【番外編・3】コーエンの憂い
長らく空いてしまいましたが、コーエン様とのお話です。
ルー視点の物語です。
『いつか、コーエン様にもお礼を言いたいなぁ』
前世で無謀な賭けに出た私ことルーの行動にも関わらず、ちゃんと受け止めてディオを救ってくれた国王陛下にずっと感謝の気持ちを伝えたいと思ってた。
今までは私がカラスのルーであることなんて誰も知らないし、言ったところで不審人物扱いされて終わると思ってたから心の中だけで終わらせてたけど。
ディオに話して、受け入れて貰えたから。今なら伝えても良いんじゃないかなって。まぁ、カラスだったことを除いても、ディオを支えて救ってくれたことを感謝するだけなら、今の私にでも不信感なく言えるんじゃない?
そう思って、ディオに謁見の提案をしたのだけど…。
「………ルーの気持ちは嬉しい。
嬉しい…けど、あんまり叔父上に会わせたくない………。」
「…え」
えぇえええええ!?
なんか物凄く不満そうな顔でやんわりお断りされてる……っ!?
「……っ、叔父上があの頃のことをずっと気に病んでいらっしゃるのは知っている。
知って…いるが………。
ルーのあのキラキラした眼差しで叔父上を見つめるのかと思うと嫉妬で気が狂いそうになるんだ……っ。」
な……っ。
何それ何それ何それー!!!
え、えぇえっと……今、嫉妬…って言った?お相手国王陛下ですよ!?尊敬すべき人だと思ってるけど、そんな嫉妬するような相手じゃないと思うんですが??
ディオはバツが悪そうな表情を浮かべて、目を逸らした。
「わかってる。ルーが叔父上に感じてるのはそういうんじゃないって…。だけど、理屈じゃないんだ。ルーに好意を示す異性がいるということが…例え尊敬する叔父上であっても許せない…っ。
心の狭い男だと思ったか…?」
ぶんぶんぶんと勢いよく首を横に振った。嬉しいと思いこそすれ、心が狭いだなんて思いもしなかった。むしろ、そこまで一途に思ってくれて熱意を告げられることに困惑すらしている。
だって、私は前世カラスだったくらいしか目立った特徴はないし、ディオほど出来た人にそんなに愛される理由がわからないから。
もちろん愛情を疑うわけではないし、私も好きだと思ってる。でも、未だにディオに相応しい人はもっと沢山いるんだろうなってことは思ってる。
……でもそれは仕方ないよね?だって、ディオだよ!?たかだか異世界転生とカラス転生しただけの平凡などこにでもいる貴族令嬢ですよ!!?私より高位の令嬢も、教養のある令嬢も、美しく可愛い令嬢も山ほどいるわけで。
……そうやって考えると、凄い偶然と奇跡の上で私は選ばれたのだなって思う。
「心が狭いなど……。
きっと私の方が余程狭いと思います。ディオが今まで色々あって人間不信になったとわかっていますが、もしそんなことがなかったら、私など見向きもされなかったのだろうな…と思うと……やっぱり他のご令嬢方に嫉妬してしまうし、自分に自信など持てなくなります。…いや、自信なんて今も全くないんですけど……。」
最後はなんだか愚痴になってしまった気がする。
しょぼんと肩を落とす私を見て苦笑を浮かべながら、ディオはぎゅうっと腕のなかに私を囲う。
「相変わらずだね、ルーは。
こんなにも愛しているのに、それでもやっぱり自信を持てない……?
……やっぱり、さっさと俺のものにするべきかな……」
なんだか黒い感情が見え隠れする言葉が聞こえた気がしたけれど、ディオを見上げればニコッと有無を言わさぬ笑顔で返されて何も言えなくなった。
……うん。これ以上自分を卑下するのはやめておこう。
なんとなく、そう思った。
結局ディオは渋々ながら許可してくれて、2人で話す時間を作ってくれた。
国王陛下も私と話をしたいとお考えだったようで、それをずっとディオが止めていたのだと後から聞いてちょっと呆れてしまった。
**********
「この度はお時間を頂きありがとうございます。」
謁見室は誰の目があるかわからないということで、陛下の私室での会談となった。それはそれで物凄い緊張をするのだけど、こればかりはお相手がお相手だから仕方ないと諦めた。
「いや、こちらこそご足労かけてすまないな。本来なら私から伺いたかったのだが、何せ公務があってなかなか手が離せなくてね。」
「いえ!こちらこそお忙しいなか調整頂いて感謝しております!」
そこでお互い目が合い、ふっと笑う陛下につられて私も笑ってしまった。
「これではお互い謝罪だけで終わってしまうな。
まずはお茶でも飲みながら仕切り直そうか。」
「はい。」
気さくな雰囲気にようやく私も緊張がちょっとだけ解れて手元に用意されていた紅茶とケーキに手をつけた。
私が好きなものはディオを通じて伝わっているのか、好物ばかりが用意されて思わず頬張りながら幸せな気持ちに浸ってしまった。
ふふっと静かに笑う声に我に返り、かぁと赤くなる顔を俯けてしまった。
……またやってしまった……っ。
私、ディオとの出会いでも同じことやってるのにどうして学習しないのよー!!!
