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【番外編・4】とある伯爵の独白

久しぶりの投稿です!

そして。今回、今まで名前しか出てこなかったとある方のお話です。

私はジェームス・ランス。伯爵位を持った、どこにでもいる平凡ないち貴族だ。


愛する妻と、妻譲りの整った容姿の息子、そして私に良く似た娘の4人家族。


そんな娘は幼少期、黒髪黒目の忌み子といじめられていた。

黒が不吉だなどと言われたのは遥か昔。だというのに、頭の固い連中は未だにその事に拘る者もいる。

私も濃紺の髪をしていて、黒に近い色合いをしている。それであることないこと言われた過去があったが、伯爵令息であり男でもあった為、下らない発言は基本スルーをし、あまりにもしつこい者には反撃してやった。暴力ではなく、言葉で。昔から口が達者だったので、それくらいわけなかった。


だが、娘は私とは違う。

近郊の交流のある貴族の子息から、髪と瞳の色のことで絡まれることに心を痛めていた。

それは、子供特有のかまってちゃんで、気になる女の子にちょっかいをかけたいという気持ちからきている者もいたのは見ていてわかったが、そんなもの5歳にも満たない娘にはわかるはずもない。

だから、私も妻も息子も、皆で言葉にして愛を伝えた。


「ルーフェミア。私の愛しい娘。例えどんな色をしていても、どんな姿形でも、ルーが愛しい家族であることは何一つ変わらないよ。私もシリルもイルフォードも皆お前を愛しているよ」


「おとうさまぁ~………っ」


そんな泣き虫だった娘は5歳になり、家庭教師を雇い始めた頃から変わり始めた。

大きな変化が何かあったわけではない。けれど、確実に変わった。


「私、自分のこの黒髪黒目が好きです。お父様、お母様、イルお兄様いつも私のこと愛してくださってありがとう。私も大好きです!」


突然、大人になってしまったようなそんな寂しさを覚えた。だが、ルーが心が潰れることなく健やかに成長してくれるならそれに越したことはない。だから、私達は皆その変化に気付きながら見守ることにした。


時々遠くの空を眺め物思いに耽ったり、突拍子もないことを言ったりして伯爵領を改革したりと少し変わった子に育ったけれど。それもこの子の個性の1つというだけだ。


若かりし頃、堅実に財務省で働いていた私は、上司が国の大きな改変が起きたあの革命期に宰相に抜擢されたことで、部下ごとまとめて宰相補佐に回された。

忙しく家族との時間が取れない日々も続いたが、粛清から月日が経ち、ディオルド殿下が王太子として政務に励まれる日々が安定してくる頃には私達の業務もようやく形になってきて、それぞれ順に休みを取れるようになってきた。


ディオルド殿下は、複雑な生い立ちだ。側妃様のお子として第2王子となられたものの、王妃に母子ともに虐げられ幾度も命の危機にあった。聡明であったが故に。


一時期行方不明になっていた。現陛下が革命を起こした際に共に王都に来たことから、ずっと匿われていたのではないかと言われていたが、真実は誰も知らない。


『氷の王子』


ディオルド殿下はそんな渾名が付けられていた。

王太子となられた殿下の元には、いくつもの縁談の話が上がり、その度に宰相室には各々の貴族からの嘆願書が届けられていた。

殿下の元にお届けするものの、縁談は一向に纏まらない。夜会を開いたところで、殿下は無表情で淡々と令嬢方の相手をなさる。…いや、あれは嫌悪感を感じられているのだろう。



歳を重ねるごとに縁談を希望する嘆願書は減り、10年もすれば適齢期の令嬢は皆婚約、もしくは婚姻され、今度は年若い令嬢が我こそはとアプローチをかけるが、全く心に響いていないどころか、益々女性不信になられているとしか思えなかった。


宰相室には様々な機密事項が届く。宰相補佐の私も、宰相閣下と同等の権限が与えられているため、王家の機密も色々…そう、知らなくて良いことまで知っていたりする。


【ディオルド殿下は女性を抱けない】


それにまつわる医師の手配や閨教育の対応も我々がしたので、情報は確かなものだった。


陛下はそろそろ譲位を考えていらっしゃると聞いているのに、それでは次代が継げない。


ディオルド殿下としては、陛下のお子に継いで貰いたいと思っておいでのようだが、継承権を与えるおつもりはないと宣言をされている手前、すぐにはどうこう出来はしない。


平行線だった。


そんな最中ではあるが、我が家は一大行事が控えていた。

そう、我が愛娘ルーフェミアのデビュタントだ。


本当は私がエスコートをしたかった…っ。

それはもう、切実に!!


