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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第9章 アルクネメとツインネック・モンストラム
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第111話 サムシンクの心情

 サムシンクは、両目を固く結び、かなりの力が体に入っているとみられるオービットの姿に、これが選ばれたものの姿であることを痛いほど実感していた。


 自分たちは「特例魔導士」であり、強力な「魔導力」の使い手であることは自覚している。


 一般の人々から見れば、非常に恵まれた待遇でこの国で生きていられると思われるだろう。


 確かにサムシンク自身、自分の「魔導力」が強いという自負はある。

 だが、横にいるオービットや、アスカはもとより、アルクネメ、マリオネット、そしてチームリーダーであるオオネスカなどは、異次元の存在にしか見えない。


 同じ「特例魔導士」であるにも関わらず、何故、彼らはあんなにも能力を高めることが出来るのだろうか?


 ユスリフル野営地戦でその命を散らしたディアムロは、その強さは間違いなかった。

 だが、彼は「探索」というものをあまりにも軽視していたため、オオネスカは彼と袂を分かつ結果になった。

 サムシンクは、当時オオネスカの気持ちが分からなかった。


 実際にディアムロが抜けアルクネメが入ったオオネスカチームはランキングを大幅に下げた。

 逆にディアムロを受け入れたリジングチームは、今まで1桁になることがなかったのに、いきなりトップ5に躍り出たのだ。


 クワイヨン高等教育養成学校でのランキングに影響を与えるのは、模擬戦、「魔導力」を教授する教官のチーム5人との「魔導力」での模擬戦闘、学校の要請で冒険者が捕獲してきた、生きたままの「魔物」との結界内での駆除を行う「魔物」駆除戦、「バベルの塔」内の「テレム」で満たされ限定戦闘空間での「鉄のヒト」3体との総合戦闘、そして座学の筆記試験の合計ポイントで決定される。

 実際に学生同士で戦うのは模擬戦のみである。

 このため、単純な剣技で、優越を決めたがる学生が多く、下の成績の者を馬鹿にする傾向はあった。

 それが「探索士」や「医療回復士」を馬鹿にするような傾向に繋がっている。


 このことは、実戦を経験し、少なくない仲間を失ったものには、骨身にしみていたはずである。


 このチーム編成は、クワイヨン高等教育養成学校に在籍する学生であれば8名以内で自由に構成できる。

 しかし、低学年が入ればポイントの減少は致し方ないものであった。

 その為、通常4年時でチームの構成員に選ばれることが多い。

 3年時のアルクネメを加入させることで、必然的にランキングは落ちることになる。

 当然個人成績も同様の評価を受ける。

 団体戦では個人の功績も個人の成績に加味され、卒業後の進路に大きく影響する。


 つまり、チームは学校内のものでしかなく、卒業後に同じチームで働く機会は非常に少なくなるので、基本、剣士、戦士で固まる傾向は否めなかった。


 サムシンクにオービットに対する妬みは確かにあった。


 学校でのオービットの評価はスタイルがいい、「外見だけの女」というのが学生たちの中で囁かれていたものである。

 そして、サムシンクもそれを信じていた。


 模擬戦では後方でほぼ戦闘に参加せず、教授との「魔導力」戦でも目立つことはなかった。

 「魔物」の駆除戦で剣を振るう事はなかったし、「鉄のヒト」との時も、アルクネメに助けられていたのを思い出す。

 だが、思い直せば、すべて後方から相手の動きをチームメイトに正確に伝えていたのだろう。

 よく、相手の先を行く反応を他のメンバーがしていたことを思い出した。

 だからこそ、個人の成績が良かったことを思い出した。

 あれはオービットの女性の武器を使っているのではないか、とまことしやかに囁かれていた。

 だが、今はそれが嘘だという事を見せつけられていた。


 ディアムロの死は、言うなれば自業自得だ。

 それはサムシンクにとっては疑いようはない。

 だが、ディアムロを庇おうとしてリジングの死は、サムシンクにとって後悔しかなかった。


 おそらく、オオネスカを敵視するディアムロがチームに居なければ、リジングもリゲルも死ななかったのではないか?


 ふと、そう思ってしまい、結果的にオービットが間接的に殺したのではないかと考えてしまい、それを懸命に否定する。

 もう何度もサムシンクの心の中でループしていた。


 オービットから送られる戦場の様子は、非常にまずい状態であった。


 対「魔物」駆逐弾頭がすべてなくなった。

 うち、ツインネック・モンストラムに命中したのが3発。

 だが、駆逐には至っていない。

 ツインネック・モンストラムの背から伸びる「糸」により供給される「テレム」により、いまだ健在である。

 賢者が二人がかりで挑んでいるが、目に見える成果が得られてはいなかった。


「あ、あれは…。」


 ふと、オービットが呟いた。


「どうしたの、オーブ。」


「「糸」の出てるところが、かすかに…。でも、そのそばに、何か…、我々に対する、悪意がある。」


 オービットはその眼に見えているわけではない。

 当然である。

 オービットはこの態勢になってから一度も目を開いていない。


「悪意?我々に…。それは、「魔物」達を操ってるやつなの?」


「分からない、遠すぎる…。サムシンク、障壁を解いて、くれない?」


 オービットはそう言いながら、「カエサル」から渡されているあの円筒、「テレム強化剤」の容器を持ち上げた。


「遠すぎて、よく解らないから…、障壁を解いてくれると、見えるかもしれない、から…。」


 そう言い終わると、自分の左手を露出させ、円筒を押し付けた。

 そしてボタンを押す。


「それ、「テレム強化剤」の容器。大丈夫なの?」


「もうちょっと、もうちょっとで見える、の」


「うん、わかった。」


 サムシンクは広範囲に展開していた障壁を解除した。


 オービットは少し靄がかかっていたような、風景が鮮明になっていくのが分かった。


 そして…。


「見つけた!」


 その瞬間、オービットの心の視界が白で埋め尽くされた。


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