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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第10章 賢者の哀しみ
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第119話 オオネスカの葛藤

 ダダラフィンとバンスがヤコブシンとシシドーを抱え、そのまま跳ぶように「魔物」から距離を取る。


「マリオ、何故なの?」


 オオネスカはエンジェルから離れ、音波攻撃から立ち直った「魔物」化したマリオネットに近づく。

 全身の赤い目が竜の翼を広げたオオネスカに向けられていた。


「いったい、なんで、こんなことになったの?グスタフさんはあなたのことを守ってきたのに…。」


 何も答えず、「魔物」はオオネスカが近づいてくるのを黙ってみていた。


 オオネスカには一回り以上大きくなった黒い皮膚と赤い目の「魔物」が、あの粗野だが優しいかったマリオネットであることがどうしても信じられなかった。


 「魔物」とは一体何なのか?


 今まで、講義で何度か聞いた気がした。


 いつ、どのように発生したのか。

 どうして「魔物」が出来るのか?


 まるで解っていないという様なことをその時の講師は言っていた気がする。

 そして、ヒトの「魔物」は今まで存在しなかったことも…。


 だが、今目の前に、自分の友人が「魔物」と化したところを見た。

 そして、我々を守ってくれた恩人をその手で殺した。


 ヒトは「魔物」にはならないのではなかったのか?


 泣きそうになる自分の感情を抑え、「魔物」に向かう。


 「魔物」の口元に笑みが浮かんだ。


 いきなりオオネスカの身体に衝撃が走った。

 そのまま後方に飛ばされた。


「これは、エンジェルがやった音波攻撃!」


 「魔物」の笑みを感じた瞬間に張った障壁が、オオネスカの命をかろうじて救った。

 だが跳ね飛ばされ、うまく受け身をとれなかった身体が地面に叩きつけられ、痛みが駆け巡る。


「初見で真似るのは、やっぱり難しいか。死んでねえとこを見ると、な、伯爵令嬢さま。」


 倒れているオオネスカに、マリオネットの声音でそう語ってくる。


「マリオ、何故?」


「令嬢さまはこんなとこ出てこないで、決められた許嫁との子作りでもしてたらよかったんだよ、なあ、ミカサ侯爵のアヤナス坊ちゃんとさ。」


 そのことを知っているのは、マリオネットとアスカだけだ。

 自分に「特例魔導士」のファンファーレが鳴り響いたときに、その婚約は解消されている。


 アスカは自分の侍従のような立場だったが、マリオネットはクワイヨン高等教育養成学校で自分に初めて声を掛けてきた人間だった。

 養成学校での苦楽を共にしてきた友人だった。


 何が起これば、こんなことになってしまうんだろう。


 このマリオネットだった「魔物」は、明らかにマリオネットの記憶を持っている。

 そして、その記憶を相手の弱点に容赦なく利用している。

 悪意の塊だった。

 そして、殺意もまぎれないものだった。


 痛みが走る体を無理矢理起こし、オオネスカは「魔物」と距離を取るために、後方に飛ぼうとした。

 が、それを許すような相手ではなかった。


 瞬時にオオネスカとの距離を詰め、そのまま右の拳を鳩尾に叩き込みに来た。


 そのまま鳩尾に右拳が当たれば、アームインパクトをもろに喰らう事になる。


 恐ろしい金属音と共にオオネスカの身体が宙空に舞い上がった。


(お嬢!)


 エンジェルの声にオオネスカは自分の身体の異変に気付いた。


「金属音?」


 オオネスカは「魔物」の攻撃をまともに受けたにもかかわらず、身体に損傷がないことに気付いた。

 大きな翼を広げ、宙に留まる。


 オオネスカは自分の肌がガシャガシャ鳴っていることに違和感を覚え、腕に視線を移す。


「なに、これ?」


(おお、お嬢!見事な竜鱗だ。その竜鱗があやつの衝撃を防いだのか!)


「なんでアルクはあんなに綺麗なのに、私は半魚人みたいになるのよ!」


(くるぞ!)


 「魔物」がオオネスカが無事なことに苛立ったように、突っ込んでくる。


 オオネスカが剣で「魔物」を弾き、オオネスカの竜鱗が生き物のように肌から離れ加速して「魔物」に突き刺さる。

 「魔物」はそのまま地上に落ちて行った。


 そこに高速で「カエサル」が攻撃を仕掛ける。

 が、「魔物」は笑いながら赤い礫をばらまきながら、「カエサル」にその拳を向けた。


 「カエサル」はその礫を一切避けず、さらに減速もせずに「魔物」にぶつかり、そのまま駆け抜けた。


 赤い礫は全く「カエサル」に触れることはなかった。

 アームインパクトも「カエサル」には通じなかった。

 だが、「魔物」は腹を切られ、吐血していた。


「ふっ、そういうことか。」


 「魔物」は呟くと、距離を取って「魔物」を見ている「カエサル」に視線を向けた。


「これがヒトが「魔物」化するということか!」


 口から血の塊を吐き出し、そう言った。


「体内にある「テレム」を爆発させる術すら、自分が受けると出来るようになるのか。」


 「魔物」の傷がふさがっていく。

 また、笑みを浮かべた。


「ちっ、2度目は受けないとは、さすがに「バベルの塔」の住人は違うな。」


 「魔物」の体内に対する攻撃に瞬時に反応する「カエサル」。

 だが、見た技を瞬時に自分の物にする才能。

 確かに、この「魔物」は厄介だ。


「さあ、まだもっと持ってんだろう。見せろよ、「バベルの塔」の住人さんよお。」


 なぜ、「スサノオ」は動かない?


 いまだ、ツインネック・モンストラムの亡骸の上でこちらを見ている「スサノオ」に対し、「カエサル」は不審に感じた。

 どうも、この「魔物」を観察しているように感じられた。


 この、まだ「テレム」の濃度が高い段階で、どうすればいいか。

 「カエサル」には判断がついていない。

 一撃で倒せる方法がない以上、奴を喜ばせるだけである。


「来ないなら、こっちから行くぜ!」


 「魔物」が逡巡している「カエサル」に敵意をむき出しにして、向かって行った。


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