第108話 対「魔物」駆逐弾頭 Ⅳ
「スサノオ」と「カエサル」は野戦服に身を包み、一路交易ロードを目指す「天の恵み」回収用搬送車から前線、ツインネック・モンストラムに向け飛翔した。
「新型砲塔の一つが潰されたようです。」
「カエサル」が悲壮な想いで「スサノオ」に投げかけた。
「ああ、あと4発になってしまった。直撃した対「魔物」駆逐弾頭は予想どうりにツインネック・モンストラムの「テレム」を奪ってくれたが、天より無尽蔵に供給されているのであれば、漏れている個所を防がれては、意味がないな。」
「とりあえず、残った2台の砲撃車を防護しないとまずいが…。「ランスロット」からその後の情報は?」
「「天の雷」を動かして、周りの状況を確認してるようです。「テレム」をビーム状にして供給しているとすれば、最大射程を考えると、静止軌道が限界だと思いますが。」
「レーダーも他の「天の目」を活用していますが、そのような衛星を捉えることが出来ません。」
「「ランスロット」の情報収集を待つしかないな。「カエサル」は左翼の援護と砲撃車の防御を、私は右翼に行く。」
「了解!」
二つの飛行隊が分離し、各々の部署に向かった。
アルクネメは光の翼を羽ばたき、オオネスカとエンジェルのいる高度まで飛んだ。
「砲撃車がやられたわ、アルク。」
近くに来たアルクネメにオオネスカが告げた。
それはアルクネメも承知していた。
だがそれよりも、オービットが「探索」した結果をアルクネメは気にしていた。
どうやら「魔物」を操る存在、「敵」がいるらしい。
もし、今「敵」がオービットの存在を知ったなら、おそらく攻撃目標がオービットになる可能性を考慮し、アスカにオービットのそばについてもらったのだ。
アルクネメはこの高所からツインネック・モンストラムを見つめた。
その小高くなっている背中を。
そして、確かに見えた。
そこまで優に500mはあるだろうが、微妙に光が散っている感じの細長い存在。
確かに絹糸よりはるかに細い。
その先の赤い目がその極細の糸を受け止めていた。
あの糸を切断することが出来れば、ツインネック・モンストラムの動きが止まるはずだ。
そう考えた瞬間だった。
「「撃てー!」」
砲撃を指示する言葉がアルクネメの耳に同時に伝わる。
右翼、左翼共に対「魔物」駆逐弾頭をツインネック・モンストラムに解き放った。
先に受けた左の肩の部分は黒い肉が盛り上がりつつあった。
左翼から撃たれた対「魔物」駆逐弾頭は明らかにツインネック・モンストラムの首を狙って放たれた。
右翼は逆に右の足元に照準がつけられていた。
首に吸い込まれるように加速した弾頭は、ツインネック・モンストラムの目がその弾頭を見た瞬間、その首に大規模な半透明の障壁が出現した。
しかもその障壁は、先の障壁と異なり、微妙な角度をつけていた。
その影響で、弾頭は弾かれ、空中にその進路を変えた。
そのまま上空に姿を消し、直後爆発した。
「ダメか!」
ヤコブシンの悲痛な叫びに、グスタフがおもむろに円筒形の「テレム強化剤」注入器を腹部に打った。
「グスタフ!なにをやっている!」
グスタフの行動に、シシドーが大声でグスタフの行動に止めに入った。
しかし、遅かった。
2本目の「テレム強化剤」の注入に、シシドーもヤコブシンも目を見張った。
明らかに大きさが違う。グスタフの強靭な体を包んでいたはずの野戦迷彩服が敗れた。
肌の色も、もともと浅黒かったが、さらに黒さをましている。
「どういうつもりだ、グスタフ!死ぬぞ!」
「大丈夫さ、マリオもやっているよ。俺たち戦士は近接戦闘を得意としている。このままじゃ、みんな死ぬだけだ。ちょっと行ってくる。最後の対「魔物」駆逐弾頭、外さねえでくれよ。」
そう言い残して、もう弱腰になっている「魔物」達に突入していった。
次々と「魔物」の体が宙を舞っている。
そして、その場から高々と跳躍し、そのままツインネック・モンストラムの首に渾身の「魔導力」を込めた拳を打ち込んだ。
爆発音。
しかし、ツインネック・モンストラムには通じないようだ。
分厚い皮膚に少しばかりのくぼみを作っただけであった。
「畜生!かてえなあ。」
落ちながら、眼下にいる「魔物」たちにグスタフはアルクネメが得意としていた光弾を降り注ぐ。
大部分の「魔物」達が逃げた場所に綺麗に着地した。
「3発目、撃ちます!」
すぐさま放たれた対「魔物」駆逐弾頭は修復されていく左の肩に再び着弾した。
いや、着弾する前に固定化され、そのまま地面に落下、爆散した。
が、それと同時に右翼から歓喜の声が上がった。
右翼の放った弾頭弾はものの見事に右足に激突、爆発した。
ツインネック・モンストラムはバランスを崩し、右の肩がそのまま地面に屈する。
倒れたツインネック・モンストラムはその瞳を砲撃車に向けると、短く音のならないようなか細い声を発する。
「砲撃車、動きません!」
「電気系統沈黙。エンジン停止。弾頭装填できません。」
「全員退避!」
砲撃車長の絶叫に他の二人もあわてて、砲撃車を飛び降りた。
直後、ツインネック・モンストラムの瞳が動かない砲撃車にそそがれた。
爆発。
この瞬間、「スサノオ」達の反撃の切り札がなくなった。




