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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第8章 「天の恵み」回収作戦最終局面
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第102話 死の戦場

 計8台の爆裂薬積載車両の爆発により、4つのツインネック・モンストラムへの道が開けた。

 そこに国軍、シリウス騎士団、混合騎士団が殺到していく。


 左側をシリウス騎士団、中央二つを国軍兵士、そして右側をフォルクとアジルを先頭とした混合騎士団が突入した。


「いいか、この国を守るのはこの国軍兵士だ。国軍兵士の誇りをもって「魔物」どもを粉砕しろ。騎士団などと名乗る私兵ごときの背陣をなめるようなことをするな!」


 国軍統制司令ユニスモーラ・クリフォント少将が前線に立ち、そう兵士に士気を高めた。

 すぐそばにいる騎士団を競争相手とすることで、兵士たちはよりいっそう戦意を燃やしていた。


「我々シリウス騎士団は今危機にある。この戦闘の功績を持って汚名を返上せよ。騎士魂を示せ!」


 アサガ・ジェニエートが、このシリウス騎士団の逆境を語り、その戦意を上げうるための言葉を吐いた。

 それに騎士たちは掛け声で答える。


「栄光あるシリウス騎士団に光あれ!」


「光あれ!」

「おお!」


 混合騎士団にはまとまった言葉はない。

 ただ、自らの実績を示し、さらなる上に行くこと。

 その思いだけだった。

 そして、そのトップをルーノ騎士団団長フォルクと学生であるアジルが物言わずに、恐ろしい勢いでそのあいた隙に飛んでいく。


「学生に後れを取るな!」


 ルーノ騎士団副団長が叫び、二人の後を追う。

 その後ろから騎士たちが走り出した。

 さらにその後方から、冒険者で弓撃ちのものが次々と弓矢を放って行った。


 相手はほとんどがA級以上。

 さらに伝説の中の存在と言われて久しいホエール級の大きい平べったい「魔物」も確認されている。


 フォルクはかなり低い体勢で、足を地に付けずに飛んでいる。

 同じくアジルも同様に飛んでいた。

 その後を追う騎士たちは、かなりの高速で、駆けていた。


 リノセロス級が低いうなり声と共にフォルクに向かい突進してきた。

 周りの空気がかすかに光る。


「電撃か!」


 フォルクは盾を自分の前にかざした直後、稲光がフォルクとアジルを襲う。


 だが盾がその電撃を弾き、周りの骸を焼いた。


 その光景が信じられないというようにリノセロス級の体が一瞬止まった。

 フォルクはその隙を逃さず、剣を黒と赤に覆われたリノセロス級の角の根元に突き刺した。

 剣はその硬い皮膚をやすやすと破り、深くその体の中に入っていき、切り裂かれた。

 リノセロス級の体が倒れ絶命し、多くの赤い目の色が消える。


 その後ろからエレファント級の長い鞭のような鼻がフォルクの頭上から撃ち込まれた。

 この攻撃にフォルクの後ろにいたアジルが反応し、その振り下ろされた鼻を切り落とす。


 返す剣で大きく口を開き、大音量による音波を発しようとしているその中に突き刺し、横にはらう。

 さらにその下からフォルクの剣が掬い上げられ、エレファント級の首が胴体から切断された。


 二人の動きは恐ろしいほどに同調し、長年死線を共にしたような華麗な動きを繰り広げていた。

 後続の騎士たちはこの二人が互いの信頼を全く疑わない最高のバディに思えた。


 その二人のあとには次々と「魔物」達の屍が築き上げられていった。


「本当に、お前は学生なのか?」


 敵をその剣の餌食にしながら、お互いの背中を預ける形で戦うアジルにフォルクは問う。


「実戦は今回が初めてです。」


 そうアジルは答えた。

 実際、こんな動きが出来ることに自分自身が一番驚いていた。


 フォルクの視線と反対方向から、巨大なすっぽんのような「魔物」が火炎を放射してきたのをアジルの剣戟が霧散させ、さらにアジルはその「魔物」に光弾を浴びせた。


 四散する体のさらに奥から無数の針が飛んでくる。

 大きなヤマアラシのような「魔物」の攻撃である。

 アジルは剣と盾で防御態勢を取るが、その直前ですべて地に落ちた。

 そこにはフォルクの盾とそれ以上に大きく薄透明の障壁が張られていた。

 この障壁が解除されると同時にフォルクのロングソードが伸び、ヤマアラシの体が両断された。


「大丈夫か、アジル?」


「はい、急に飛んできたんで、対応が遅れました。」


「やはり、厚い防御だ。見たことのない「魔物」達も多い。どういう攻撃があるか、全くわからん。」


 言葉を交わす間も、「魔物」達の攻撃が続いてる。

 が、二人が穿った間隙に騎士団が後に続いて闘う姿が見えた。

 しかも冒険者もその中に見られた。


「この「テレム」の薄い場所で、我々はなぜここまで戦えるのでしょうか?」


「おそらくだが、「魔物」達が死んで、「テレム」が放出されていることが、アイ・シート上に明示されている。幸か不幸か、この戦場は「テレム」が十分にある状態らしい。」


 かなりの「魔物」達を無力化した二人の前に、まるで城塞のようなツインネック・モンストラムの姿を捉えるところまできた。


「でかいな。」


 フォルクがそう呟いた時だった。


 ツインネック・モンストラムの背中の赤い目の輝きが増した。

 その刹那、その赤い光が次々と上方に打ち上げられた。

 その赤い光は、ある点に達したのち「魔物」達と戦っている人類に降り注いできた。


「全員退避!障壁を張れ!」


 フォルクが叫んだ。


 フォルクはその場から大きく後方に飛び、それに追従するアジル。

 そして大きく障壁を張り、下方で戦っている騎士、冒険者、そして少数だが学生たちを何とか守ろうとした。


 直後、衝撃が戦場に広がる。


 人類に対して行われた広範囲の攻撃は、人類だけでなく「魔物」達をも無残に引き千切っていく。

 戦場は、爆発する爆裂薬と血の匂いが濃くなっていった。

 学生に限らず、これだけの戦闘は国軍兵士にしろ、騎士にしろ、経験がない。

 それでもこの地獄の先に、わずかな明かりを信じて戦うしかなかった。


 右翼は結果的に、「特例魔導士」たる学生の覚醒が促され、その戦線をかろうじて維持し、ツインネック・モンストラムへの道筋を死守していた。


 左翼のシリウス騎士団は、団長の叛乱というかつてないスキャンダルに晒されている。

 しかし、だからこそ、その汚名をそそぐため、団員の士気は高く、数人がかりで一頭の「魔物」に対応する戦法により、成果を上げていた。

 が、このツインネック・モンストラムの広範囲の攻撃には、防御戦士の数の不足から、かなりの痛手を負った。

 それでも「医療回復士」が戦場を駆けまわり、なんとかその戦線を維持していた。


 しかし、2か所の特攻の間隙に対応していた国軍兵士たちは、ツインネック・モンストラムの攻撃にかなりの死傷者を出し、撤退を余儀なくされている。


 この広範囲攻撃で、2つの射線をつぶされた格好になった。


 しかし、このまま続けば、残った左翼右翼の隙もつぶれる可能性が出ているため、「スサノオ」はここに新型砲塔に換装した装甲砲撃車を「天の恵み」回収用搬送車から地上に降ろし、発射ポイントに急がせるよう、命令を発した。


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