第101話 ツインネック・モンストラムへの道
夜が明けようとしている。
アジルは横にいるルーノ騎士団団長フォルクと共に前線に戻ってきていた。
学生体のうち、まだ戦意のあるものは後方についている。
「本当に戦えるのか、アジル。まだ、今なら間に合うぞ。」
「私もまさか自分から最前線に出ようする日が来るとは思いませんでした。あの場に残っていたのも半分以上、狂気をにじませたミカルフェンに脅されたようなものでしたから。でも、この力が人を救えるのなら、役に立てるなら、それもいいかなって。」
「だが、今回の我々の作戦は、もっと過酷だ。どうやらあの化け物、ツインネック・モンストラムまでの道を作ることらしいが…。もう雑魚はいなくなってる。エレファント級、リノセロス級、ホエール級といった装甲が硬く、攻撃力の強い奴が相手だ。この作戦前にはそいつらの1頭でも仕留めりゃ、英雄扱いだった奴らだぜ。この数の多さじゃ、3人で1頭ってのもなかなか難しくなっている。さすがに、助けられた身ではあまり大きなことは言えないが。」
「それは違いますよ、フォルク団長。あなたはあの戦場で、子供じみたプライドで残った我々学生を助けようとしていた。実際に何人かを助けていた。まあ、我儘なうちのリーダーは言ってることは大きなことを言うくせに、ダージリンなんかの誘惑に乗って、あっさり殺されちゃいましたけどね。」
目の前で殺されたチームメイトとは思えない薄情さだった。
だが、自分を助けるために身を挺した姿がいまだに脳裏に残っているフォルクには違和感が残る。
「君は、あまり好きではなかったのかね、そのチームリーダーを。」
「そうですね、好きじゃないというより、恐れ、ですかね。ダージリンと一緒で、貴族なんですよ、リーダーをやっていたミカルフェンは。ミカルフェン・テルサル男爵。3代くらい前に爵位を得た家です。その後押しをダージリンの家、アップル子爵家が推したんだそうです。王家との血のつながりのないアップル子爵家としては、同様の貴族が欲しかったんでしょうね。どちらかと言えば、古くからある貴族の家は比較的に国に尽くすという義を重んじるようですが、アップル子爵家やテルサル男爵家のような新興勢力の家の人って、やけに尊大に振舞いますね。中身がないから、そういう張りぼての格好を取らないといけないのかもしれませんが…。私はフォーチューンという平民の家の出です。貴族に逆らって、自分の家が何かされるのが怖かった。」
「確かに、変に尊大な態度をとる貴族の奴らはいるな。うちの騎士団にもいるよ。逆に誇り高い、いわゆる気高さを持っているものもいるんだが…。ここでそんな話をしてもらちがあかんか。さて、始まるぞ。」
自分たちが陣を取る場所に、大型の「魔物」達の近づく足音が聞こえ始めた。
その陣営の前に置かれていた、人員輸送用の車両が動き始めた。
と、思った瞬間には鋭いモーター音を発して、猛スピードで走りだしていた。
上空から、疲れの見え始めたペガサスと、ミノルフがその光景を見ていた。
「魔物」達の密集する場所に飛び込むようにして進む4台の車両。
その右端の車両を撃つように指令が来ていた。
他の3台は後方に控えている装甲砲撃車が狙い撃つ手はずになっていた。
ミノルフは1時間くらい前の情景を思い起こした。
確実にツインネック・モンストラムの前の「魔物」達の厚みは少なくなっているようだ。
この特攻作戦は、うまくいけばツインネック・モンストラムにぶつけられるかもしれない。
そう思った瞬間に最初の爆発音が聞こえた。
始まった。
最終フェーズ、第2ラウンドといったところか。
ミノルフは自分が撃つべき車両に目線を向ける。
撃つタイミングは、車両が「魔物」達を弾き飛ばせなくて止められた時である。
2回目、3回目の爆発音がこだまする。
その時、ミノルフの車両も「魔物」達に留められたところだった。
その車両に向けて、光弾の雨を降らせた。
数秒後に爆裂薬を満載した車両が盛大に爆発し、周りの「魔物」達を道連れに大きな炎を出現させる。
4か所に多少の隙が出来たが、転がっている「魔物」達の屍を喰らいつつ、生き残っている「魔物」達がその隙を埋めるように動き始めた。
だが、さらにその隙に車両が突っ込んでいく。
第2波の攻撃だった。
ペガサスの動きが鈍ってきている。
ここは「テレム」は確かに薄いが、テレムの成分はそこそこあることがミノルフのアイ・シート上に示されていた。
つまり、ミノルフとペガサスの所有する「テレム」発生装置はその動作を滞りなく行っている。
だからこそ、今までペガサスも飛行を続けることが出来ていたのだ。
だが「魔導力」の方が先に根を上げたらしい。
(馬鹿にするなよ、ミノルフ。後一撃くらいの力は残っている)
つまり、後一撃がやっとということか。
爆裂薬を積んだ4台の車両が、ツインネック・モンストラムのかなり近くまで、「魔物」達を弾き飛ばしながら突撃していく。
ミノルフは、他の砲撃車からの攻撃する音を聞くと同時に光弾を車両に向け放ち、ペガサスに帰投するように指示を出した。
「もう、十分だ、ペガサス。一旦戻ろう。」
(すまない、ミノルフ。何とか、役に立っただろうか?)
「当然だ。クワイヨン国に戻ったら、英華十字勲章だ。」
ペガサスがその残りの力を振り絞り、「天の恵み」回収搬送車に向かった。




