第4話
「……ルー?どこに行ったの?」
ルーは、毎日必ず僕の前に姿を現してくれた。
例えば何処か街に行って帰ってくると、朝から晩までいなくても、そのあと顔を出してくれたり、夜一緒にそばで寝たり。
まるで、僕の本当の家族のように傍にいてくれた。言葉が通じなくても、ずっと居てくれるのだとそう信じて疑わなかった。
……どうして、そんなに信じられたのだろう。
カラスの寿命は人よりもずっと短い。それに、僕と出会う前にどのくらい生きてきたのかも僕は知らない。
いついなくなってもおかしくなかったのに、僕は……。
無意識に考えないようにしていたのかもしれない。
「ルー……、ルー……っ」
それでも。
いや、だからこそ。
死に際は僕が看取りたい。
だから、もう一度帰ってきて。
お願いだ、ルー……っ!!
そんなささやかな願いは叶うこともなく、ルーの最期を全く予想もしない人から告げられることになる。
**********
ルーがいなくなって、1週間。
ご飯が喉を通らなかったけど、無理やり食べた。
だって、戻ってきたらルーがちゃんと食べろって怒るかなって思ったから。森のなかをあちこち探して、ルーが行きそうな場所は全部回った。
最後に、母上の眠る崖のふもとに行くと、1つの変化があった。
「……母上の指輪がなくなってる。」
光り物を集めるのは、巣を作るため…だったっけ。
もしかして、ルーは巣作りに行ったのかな…?だったら、また作り終わったら帰ってきてくれる……?
ガサッ。
背後から大きな物音がした。
まさか、ルー!?
「ディオ……っ!!!
本当に……生きていたのだな…っ」
「……おじ、うえ………っ?」
振り向いた先に見えたのは、数年振りに再会した叔父上の姿だった。
そのまま僕に近付くと強く抱きしめて、良く頑張った、生きていて本当に良かったと涙ながらに話してくれた。
久しぶりに感じた暖かい温もりに、嬉しさと共に、この場所で最初に感じた温もりを思い出し、ハッとした。
「叔父上、再会早々申し訳ありません。僕は今、探している者がいるのです。」
ルーを探さなきゃ。
ルーが、困っているなら、今度は僕が手伝うんだ。
「………ディオ。
それはもしかして、カラスのことかい?」
バッ。
言葉にするのを躊躇うように僕に尋ねる叔父上の様子に、胸騒ぎが止まらない。
心臓が早鐘を打っている。
「………叔父上は、ルーのことをご存知なのですか……?
ルーは、今何処に……?」
叔父上は手元に何かを握り締め、1つ大きく深呼吸をすると、それを見せながら、ゆっくり言い聞かせるように、語った。
「…あの者は、ルーという名なのだな。
ルーは……これを届ける為に、俺のもとに来て…死んだ。
…いや、我々が殺してしまった。
人に…我々騎士団に近付くことが、どれほど危険か分かった上で行動したかのように、最期は抵抗もせずに逝ってしまった。」
「……う……うそだ……っ」
ルーは、人に嫌われていることも承知の上で、よく盗みを働いて怪我をして帰ってきた。そんなルーが、辺境までわざわざ行って騎士団に自ら近付いた…?
何のために……っ?
虚ろな目で、叔父上が握っていた薄汚れた紙とその上に乗っている物を見て、目を見開いた。
『ディオ、イキテ ルー。フォレスター もり』
途切れ途切れで読みづらい上に、穴も空いている。
でも、それは確かに僕のことについて書かれた紙で、そこにあるのは、母上の形見の指輪で。
ーールーが、僕のために、叔父上に知らせに行って死んでしまったのだというこれ以上ない証明でもあった。
「……う、ぅあぁあ、ああああっ!!
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!
ルー!!!!!」
僕が文字なんて教えたから。
僕が叔父上に連絡を取らなきゃなんて考えたから。
母上の指輪を置きっぱなしにしたから。
だから……、だから、ルーは死んじゃったんだ……っ!!!
僕はそのまま泣き叫びながら、気を失った。




