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【番外編・5】とある伯爵の独白その2

お茶会から少し経ったある日、ディオルド殿下から訪問の連絡が入った。


まさかまさかと思っていたが、いよいよ現実味を帯びてきた。

…はぁ、何故私の娘なのだろう………。





「私の娘を……っ??」


心底驚いた。

何に。

それは、ディオルド殿下の表情に、だ。


「あぁ。ジェームス・ランス伯爵が一子、ルーフェミア・ランス伯爵令嬢に婚約を申し込みたい」


いつもの無表情……に見せているが、宰相補佐として付き合いが長い分わかってしまう。

ルーフェミアの名を出すときに感情が動くその様を。


とはいえ、伯爵家の娘が果たして王家に相応しいかというと、そうではないだろう。…それに、娘には荷が重い。いらぬ苦労はさせたくない。


「大変ありがたいお申し出でございますが、我が家はしがない伯爵家。殿下程のお方ならば、もっと相応しい身分と教養のご令嬢はいらっしゃると思いますが…」


そう告げると殿下は意を決したように強い眼差しで私を見た。


「……私が、今まで婚約者がいなかった事情は、貴方なら御存知だろう?」


ぴくりと眉が動いた。

殿下は、まさかルーフェミアに恋情を抱いているというのか…?


「………我が娘、ルーフェミアならば問題ないと…?」


「あぁ」


「………そうですか」


肯定された、ということはそういうことだ。何がどうしたらたった2度の出会いでここまで惚れられるというのだろうか。確かに、普通の貴族令嬢らしからぬ所はあるが…。

それよりも。わざわざ婚約の打診を殿下自らがするということの意味。その事の方が今は大事だろう。



「…殿下が仰れば、私の許可などあってないようなもの。それでもあえて私に意見を求めたのは、それ程に我が娘を求めている…と考えて宜しいのでしょうか」


ピクリと殿下の眉が動いた。



「さすが堅実と名高いランス伯爵だな。…その通りだ。


俺は、ルーフェミア嬢に心惹かれた。だからこそ、命令という形で手に入れることだけはしたくない。そのままの彼女が欲しいんだ」


…これは、本気のようですね。


そして、私が何よりも望む形の婚姻の打診であった。ルーフェミアがルーフェミアらしさを失わない相手との婚姻。殿下は、我が娘の内面に惹かれたのだ。


………ならばこそ。

これが、最後の望み。



「承知いたしました。

であれば、私から1つだけ条件を設けさせて頂きたく御座います」


こんなことを告げるのは本来なら不敬に当たる。

それでももしも、娘のことが本当に大切なら殿下は受けてくださるだろう。


「あぁ、構わない」


殿下は迷いない眼差しで、見つめ返した。


「私からの願いはただ1つ。

ルーフェミアが殿下との婚姻を望むのなら。私はこの申し出を受け入れたく思います」


「………は。それ、だけか……?」


殿下は拍子抜けしたような表情を見せた。ふふ、こんなに表情豊かな殿下は初めて見る。…それだけ、ルーフェミアが殿下にとって特別だということか。


「はい、それだけで十分でございます。

私は娘に幸せになって欲しいのです。あの子があの子らしくいられる相手と。殿下も、それを望んでいらっしゃるのでしょう?」


「…あぁ」


決意を宿した眼差し。

きっと、殿下は我が娘と婚姻を結ぶことになるだろう。鈍いくらいのルーフェミアには殿下くらいしっかりはっきり想いを伝えられる方が良いお相手なのかもしれない。


「我が娘はなかなか手強いですよ?

頑張ってください、殿下」


にこやかに笑って返した。

我が娘の恋愛面の鈍さは生半可ではありませんよ?どうか、頑張ってくださいね?簡単には愛娘をやりませんから。


「望むところだ」


晴れやかな笑顔を見せた殿下は、きっとこれから変わってゆかれるのだろう。そのきっかけが我が娘というのはなんとも不思議な縁を感じるのだった。


**********



その後、速やかに婚約の手続きが組まれ、あれよあれよという間に成立。無事に殿下は我が娘を射止めたらしい。男親としては複雑極まりないのだが、あの子が幸せならばそれで良い。



本人の希望もあり、婚姻までまだ数年あるのがせめてもの救いだ。殿下はすぐにでも婚姻したいようだが、まだあの子は若い。


殿下?貴方の欲望をあの子にぶつけるような真似……私が許すとでも?僭越ながら私からは釘を刺させて頂いた。

殿下はグッと感情を押し殺すように了承を口にしたが、あれはそう持ちそうもないな…と、なんとなく察してしまう。


ルーフェミア?

お願いだから殿下を煽るようなこと…しないでおくれ………いや、無理か………?






ーーそんな私の予感が現実に変わるのは、そう遠くない未来の話なのであったーー




**********


余談ではあるが、殿下が毒で倒れられたという報が届いた折、ルーフェミアを狙っていた者による襲撃だったと聞いた私の犯人捜索からの捕縛、罰の執行までの異例の速さ、そして普段怒りの感情を表に出さない私のその時の気迫に、【この人には逆らってはいけない】などという噂が流れたらしい。



う~ん、身内が狙われていたら、それくらい普通のことではないかな?

大体、私にはそんな権限も力もないよ?

私はしがない伯爵家当主なのだから。


というわけで、ルーフェミアを溺愛するお父様の物語でした~!


本当はディオ視点で書く予定だったのですが、それで何ヵ月も行き詰まってしまって、ある日お父様視点でやってみたらどうだろう?と思ったらようやく筆が進みました(^o^;)


ルーフェミアは父譲りの外見だけでなく、中身も似ています。しがない伯爵だと言ってますが、有能なのに権力に興味がなく、宰相補佐になった段階で侯爵への打診もあったのに固辞した人物でもあります。(ルーフェミアの過小評価は気付いてもジェームスも同様だと本人は気付いてない)それもあり、王家の信頼厚くルーフェミアは婚約者としてそこまで苦労せずに誓約を結ぶことが出来たという背景もあったりして。

ちなみに、美しく繊細な伯爵夫人は王都でも評判の美人さんだったのですが、そんなジェームスの内面に惹かれた彼女の方からアプローチしたという話があったりなかったり…(笑)

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