車を飛び出してきている。

 それがバレて、引き帰すようにという警告かと思った。


「現在ツインネック・モンストラムとの交戦場所に向け、ペガサスと移動中です。」


 噓をついても仕方ない。

 どうせ、「バベルの塔」の住人たちに嘘も通じないし、本格的に監視網から逃げるにはそれなりの準備がいる。


【了解です。では、今そこで何が起こっているかも、分かっていますね】


「大体は。ですが正確な情報ではありません。出来れば情報をお願いします。」


【データーを送ります】


 「天の目」からの映像、並びに「カエサル」からの情報がアイ・シートに表示された。


「オーブが倒れた?それは聞いていない。では、現在の彼らの索敵能力は皆無に等しいわけか。」


【基本的に残っている者たちは「テレム強化剤」を使っています。基礎的な力は底上げされてはいますが…。オービット卿は何とか命は助かっていますが重傷なのは間違いありません。ただ、あの場所を移動させることが難しい。】


「マリオが「魔物」に。しかも賢者と対等に戦えるほどの技量。しかもグスタフ殿は亡くなり、シシドー殿とヤコブシン殿も今はアスカが何とか命を持たせてる状態だと、今は「医療回復士」のアスカをあそこから動かすのは難しい。「天の恵み」回収用運搬車もかなり離れた。並走する車両で医療スタッフと兵士をUターンさせて戻るにしても、時間がかかると。」


【その通りです。さらに、今アスカは、一緒にいるサムシンクに不信感を持っています】


「それは何故?」


【オーブが攻撃を受けて心臓を破壊された時、サムシンクは一時的に防御を解いています】


 その言葉は、ミノルフには衝撃だった。

 何のために「防御剣士」のサムシンクが「探索士」のオーブと共にいたというのか?

 「探索」を全身全霊で行ってるときに、全くの無防備になるからではないか!


【ミノルフ司令のお怒りも理解できます。が、サムシンク本人は「オーブが防御を解いて欲しい」と請われたと言っています】


 そんなことがあるか?

 探索中に防御を解くという事が…。


【倒れる前のオーブの言葉だそうです。「悪魔の少年がいる」と】


「悪魔の少年?どこにですか?」


【これは「バベルの塔」で指揮を執っている賢者「ランスロット」からの情報です。「ランスロット」は最悪の事態の対しての行動をとっていたのですが、その過程で高度100㎞の位置に重力の歪みが検出されたという事です。これが何かは今のところ不明ですが…】


「つまり、オーブの索敵範囲だった40㎞を超えたところに歪みがあった。それを見るために防御を外す必要があった。「サルトル」様はそう考えているのですね。」


【おそらくです。オービット卿は「テレム強化剤」でその能力さらなる高みに押し上げていた。しかし、それが遠方すぎて、サムシンク卿の張る、半透明の防御障壁ですら、その索敵能力に影響を及ぼすほどだった。そのためその防御の解除をサムシンク卿に頼み、どうやらその目的を果たした。その直後に攻撃を受けた。しかもその車両を破壊するようなものでなく、サムシンク卿の心臓をピンポイントで攻撃できる精度を持った兵器か何かで…】


「一体誰が…?」


【敵です】


「敵?ツインネック・モンストラムですか?」


【いえ。そのツインネック・モンストラムを操っていたと思われる、本当の敵だと思われます。これは全くの私の想像ですが…。マリオネット卿の「魔物」化も、その敵が絡んでいるのではないかと思います。】


 「サルトル」の言っている意味が分からなかった。

 ミノルフにとって、今までの「敵」は「魔物」だった。

 今回の件でシリウス騎士団団長アインが敵になったことも解っているが、それ以外の「敵」とは?他の城壁都市国家?


「このマリオの「魔物」化が誰か、そう「敵」の仕業だと考える根拠は、なんですか?」


【タイミングです】


「タイミング?」


【はい。ツインネック・モンストラムを倒した直後に、ヒトが「魔物」と化した。タイミングが良すぎます。どういったことをすればヒトの「魔物」化が出来るのかは今の所分かってはいませんが…。私はそう考えています】


 ミノルフにとって、そんなことのできるものは、それこそ「神」でもなければ無理だと思った。

 そして、もしヒトの「魔物」化が人為的なものだとしたら、我々では勝てない。


 気持ちを切り替える。


「現在の状況は理解しました。それで、私は何をすればいいのですか?」


【基本は「魔物」の討伐です。が、現在の兵力はあの場に残っている数人しかいませ。そして何が起こっているのかわからない状態での、個々の対応でしかありません。「カエサル」は戦っていますが、どうも「スサノオ」が動かない状況です。今、あの場を俯瞰して見れるものがいないのです】


 そこで一度「サルトル」は言葉を切った。


【ペガサスがエンジェルに呼ばれて現場に急行している意味は理解しています】


 戦闘地点に急ぎ、空を飛び続けるペガサスの身体に強張りともいえる力が入ったのが分かった。


【エンジェルからの要請だと思いますが、お二方で協調しての固定化現象を、「魔物」に試みるつもりでしょう?】


 ペガサスの動揺ぶりが、背に乗るミノルフに伝わる。


【飛竜族の、特に「魔導力」に優れたものが持つ特殊技能の一つですね。我々人間には絶対に知られてはいけないと言われる術の一つと記憶しています。確かに「魔物」には有効かもしれません。固定化現象は、我々人類にも使える者もいますが、どうやら原理は全く別物、そうでしたよね?】


(そうだ)


 観念したようなペガサスの響きだ。


【飛竜族の使う固定化現象は単独では効果が弱い。特にこの「魔物」は危険極まりないと判断したエンジェルが、ペガサス、あなたを呼んだ。そうですよね】


(我々の秘術、動体固定術は出来れば3方向から掛けることが望ましいのだが、最低でも2方向から掛けないと、逃げられてしまう可能性がある。その為エンジェルは私を呼んだ。全く「サルトル」の言う通りだ)


【お願いできますか、ミノルフ司令】


「つまり、飛竜族の秘密をたてにした脅迫ってことかい?」


【いいえ、要請です。受けて頂けますか?】


 どのみち、そのマリオだった「魔物」は倒さなければならない。

 賢者と対等に戦う「魔物」の存在を許すわけにはいかない。


「了解した。シリウス別動隊司令キリングル・ミノルフ、賢者「サルトル」の要請を受諾した」


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