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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第9章 アルクネメとツインネック・モンストラム
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第106話 対「魔物」駆逐弾頭 Ⅱ

 新型砲塔―電磁式加速射出機は、対「魔物」駆逐弾頭を一瞬のうちに超高速に加速させその貫通力を極限まで高めるための兵器である。

 その極限まで加速されて放たれた弾頭は、その大きさゆえ、通過した空間に衝撃波を伴って、目標物―ツインネック・モンストラムの正面左に衝突する。


 その弾頭は、ミノルフとオオネスカ、アルクネメの渾身の一撃でさえ、弾き飛ばすような超高硬度の装甲を纏った皮膚を、苦も無く突き破り、ツインネック・モンストラムの身体を切り裂いていく。

 しかし、その貫通力をもってしても、その化け物めいた強靭な体を貫くまでにはいかなかった。

 だが、この弾頭の性質上、この状態は願ってもないことであった。


 ツインネック・モンストラムの皮膚を破り、体内に入ると、その信管が反応し、爆発。

 中に装填されていた「テレム分解剤」がその体内にばらまかれた。


 対「魔物」駆逐弾頭を撃った国軍兵士はツインネック・モンストラムの左肩が爆散する様子に、歓喜の雄たけびを上げた。


 そのそばにいた、普段あまり感情を外に出さないアスカもつられて右手の拳を空に突き上げる。

 空中に退避しているアルクネメと、アルクネメの両腕に抱えられている緑のマリオネットの口元にも笑みが浮かぶ。

 その二人の少し上を旋回するオオネスカとエンジェルもかすかに安堵のため息を漏らした。


 アイ・シート上にツインネック・モンストラムの「テレム」がその爆散した肩から、消失していくことを知らせている。


「よし、この弾頭は奴に効果覿面(テキメン)だ!」


 アスカが彼らしくない興奮した声を出した。


 だが、興奮しない方がおかしい。

 今までほぼ闘う手段のなかったツインネック・モンストラムの体の一部を、それがたとえ「バベルの塔」の技術だとしても、傷つけることが出来たのだ。

 これで、倒す算段が、やっとこの化け物との戦いに終着の未来が見えてきた。


「2発目装填、急げ!」


「2発目、装填!」


 この新型砲塔を扱う国軍兵士の士気も高まっている。

 2発目の対「魔物」駆逐弾頭を装填し始めた。


 ツインネック・モンストラムは左の肩の部分と思われる部分が破壊され、苦痛の絶叫を上げている。

 この戦場全域に響くこの咆哮は、クワイヨン国の全兵士の戦闘意欲を確実に上げている。


 フォルクとアジルによって開けられた(クサビ)を、騎士と冒険者が懸命に維持している。

 「魔物」達をある程度駆逐し、その数が少なくなっていたことに加え、ガンジルク山に戻り始めている「魔物」達もかなりいるらしく、最初の戦闘に比べると非常に楽になった印象が彼らにはあった。

 とはいえ、この「魔物」達が強いことに変わりはなく、少なくない被害は出ていた。


 ダダラフィンは、久しぶりに両手にそれぞれ大型の剣を持っていた。

 バンスは自分の手に馴染んでいる剣を右手に持ち、盾を左手に持ったいつものスタイルで、その開かれた空間に飛び込んでいく。


 ダダラフィンが押されている騎士たちの後方から飛び上がり、回転しながら、その場にいた3頭の「魔物」の首を正確に刎ねていく。

 さらにその骸の後方から繰り出される数百の針も、その大型の2本の剣により防御され、飛ばしていた本体であるヤマアラシのような黒と赤で彩られた「魔物」の体を両断する。


「負傷してる者は一旦引け、ここは引き受ける。」


 瞬時に4体の「魔物」を葬ったダダラフィンに驚いていた騎士のうち2人が後退した。


 一人の冒険者はそのまま剣を構えなおす。


「伝説のデザートストーム2刀流、ダダラフィン殿と戦えるなら、帰って自慢できます。やらせてください。」


「モノ好きな。まあ、まず生きて帰ることだ。名は?」


「アルデバランのコロウ・ジー・サカキハラ。だた一人の生き残りです。」


「今回の、でか。」


 アルデバラン、聞いたことのあるチームだ。

 すでに数度、こういった「リクエスト」に応じている。

 「天の恵み」回収作戦も、これが初めてではないだろう。

 と言っても、今回の「リクエスト」を初めてではないものなどいるはずがない。

 この事態は異常だ。


「はい、学生たちを助けようとして…。」

 思い出した。

 チームリーダーはゴリン・オーバード。

 情の厚い男だった。


「確かに、奴ならそうするか…。俺と違って優しい男だったからな。」


「やっぱりご存じでしたか。うちの師匠。」


 「魔物」達が襲ってきてはいるが、先の圧力は感じない。

 この戦場で、敵であるあいつらに何か変化が起きている。

 もしかしたら、オーブは既に分かっているかもしれない。

 「探索士」であるというのもあるが、彼女の能力は異常だ。

 しかも体内に入れた「テレム強化剤」は確実にこの体を、能力を強力に変えている。

 オーブがどれほどの能力を手にしたか想像すると寒気がする。


 相対する「魔物」とは違う方向から、火炎が球状になってこちらに迫ってくるのが解る。


 ダダラフィンはそちらに視線を向けることなく大剣をふるった。

 数十の光弾が火球を打ち砕き、さらにその火球を吐き出した2本足で動く人間ほどの大きさのトカゲじみた「魔物」を切り裂いていく。


 その光景を目にしたコロウの身体が一瞬、動きを止める。


 その隙に「魔物」が付け込む。

 一瞬の油断に体が動かなくなった。

 「魔導力」で他の物を動かなくできる固定化現象。

 まさか、「魔物」でも使う奴がいることをはじめって知った。


 その「魔物」はベア級の一回り大きいサイズのトカゲ、いや、前時代に隆盛を極めたとされる恐竜、レックス級という奴だった。

 固定化されたコロウにさらに火球を放ってきた。

 この戦法は、ただ攻撃してくる通常の「魔物」と、確かに一線を画していた。


 知能を持ち始めている!


 火球が迫る中、左手に持つ盾を上げることが出来ない。


 ここで死ぬのか!

 やっと伝説の剣士と、師匠がその技術と人柄を讃えた人物と戦える時に!


 コロウはその死の瞬間を確信した時、その火球は大きな剣に阻まれ、そのトカゲは十文字に切り裂かれていた。


「最後まで諦めるな!諦めた時が死ぬ時だ!」


 大型の剣で自分を救った人がそう叱咤した。


 十文字に切り裂いた人物は、そのまま奥で戦う騎士を襲う「魔物」に向かっていた。


「ゴリンもそう教えたはずだ!」


 その尊敬する人物は、やはり師匠が憧れた人だった。



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