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勇者と言ったら勇者  作者: ゴリマッチョ見習い
1章ヘレネス修道院
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1-5 ヘレネス修道院

 おれはシスター・カリーナに連れられ城門の中へ入り、ヘレネス修道院に来ていた。

 そして、本当に迎えていいか審議に掛けられていた。両手を挙げて十数人のシスター達に警棒を向けられながら。なんか犯罪したっけ?

 議論のテーマは、女性しかいない修道院に男を、しかも見るからに怪しい者を、果たして入れるべきかどうかというものだ。


 遡って説明すると、まずはここの責任者である修道院長の代理の人に話を聞いてもらおうとなり、修道院の門をくぐり本堂に向かった。

 とそこで、戸締まりをしていたらしい若いシスターと会った。

 「ただいま。ミリアンヌ」

 「珍しいわねカリーナ。あなたが門限破るなんて」

 「実はちょっと理由があって……」

 「またリザさんに叱られるわよ? まあ、とりあえず中はいん……」

 この時おれは熱がぶり返して、ふらつきながらカリーナの後ろにいた。

  

 「きゃああああああっ‼︎」

 「あ、ちょっと待って! この人は……」

 カリーナが事情を説明する暇もなく、悲鳴を聞いた周囲が騒がしくなり人が集まってきた。

 「どうしたの!?」

 「へ、変質者が……!」

 そこで冒頭の状況に繋がる。

 

 「こんな変質者を泊められるわけないじゃない」

 「た、確かにこの人はヘンテコですがそれでもっ……」

 「神聖な修道院にそんなみすぼらしい格好で」

 「それはしょうがないことであって……」

 「汚いし、なんか臭いし」

 

 不快さを隠そうともしないシスター達におれを擁護しようとするカリーナ。

 泣いていいですか?

 こんなに気持ち悪がられることってある?

 おれがなにしたって言うんだよ……。


 「その辺りにしておきなさい。お客様に失礼でしょう?」

 その地獄を止めてくれたのは妙齢の美しいシスターだった。

 「院長……」

 服装はシスター全員が統一されているが、そのシスターは青みがかった紫の髪に、女性らしい起伏に富んだシルエットで、妖艶さも醸し出している。

 なによりおっぱいがめちゃめちゃデカい。

 服の上からでも分かるその存在感。

 ガン見し続けそうになるのを必死に抑える。

 「当施設の者が失礼しました。私は修道院長代理のソフィアと申します。お名前を伺っても?」

 「いえ、とんでもないです。ソフィアさん。雄真と言います」

 「ユウマさんですね。まずはカリーナが連れてきた事情を聞きましょう。施設に泊めるかはその上で私が判断します」

 まともな人だ……!

