第10話 王都での動き
自分が国軍を含めて、この別動隊すべてを指揮するのとは別に、直接の部下たちであるシリウス騎士団飛竜大隊は全員で60人ほどになる。
そのうち40人を連れてきて、残り20人は残留させた。
残留隊の指揮は自分の副官であるサンドラ・アズ・ミドルガースに任せ、クワイヨン政府、「バベルの塔」、そしてシリウス騎士団の本部が置かれているシガギフト藩の動向を報告するように伝えてある。
サンドラはミノルフの思惑を正確に理解している。
これだけの戦力が国から消える。
これは不埒なことを考える輩には願ってもないチャンスであるはずだ。
そして、一番怪しいのが我がシリウス騎士団団長アイン・ド・オネスティー。
彼の家は候爵位を有する貴族だ。
だが、後継ぎと目されていた才覚にあふれていたアインに12の時「特例魔導士」の告知があった。
この瞬間にアインは跡継ぎではなくなった。
そしてそのとき10歳になる次男のツヴァイ・ルグ・オネスティーには、全く家督を継ぐような器ではなかった。
現在、オネスティー侯爵家は、侯爵位は維持しているものの、その領地を切り売りする形で10分の1まで領地を減らしていた。
通常、そこまで落ちぶれれば、侯爵位に留まることなどできないはずだったが、皮肉にもアインが「特例魔導士」であるがために、身分が保証された形になった。
当然、この「特例魔導士」の制度がなければ、無事にアインが家督を継ぎ、最低でも以前の侯爵家を維持できたとアイン自身が考えていたとしても不思議ではない。
本来であれば、騎士団長、それも我がクレイモアの4大騎士団に数えられるシリウス騎士団の団長に国に対する不満があるという事自体、問題のはずだが、ここにも「特例魔導士」という事が関係してくる。
今、この騎士団には「特例魔導士」は3名しかいない。
団長と副団長、そして後方管理の要、調達局長である。
ただし、この調達局長は、クレイモア国国軍からの出向という立場だ。
アイン騎士団長の監視というのが一番の任務ではないかと、ミノルフは考えている。
しかし、この作戦においては、本来の国軍の後方管理として、本体の作戦本部に合流している。
当初、この飛竜大隊すべてをこちらの別動隊に向かわせようとしたのは、このアイン騎士団長であった。
ミノルフはその作戦命令に対して、王都防衛を名目に20名の兵を残すよう、進言したのだ。
この案は「特例魔導士」調達局長ゾロゲフ・テルミス・ミハイルビッチが賛成し、国王ティンタジェル・アル・クワイヨンが了承し、何とか首の皮一枚で最悪の状態を回避できた。
だが、この程度の戦力では、アインの目論見に対してわずかの抑止にもならなかったようだ。
シリウス騎士団の残存兵は5千。
うち8割くらいが、特別待機という指令がかかっているようだ。
残留飛竜大隊にはそのような指令はかかっていないそうだ。
この情報はサンドラの同期で、シリウス騎士団第3大隊副隊長、オズマ・リッセントリーからもたらせられたものだった。
現時点での国戦力の低減で、王都に対しての不測の事態に備えるためという大義名分を掲げている。
だからと言って、今すぐ行動には出ないとミノルフは思っていた。
最短でも二日後。
「天の恵み」回収作戦が本格的に始まるのが、今の予定では二日後だからだ。
とりあえず、二日後に焦点を合わせ、残留飛竜大隊には交代で休息を取らせるように、命令を出した。
目の前に、1日飛び疲れて体を休める、我々と一心同体の飛竜たちが体を休めていた。
(ミノルフ、何やら考えすぎて、かなり疲れているようだな)
飛竜たちの中で、青い皮膚のミノルフの盟友、ペガサスが心に語り掛けてきた。
「まったくだよ、ペガサス。「特例魔導士」でもない俺が、なんでこんなに頭使わなきゃならんのかね。」
(ミノルフが優秀で、人を思いやる心があるからだよ。実際問題として、今のミノルフなら団長と対等に戦えるんじゃないか?)
「やってみないとわからんがな。」
(できうることなら、目の前の問題だけを考えたいところだな、ミノルフ)
「とりあえず、我々の仕事は作戦目的地の偵察と緊急救助がメインだ。頼んだぞ、ペガサス。」
(当然だ。俺の腕をなめてもらっちゃ困る。大体奴らは俺たちのように飛ぶことはできないんだからな)
そう、「魔物」に空を飛ぶ能力を持ったものの存在は確認されていない。
飛竜や鳥たちなどは結構大きい部類もいるのだが、「魔導力」と揚力を巧みに使い自在に空を舞っている。
「魔物」の「魔導力」はその体の大きさに比例する。
が、多少体を浮かす奴はいたが、飛ぶというところまではいっていない。
考えることが多すぎるときは、優先順位をつけることだろう。
まずは夜明けに始まる「天の恵み」回収作戦の総指揮官として、野営地までの隊列と、その後の編成を最終確認し、明日の作戦のために眠ることだ。
(それが賢いよ、ミノルフ。おやすみ)
(ああ、頼んだぞ、ペガサス。おやすみ)