だが、宰相補佐としての仕事はたくさんある。特にこのような大きな行事絡みは事務的な手続きが色々発生するのである。


宰相閣下は今日ぐらい休んで良いと仰って下さったが、只でさえ少数精鋭の宰相室の人間が1人いないのは周りにどれだけの迷惑をかけるか。次世代の育成は進めているものの、まだまだ粛清の名残は残っていて、やらねばならないことも多い上に、信頼できる者はまだそう多くない。


殿下のご婚約が調えば、少しは状況も変わるとは思うが、こればかりは無理強い出来るものではない。


さて、そんなわけで私は息子のイルフォードにエスコートを託し、仕事の傍らルーフェミアに相応しい婚約者候補がいるか会場に目を配る。


ルーフェミアに政略結婚をさせるつもりはないが、どこか恋愛面で疎いところがあるあの子には、こちらから候補を見繕う必要がありそうだと思っている。


幼い頃も鈍かったが、デビュタントを迎える15才になってもルーフェミアは好意を寄せる男の視線にまるで気付かない。


隣接する侯爵領の息子など、子供の頃からちょっかいをかけてきていたが、やんわり婚約の打診をされたこともある。

娘の意思に任せているからと保留にしてあるが、デビュタントともなれば改めて正式に申し出がきてもおかしくない。

私譲りの顔立ちなのがいけないのだろうか。娘は何故か自己評価が低い。


マナーも教育もどこに出しても恥ずかしくないレベルだし、容姿も母親のシリルのような繊細さや美しさはなくとも愛嬌のある可愛さと飾らない笑顔、分け隔てない優しさを持ち合わせ、身分に関わらずに接する姿は領民にも屋敷に仕える者にも人気が高いというのに。


会場に入り、デビュタントの挨拶に陛下方の前に身分の高い者から並んでいく。我が伯爵家は、私の宰相補佐という役職もあり、伯爵家でも早めに位置する。陛下の傍に控える宰相閣下のさらに後ろから我が娘の勇姿を見守る。


カーテシーなどは何も問題ないだろう。安心してデビュタントの挨拶を待った。………のだが。



何故か、ルーフェミアは陛下方を見て大号泣していた。


(……っ何が、起きた……!?)


内心動揺したが、ここで下手に私が動けば、不敬に当たる。

ここは大人しくイルフォードに任せることにした。



なんとか立て直し、謝罪を告げて御前を失礼したのを見届けて、ひとまず安心した。


あの時、ルーフェミアは一体何にそんなに動揺していたのだ……?

そう思い壇上にいらっしゃる陛下方を見た。見て…しまった。




………そこには、『氷の王子』と呼ばれるディオルド殿下の、今まで見たこともないような感情が浮き彫りになった表情が見て取れた。



何か、微かな予感がした。



それからすぐに、王家からお茶会のお誘いが届いた。何故…?と問いただしたい気持ちはあるが、当然のことながら出来るわけもない。

ルーフェミアは幼少期のからかわれた経験からあまりお茶会など社交の場に出たことがない。ごく少数の限られた友人とのみお茶会を開くくらいだ。


だからこそ、疎いのもあるかもしれないが、普通の令嬢ならこのタイミングで呼ばれたら婚約者候補に選ばれたと喜んだり、着飾ったりと気持ちが高揚するものだと思うのだが、我が娘はなんとも呑気なものでいつも通りで。

王族相手に緊張はしているようだが、今回の茶会もガーデンパーティのようなものだと思っている節がある。




ーだが、私は知っている。今回呼ばれているのは、我が娘ルーフェミアだけであることを。それが、どんな意味を持つのかということを。


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