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第5話

目が覚めたら、辺境の街エンマークにいた。

起きて早々、叔父上が謝罪の言葉を口にした。


「ディオ、お前の大切な者を守れなくてすまなかった。」


「……いいえ、叔父上。

全ては、僕が幼く弱かったからです。」


感情もなく呟く。ただ自身の不甲斐なさにそれしか出てこなかった。そんな僕のそばにふっと誰かが立った気配がした。


「ディオルド殿下。

ルーというカラスを打ち落としたのは、私です。罰ならばどうか私に。」


そう言って頭を深く下げたのは、この辺境騎士団の小隊長だ。


「…罰は、考えていません。

罰など与えても…ルーはもう帰ってきませんから。」


そう。もう、ルーは帰ってこない。


「…ディオの気持ちが落ち着いたら、ルーの墓へ案内しよう。」


叔父上のその言葉を聞き、ガバッとベッドから飛び起きた。


「叔父上っ。今から行きたいです!

どうか、案内してくださいっ。」


「だが……。いや、わかった。案内しよう。」



一瞬躊躇った様子を見せたが、僕の気持ちが変わらないのを感じたのか、動いてくれた。


『小さき盟友ルー』


誰が刻んだのかそんな墓標が彫られた小さなお墓。

僕はこんなことなんて望んでいなかったよ、ルー。…ただのディオとルーでいたかった…なんて、考えても仕方ないことが脳裏をよぎった。


その墓の前にはルーの綺麗な黒羽が1枚置いてあった。

それを手に取ると、ルーに向かって誓った。


「…ルー。僕のせいで死なせてしまってごめん。


僕はもう、逃げない。ルーが僕にくれたこの命。この道。

僕はルーに恥じない道を生きる。」


宣言した通り、僕はもう逃げない。…逃げたくない。

ルーが文字通り命を懸けて繋いでくれた道。


叔父上と共に、父上と兄上を今いる場所から引きずり下ろす。そして、諸悪の根元。正妃ローザに罰を。



それからの僕は、ただひたすらに生きた。


噂通り、叔父上が隣国との和平交渉を成功させると、そのまま僕を連れて王都に凱旋した。


僕が生きているとは思っていなかったローザは狼狽した。

そして、慌てて僕を殺そうとしてボロを出した。



元より、隣国との交渉の際に隣国のとある貴族と王妃ローザとの謀略が露呈し、その証拠を伴って凱旋していた僕達は、さらに罪を重ねたローザを捕らえ牢獄へ入れた。



今までありとあらゆることから目を背け、黙認してきた父上は叔父上との話し合いの末、自分は王の器ではないと宣言し王座を譲り隠居することになった。


……というのは表向きだ。


実際は辺境伯に新たに就任した、元辺境騎士団副団長の元で、強制労働をすることになっている。

兄上と共に。


辺境の人々は、何年にも渡る戦が王家の人間による、人為的な理由で起きたものだと知っている。

そんな人々の目の敵にされながら生きていくのは、もしかしたら死ぬより辛いことかもしれない。


だが、それくらい甘んじて受けねばならない。それが、王族として生まれたものの宿命なのだから。それから逃げた者、やりたい放題やってきた者には必要な罰だと思っている。



ーローザは、牢獄内で病死したと発表されたが、実際は宰相である父親と共に隣国への密通は重罪であるとされ、処刑された。

けれど、隣国との密通に関する罪は一部の限られた者のみが知る真実だ。全ては隣国との和平交渉に亀裂をいれないがため、内々で処理されたのだ。



ーそうして叔父上が国王陛下となって早数年。


俺は15歳を迎え、成人したのを機に王太子になった。



叔父上は、俺が国務を覚え、一人立ち出来たら王位を譲り、国王の補佐に回ると宣言した。


今度産まれる自身の子供には王位を譲る気はない、中継ぎの王だと全国民に宣言してしまった。



俺としては、優秀な陛下の血を受け継いだ者に王位を譲りたいと思っていたから、その宣言には困ってしまった。


……俺には、愛する人は作れない。作る気が起きないから。



誰も味方がいないなか、俺が心から信じられたのは、ルーだけだった。

でも、ルーはどこにもいない。

婚約者になりたいと、何人も何人もすり寄っては媚びを売って猫なで声で囁く令嬢の声を聞くたびに、ぞわりと寒気がした。


大人しそうに見える令嬢も、影で人の悪口を言って貶めている姿を見ては、心が凍った。

ますます、表情からは感情が消えていった。



『氷の王子』


などと揶揄されて、それが良いだとかまた何人も令嬢を紹介されて、そしてまた感情を閉ざす。



俺は一生人を愛せない身体になってしまったのかもしれない。



(ルーの、元気な鳴き声が聞きたいな。)


伝令用の鷹と戯れながら、遠く懐かしいあの森で過ごした数年に想いを馳せた。





ー婚約者を立てないまま、俺は25歳を迎えた。


6月5日更新

いつも皆様誤字報告ありがとうございます!

本当に本編的にはどうでもよいローザの家族設定ですが、報告してくださった方々のおかげで矛盾点にようやく気づけました(>_<)

一応辻褄合わせながらストーリーは作るようにしていたのですが、なにぶん短編製作時はノリと勢いで1日で書き上げたため細かい設定まで決まっていませんでした。

連載で固めた設定との矛盾が出てきたので、指摘して頂いた通り、宰相は父親に致しました。

混乱させてしまった読者様、大変申し訳ありません!そして、そんな細かいところまで気付いて下さって誠に感謝でございます!





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