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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第9章 アルクネメとツインネック・モンストラム
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第104話 対「魔物」駆逐弾頭 Ⅰ

 「ランスロット」は、モニターの前に座り、懸命にコマンドと数値を入力し、その巨大な装置の調整を行っていた。

 モニターの両横には通称「天の目」と呼ぶ、8個の対地上観察衛星からの画像が映し出されている。


 対地上観察衛星「天の目」は8個の衛星がそれぞれの観察区域が被らないように、静止衛星軌道上にあり、この世界の80%をカバーしていた。

 当初は10個の衛星だったのだが、一つは衛星の軌道を外れて、遠い宇宙に飛び出してしまっている。

 もう一つは変わらず静止衛星軌道上を飛んでいるのだが、故障したためか、こちらからの制御ができない状態になって久しい。


 そして今、「ランスロット」は23か国会議で了承された「天の雷」―対地上攻撃用雷撃射出衛星を、ガンジルク山近くに照準を合わせられる静止衛星軌道上への移動を行っていた。




 その地上では、光に包まれた羽根をはばたかせ、アルクネメが「魔物」達の頭上を越え、逃げ場を失い、それでも必死に「魔物」達と戦う国軍兵士の上に辿り着いたところであった。


 そのままその場で回転し、その光の羽根から続けざまに光が放たれた。


 その光は国軍兵士を守るように、周りの「魔物」達を貫いていく。


「何人残ってますか!」


 アルクネメは折れた剣で、目の前のエレファント級を睨みつけていた兵士に聞いた。


 突如光を纏い現れた女性に一瞬目を奪われていたその兵士は、その質問で同じ人類であることを理解した。


「息のあるものは、今は4人です。」


 見ると、5体満足の兵士はその男だけで、あとの3人は手足のどれかが欠損していた。

 一番ひどいと思われる男は、腹が割かれ、内臓が見えている。

 しかし、息はしていた。

 そのたびに血がとめどなく流れていたのだが。


 アルクネメはその4人にやさしげな眼を向けた。

 すると、光の羽根から先ほどとは違う柔らかな光が彼らを包み始めた。

 4人の兵士は急速に血が止まり、その部分を新しい皮膚が覆っていく。

 そして生きることを辞めたいくらいの痛みが引いていった。


 それを確認したアルクネメの剣が、「天の恵み」の方向に向けられると、そこにいた「魔物」達に大きい光弾が発せられた。

 それとほぼ同じタイミングで、マリオネットがアルクネメの方向に右ストレートをくり出す。

 その拳から光の塊が放出され、その方向でマリオネットと対峙していた「魔物」が跡形もなく消し飛んだ。


 アルクネメの光弾とマリオネットの光の塊が正面からぶつかった。

 その刹那、巨大なエネルギーがその空間を消し飛ばす。


「退避ルート確保。直ちに逃げて!」


 アルクネメの願いのような命令に、助けられた4人はお互いをかばい合いながら、そのルートをマリオネットのいる方向に逃げようとした。

 が、そこに立っている緑色の皮膚を持つ大男にその足が止まった。

 まるで悪魔にあったような表情で凍り付いている。


「大丈夫です。その人は味方の戦士です。「魔物」ではありません。」


 固まっている理由がマリオネットの異形にあることに気付き、アルクネメはそう声をかけた。

 一瞬、最初に助けた兵士がアルクネメを見たが、意を決して、そのまま進み、何事もなくマリオネットの脇を抜けていった。


「なんだ、今の態度は?」


「自分の姿がわかりませんか、マリオ先輩?」


 アルクネメはそう言いながらリングで自分の目に映るマリオネットの姿を送る。


「なんじゃ、こりゃ。まるっきり化け物じゃねえか。なんだ、古来の鬼みたいだ。」


 全くその姿は悪鬼そのもの。

 よく言えば戦鬼と言ったところだろう。


 アルクネメのリングが受信を確認。

 送信者は目の前の戦鬼、マリオネットだった。


「えっ、これが私?凄い綺麗!」


 そのイメージは光りに包まれた女神のようであった。


 今は短髪の髪が長くなっており、野戦服が綺麗な白銀の羽毛のようなもので覆われている。

 光り輝く羽根、いや翼がその背後に大きく広がっている。


「まさか、マリオ先輩にこんな天使のように見られてるなんて…。」


「違う!俺がお前をそう思ってる心象風景を写したんじゃねえよ。なんで俺がこんな恐ろしい化け物でアルクは女神みたいになってんだよ!そういや、エンジェルは黄金の竜になってたしな。」


 今二人の周りには球状の障壁が発生されており、「魔物」達からの攻撃を完全に遮断していた。

 新型砲撃車が所定の位置に配置されてくるのを待っている状態である。


 二人は軽口をたたきながら、周りの状況を確認し、砲撃車からの対「魔物」駆逐弾頭が射出できる状態を保っている。


「やっぱり「テレム強化剤」の影響ってことだよな。」


「たぶん、その「魔導力」の性質が影響を与えてると思いますけど、でも…。」


「うん、この「魔物」達、弱すぎるよな。」


 そう、明らかにここにきて、その弱さが浮き彫りになってきた。

 彼らが「テレム強化剤」を使用し、「特例魔導士」としての「魔導力」が格段に増強している状態ではあるが、A級とされる「魔物」達をこうもあっさり倒せることが考えられなかったのである。


 ツインネック・モンストラムに追従する「魔物」達という状況も不可解である。


【オーブより、各員に報告。追従していた「魔物」達に異変。ツインネック・モンストラムの後方に追従した「魔物」達が戦線を離脱を開始。ガンジルク山に逃走しているものが多数】


「何が起きている?」


 オービットの報告に、マリオネットがそう疑問を呈した。


「分からない、分からないけど…。」


 恐らく、この「魔物」達をツインネック・モンストラムに追従させていた何らかの拘束力が緩んだ、という事だろう。


 アルクネメは弱すぎる「魔物」達も、その拘束力が何らかの形で作用しているかもしれない、と考えていた。


【マリオ、アルク、準備は整った。射線を通してくれ】


 アスカから対「魔物」駆逐弾頭の発射準備ができたことを知らせてきた。


 二人は目を合わせ、射線を通すため新型砲撃車方向の「魔物」達に光弾を掃射、そのままアルクネメがマリオネットを後ろから抱えて、そのまま光の翼を大きく広げ、羽ばたく。


 二人が空に舞い上がると、オオネスカが空から射線上にさらに攻撃を加え、射線を確保した。


 新型砲撃車が低いうなるような音を発し、最初の対「魔物」駆逐弾頭が発射された。


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