 ちゃんとした扱いに感動した。

 「ユウマさんは……」

 カリーナが経緯を話してくれた。



 「……なるほど。記憶喪失で気付いたら森にいて、三日間なにも食べられず、体調不良で倒れた所をカリーナが看病して連れてきたと」

 「そうです」

 「その顔色の悪さと怪しい動きは体調不良によるものなのですね」

 「そうなんです」

 「納得しました。とりあえず病室へどうぞ」

 「ちょ、ちょっと院長!」

 そこでシスターの中でも一際おれを嫌悪していたミリアンヌという子が口を開いた。

 「本来この修道院は男児禁制なのをお忘れでは?」

 するとソフィアさんは溜息を吐いて、

 「なにを言っているのですか。そんなのは時と場合によります。病人ですから」

 「ソフィアさん……!」

 なんと寛容で慈悲深いことか。この人が聖職者なのも納得といった所。おっぱいはけしからんけど。

 「……変な気を起こさないで下さいよ?」

 「な、なにが?」

 「はあ」

 まずい。カリーナに釘を刺された。女性に不快な思いをさせないというのが紳士であるおれのポリシーなのに。

 「そうしましたら、こちらへどうぞ」

 ようやく中に入れそうだ。


 「恐らくは栄養失調と寒さで抵抗力が下がって高熱が出たのでしょう。感染症などでは無さそうです」

 おれは病室のベッドでソフィアさんの診断を受けた。付き添いでカリーナもいる。

 「はい、ありがとうございます」

 「熱の方は安静にしていれば治るでしょうが、問題は記憶喪失ですね」

 ソフィアさんが真剣に尋ねる。

 「自分の名前以外に思い出せることはありますか? なんの仕事をしていたとか、どこに住んでいたとか」

 どこまで話したものか分からなかったのだが、この人達に嘘は吐きたくないと思った。

 「日本という国で学生をやってました」

 「ニホン……?」

 ソフィアさんはカリーナに目で尋ねるも勿論カリーナが知っている筈がない。

 「たぶん皆さん知らないかと。おれもヘレネスという都市は初めて聞きました」

 「ヘレネスを知らないとなるとかなり遠い国ですね。他に思い出せることは?」

 「あとは……、年末まで日本で普通に生活していたのですが、そこからの記憶が数日途絶えていて。気付いたら森にいたって感じです」

 「記憶喪失となると、病気か犯罪に巻き込まれたかだと思うのですが、目立った外傷もありませんし。……うーん」

 ソフィアさんは唸っていた。

 そこでカリーナが、

 「姉さん。焦らずともいいのでは? 徐々に思い出せるかもしれませんし」

 「姉さん? 姉妹なんですか?」

 確かにどちらも美人だが、そんなに似てはいない気がする。

 「血は繋がっていないですよ? ただこの呼び方をこの子がやめなくて」

 「ああ、やっぱり」

 おれは少し視線を下げて自分の感覚の正しさを確信した。

 「ユウマ? 今どこを見て納得しました?」

 カリーナは笑顔だが、目が全然笑っていなかった。呼び捨てになってるし。

 「え? なんの話?」

 カリーナはこの手の視線にとても鋭い。完璧にとぼけたつもりだったが、

 「私も大変気になりますね。なにがやっぱりなんですか? ゆうまさん?」

 「えっ? えーっとお、それはなんというか……」

 「なんというか?」

 「顔もそんなに似てないと思いましたし、あとは……」

 「あとは?」

 「あとは……」

 思わぬ参戦にみっともなく狼狽えるおれ。

 これはまさか追い出されるルートか?

 そこでくすくすとソフィアさんが笑みを溢した。

 「ゆうまさん」

 「すいませんでしたーーーっ!」

 ベッドの上で正座し、深々と、ベッドに付くほど頭を下げる。

 カリーナはため息を吐いた。


 「いいですか? たとえどれほどちっぱいでも、そういった性的な視線で傷つく女性がいることを忘れてはなりません」

 「姉さん?」

 カリーナが先程の恐ろしい笑顔でソフィアさんを見る。

 「分かりましたね?」

 「はい、もう胸の大小で女性を差別しません」

 心から反省し、殊勝な顔で頷く。

 カリーナは笑顔のままだがこめかみに血管が浮き出ている。

 ソフィアさんは堪えきれないとばかりに吹き出して笑っていた。



 今後に関してはとりあえず熱が下がって落ち着いてからということになった。

 今でも元気なくらいだけど。

 もし記憶が戻らないようであれば、ここで働いてくれても構わないとも言ってくれた。

 

 「そうね。そうしたら夕食の用意をしてきます」

 「いいんですかっ!?」

 「もちろんです。と言っても今日の残りですが。お腹は空いてます?」

 「いくらでも食えますっ!」

 「では。仲良くするんですよ?」

 「はーい」

 「……」


 ソフィアさんが出ていったあと、病室は沈黙に支配されていた。

 「……」

 「あの、怒ってる?」

 「ええ」

 「やっぱりそうだよな、いきなり図々しく押しかけて」

 「いや、そっちじゃないんですけど……」

 「え? そうなの?」

 「……はあ、もういいです」

 呆れと諦観の混ざった声で言われた。

 「カリーナに言いたいことがあるんだ」

 とりあえず言うべきことがあったのでちゃんと向き直る。

 「カリーナとガタイのいいおっさんが今日森に来ておれを連れて来てくれなきゃ、今頃盗みを働いてたか寒さで倒れてたかもしれない。だから」


 ありがとな。

 本心からそう言った。


 「手を取ってくれて、正直、嬉しかった」


 照れながらも伝えなければならないことだった。

 「あのおっさんにも礼を言わなきゃいけないんだけど、見当たんなかったんだよなー」


 それに対してカリーナは、微妙な表情でこちらを見ていた。

 「……」

 「えーっと、カリーナさん?」

 「あの人は別の修道院の知り合いです。それに、あなたを助けたのは神に仕える者として当然の行いです」

 「それでもさ、おれは救われた」

 「……」

 「なにか困ったことがあったら言ってくれ。神様とか関係なく、力になりたいから」

 「……そうですか」

 自分で言って照れ臭かった。

 「自分で言って照れないで下さいよ」

 カリーナはそっぽを向いてしまった。

 

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