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初めての街デート

少し短めのお話です。

あれからまた馬車で少し移動してこの領内にある街へと辿り着いた。


この辺りは隣接する領地へと続く公道が通っており、人の行き交いが多い場所だ。必然的に物もたくさん集まってくるので、王都近郊の街に劣らない賑わいを見せている。


旅に必要な武具や食料品を売る店、貸し馬車屋や宿屋なども点在していて、街の人だけでなく旅行客や商人なども広く利用する。そんな場所だからこそ、お忍びするには向いている。


都市近郊ほど顔を知るものも多くなく、余所者がいても不思議じゃない。視察先としても、市井の流通や傾向、暮らしぶりを知る上でも適していた為、ここを選んだといっていた。


久しぶりの街巡りに、私はウキウキしてしまった。普段は王都にあるタウンハウスに住んでいるため、お父様の伯爵領に行くことは滅多にない。たまに行くと、街にこっそり出てカフェ巡りとかしてたけれど、街の人達に領主の娘だとバレていたので、気軽には回れなかった。


カラスのルーだった頃、辺境近くのあの街でよく盗みをしていたのは苦くも懐かしい思い出だ。


ディオは目立つ金髪を薄茶のウィッグで隠し、私も同じく目立つ黒髪を濃茶のウィッグで隠した。

私の色の方が濃いのは、ひとえに元の髪色がもし見えてしまっても誤魔化せる色合いにするためだ。


銀髪とかピンク髪とか、異世界ー!って感じの色にしてみたい…なんてお忍びでそんなわがままは言えず、用意されたものに満足することにした。


「なんだか新鮮だね。どんな色でもルーは可愛いと思うけど、やっぱりいつもの黒髪が落ち着くな。」


さらっとそういうことを言うから…っ。

もしもディオが人間不信になっていなかったらどれだけのご令嬢を魅了して惹き付けていたのかと思うと、なんだか胸がもやもやしてしまった。


「ディオ様は…」


「ディオ、だよ。

ルー?今日の目的はわかってる?」


あ、そうだった。今日はお忍びで来てるから、様付けは禁止されていたんだっけ。


「ごめんなさい………、その…ディオ。」


言い直すと嬉しそうに笑って手を繋いだ。


「最初からこんなで大丈夫かなぁ。ルーは案外うっかりしてるから、また言っちゃうんじゃない?」


「そ、そんなことありません!!さっきは油断していただけで…っ。」


「じゃあもし、様を付けたらお仕置きだから…覚悟しててね?」


「……っ!!」


お、お仕置きって、私何されるのー!?!!!!?


ぶわわっと色々なことを妄想してしまい赤面する私を見て、小さく溜め息を吐いて今すぐ連れ帰りたい…と呟いた気がするのは私の気のせいだと思いたい……っ。



ぎゅっと恋人繋ぎされ、はぐれないでねと言いながらようやく街の中を見て回った。


ちなみに私達の邪魔にならないように、離れた位置で護衛がついている。


うちの領地にないものに興味を引かれれば、隣でディオが詳しく解説してくれる。街の商人に声を掛け、世間話をしながら情報収集をして。私が気になった食べ物があると、すぐに買ってくれて一緒に分け合って食べた。

王族であるディオがこんなにも街に馴染んでいるのは、恐らくあの3年間があったから。市井の人に混じって小遣い稼ぎと情報収集のために働き、森と街を行き来して生活したあの日々。



カラスだった時は遠くから見守るしか出来なかったけれど、こうやって一緒に街に出掛けられて嬉しくて、私ははしゃいでいた。



……だから、注意力が散漫になっていた。



街が混み合ってきて、大通りを歩くのが難しくなってきたので、一端小路に入ろうとした。ツンッと何かに引っ張られる感覚がして後ろに持っていかれそうになった。何か引っ掛かったのかと後方を見ればキラッと光るものと人影が見えた。


……あ、私、刺される……。


「ルーっっっ!!!!」




ディオの叫び声が聞こえた。


刺される恐怖に目をぎゅっと瞑っていたら大きな何かに身体を覆われた。そして、遠い過去に嗅いだ血の匂いが鼻につき血が流れているのだと気付いた。最期の瞬間を思い出して胸がぎゅううと絞られたけど、私の体はどこも痛みを感じない。


……っということは…っ。



私はバッと目を開けた。

目の前には表情を歪めたディオがいて、私の後方に何かを投げ背後から男の呻く声が聞こえた。護衛がすぐに駆けつけ、すぐさま指示を出し捕らえるよう命じている。


……でも、私はそれどころじゃない。



「………デ、ディオ様…っ!う、ううう腕が、血が…っ!!」


ディオの左腕から真っ赤な血が流れていた。白いシャツを染め上げるその色に私は青ざめながら近付こうとして止められた。


「大丈夫………っと、いいたい…とこだけど…っ、油断したな……。毒が塗られてた。

だから、ルー……っ。さわら、ない……で…」


それだけ言うと、静かにディオは地面に沈んでいった。



「…い、いやぁぁぁあああっ!!!」



私は混乱した頭でただただ目の前で起きたことをみていた。動こうにも身体が上手く動いてくれなくて、涙が止まらなくて。


アルコール消毒が…とか、感染症があるから直接触っちゃダメで…とか、止血しなくちゃ…とか、意味もなくぶつぶつと呟いて。

ふらりと近付こうとして護衛の人に止められた。


応急処置を済ませたディオは私共々領主の館に連れてこられたと気付いたのは大分時間が経ってから。

それくらい、時間の感覚がなくなっていた。





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