「いや、ルーフェミア嬢はどうかそのままでいてくれ。それがディオにとって、何よりの幸福だろうから。
私が指摘して笑ってくれなくなったなどと言われたら、絶縁されかねんからな。」
心の声を読んだかのようにそう話す陛下。
「そんな、絶縁なんて…」
笑い飛ばそうとしたら真剣な顔で反論された。
「いや、あいつならやりかねん。それだけ貴女はディオに愛されているのだからね。」
うわぁお。
愛が重い。でも、それが嫌じゃないと思ってる私がいるのも事実なので、案外似た者同士なのかもしれない。
その時の私はどんな表情を浮かべていたのだろう。優しい眼差しで陛下は私を見つめていた。
「……改めて、この場を借りて感謝を伝えたい。ディオを…ディオの心を救ってくれてありがとう。
貴女と出会い、漸くディオの時間が動き出すことが出来た。」
「え。…っ!!
そんな…っおやめください!」
私はおろおろと狼狽えてしまった。
言われた言葉もだけど、目の前で深々と頭を下げてくる陛下に私はどうして良いのかパニックになって、反射的に立ち上がってこっちも頭を下げた。
「感謝なんて、それこそこちらの台詞です!!
コーエン様がいたから、ディオは心を喪わずにすんで、あの窮地から救ってくれて、今こうして出会うことが出来たのですから!!
コーエン様こそ、ディオにとっての救世主なんです。私なんてただのカ……っ………って、わわわわ、申しわけありません!!!」
やってしまったー!!!!!
テンパった揚げ句、陛下を名前呼びするし、カラスだって言おうとするし、支離滅裂なこと言ってしまったよぉおおおおっ!!
「ルー…フェミア…嬢………?」
目の前からは困惑の声で私をじっと見つめる視線を感じるけど、顔が上げられない。
無言の時間に耐えられなくなり、私は頭がおかしいと思われるのを覚悟で告げることにした。
「……陛下。頭がおかしいと思われるかもしれませんが、どうか、私の話を聞いていただけますか……?」
それで、ディオに相応しくないと思われても…………っ嫌だけど仕方ない。それだけ、私の存在は不確かなものだから。
グッと気持ちを抑えて目の前の陛下を見つめ返した。
陛下は私の覚悟を受け止めてくれたのか、真剣な表情で聞こう、と返してくれた。
「………陛下。
私には前世の記憶があるのです。それも、2つ。
こことは異なる世界で人であった記憶と……この世界でカラスであった記憶です。
私は転生と呼んでいますが。各々の記憶を持ち今ここにルーフェミアとして生きております。」
「…転生………カラス…………」
えぇ、困惑するのも納得です。
私自身、自分のことでなければ物語の上での空想だと思ったでしょうね。それこそ、カラスだなんて。場合によってはディオとルーのことをどこからか知って、ディオを誑かすために騙っていると思われても可笑しくないお話です。
「……はい、転生です。
私はルーという名をディオから貰ったカラスでした。
……あの辛い境遇の中、ディオが希望を失わなかったのは、コーエン様のお陰です。だからこそ、私は貴方に会いに行きました。
きっとこの人ならディオのことを救ってくれるって。私が信じた通り、貴方はカラスだからと私のことを無碍にせず、ディオを助け出してくれた。
…ルーフェミアになって記憶を取り戻してから、あれから起きたことを歴史の本で読みました。やっぱりコーエン様に頼んで良かった…って。」
記憶が蘇って、どうしても思考がルーに引っ張られる。ついついコーエン様呼びしちゃうし、敬語が抜けてしまう。
「貴女が……ルー。
…そう、か。そういうことなのか。」
けれど、コーエン様は怒ることもなく、疑うでもなく、そう呟いて悲しげな表情を浮かべていた。
え、どうして!?
「貴女には、本当に申し訳ないことをした。ディオにとって何より大切な存在だった貴女を、私は……私達は害してしまった。
謝っても償いきれないほどの罪だ。」
「いえいえいえ、罪だなんてそんなまさか!!!
むしろ感謝なんです、お礼を言いたいんです!ありがとうございます!!」
どんどん自分を責め出すコーエン様を見てられなくて、勢いに任せて全部言うことにする。
「私、今日はこの場を借りて、お礼を言いに来たんです!!あの日、ディオを探しに来てくれてありがとうございますって。孤独だったディオとディオのお母様を守ってくれてありがとうございますって!!
感謝こそすれ、私は1度たりともコーエン様のこと、罪だとか償いだとか思ったことありません!!!」
だから、そんな風に悲しまないでほしい。
「…っルーフェミア嬢……、何故…っ何故貴女はそんなにも………っ!
…カラスのルー、君を殺したのは私の部下だ。私に殺されたといっても良い。理不尽な目に遭ってそれでも貴女はそう思うのか……?」
まるで自分を責めるように悪い方へ悪い方へ考えていくコーエン様。いやいや、あれは自業自得ですからね?
「理不尽……ですかね…?
私としては、仕方ないなぁと思ってました。勿論、死ぬつもりはなかったですけど、普通に考えて辺境の軍部に乗り込む怪しげなカラスなんて、信用されないのはわかってましたし。
…少しでも可能性があるなら、それに賭けたかったと言いますか。ディオの信じる人ならもしかして…って。
何も出来ず死んでしまったら、それは後悔するかもしれないけど、コーエン様はちゃんと私に向き合ってくれました。最期に声を掛けてくれたこと、今でも忘れてません。…優しい言葉をありがとうございます。お陰で安心して逝けました。」
「………っ貴女という人は………」
そう言うと、コーエン様は目元を押さえて俯いてしまった。
えぇっと……私、色々やらかしちゃいました…か……?
いややらかししかないんだけども、不敬罪で訴えられたりしますか…?
というか……。
「……あのぅ、色々失礼を重ねているのは重々承知しておりますが、失礼ついでにもう1つお聞きしたいのですが……陛下、私がルーだったこと普通に受け入れていらっしゃるように感じるのですが気のせいでしょうか………。」
恐る恐るそう言ったら、何故か俯いていた陛下の肩がぷるぷると震えはじめて気付いた時には笑い声が部屋に響いていた。
えぇええ、私笑われてます!?
「……っふ、この状況で気にするところはそこなのだな。
……ディオは勿論、この話を知っているのだろう…?」
「……あ、はい。全て話してます。」
「ならば、尚更納得だ。
貴女はルーフェミア嬢であり、カラスのルー殿だ。
……ディオが貴方に惹かれたのは必然だったのだな。」
えぇええ、この2人、似すぎやしません!?普通そんなアッサリ信じませんって!!
「お2人って、ほんと、そっくり…。」
「…え。」
思わず呟いた言葉に陛下は驚いてこちらを凝視する。
「…あ、その、この話をした時のディオと陛下が同じような反応をされたものですから。
これだけ近くにいると、似るものなんだなぁと思いまして。ふふ、まるで親子みたいですよね。」
「……そう、か。」
そう告げた時の陛下は本当に父親のような眼差しでここにはいないディオを見ているようだった。
実際の関係性は叔父と甥としても、心は間違いなく親子なのだなと思った。
それからすぐに、執務を終えたディオが部屋に駆け込み、陛下を牽制しながらかっさらうように私を自室に連れ戻した。
そんなことしなくても、陛下との間に何かあるわけないでしょ!?と私は思うのだけど、やっぱり理屈ではないらしい。
部屋の中でこれでもかと愛情たっぷり愛でられて、私が羞恥で死にそうになりました……。
後日、お2人で色々とお話されたらしく、ディオには感謝され、陛下はこれまで以上に厚待遇で迎え入れてくれ、気付けば結婚が早まって半年後に輿入れすることが決定していた時は気が遠くなりそうでした。
外堀埋められまくってますけどもーー!!!!?
ディオと結婚することに異論はないけど、心の準備が全くもって間に合ってないのですが!!18歳になったらって約束どこ行った!!半年って2年も短縮されてますけど!???
「ごめんね、ルー。
もう待てないから、陛下と相談させて頂いて決めたんだ。
………だから、結婚したら覚悟しておいて?」
うわぁーーーーーー!!!!!
私は青くなったり赤くなったりしながら、甘い甘い睦言にこれからの生活に想いを馳せた。
私、これからどうなっちゃうのー!??
これは私がディオと幸せになるための物語、その始まりの一歩のお話。
如何でしたか?
コーエンにも報われてほしいとこのお話を考えていましたが、なかなか筆が進まず(>_<)ようやく形になったので投稿出来ましたー!!
もう待ってる人いないかもですが、良かったら見てやってくださいませー!(←後書きで書くことじゃない)




