4-2 カリーナの秘密
「あなたも、見ていたのですね」
あれから少し時間が経った頃、折を見ておれは執務室にいたソフィアさんの元を訪ねていた。
「はい、力になりたいと思って。状況は聞いたんですが、なぜそうなったのか分からなくて。変身のことも……」
「そうですか。ありがとう。ユウマさん」
ソフィアさんは頭を下げた。
「顔を上げてください。あれだけ世話になったんですから当然です」
「ありがとう。今回のこと、私もあなたには知っておいて欲しいです。では、事の発端からお話しします」
その後おれはソフィアさんから事情を聞いた。
数日前ミリアンヌとカリーナが出かけた所、魔法占いでのカリーナの魔法一等級の噂を聞いたスカウトに声を掛けられた。スカウトは黒い噂の絶えないダモス家の長男でかなりしつこく、嫌がるカリーナを止める為ミリアンヌの手を強く掴んだ。痛がるミリアンヌを見てカリーナは変身し追い払った。
「隠していましたがあの子は動揺したり激情に駆られると屈強な体へと変身してしまうのです」
「……」
やっぱりそうか。変身後の姿はなにも知らない人からしたら恐怖に移るかもしれない。
運悪く変身を何人かの町人に見られ、当の長男が魔人だと騒ぎ立てた。その話が貴族で市議会議員の父親経由で市議会まで行き、
「で、さっきの騒ぎってわけか」
胸糞の悪くなる話だ。
しかもこの王都は十数年前の魔人の襲来で魔人疑惑の者への制裁は過激だそうだ。シスターを保護してくれそうな教会も連行を承認している。
嫌な条件が重なってる。
「くそ……」
「……実はあの子は、拾い子なのです」
ぽつりと、ソフィアさんはもうひとつの秘密を漏らした。
ソフィアさんもまだ子どもの頃、森で独り泣いている赤ん坊を見つけたらしい。急いで家に連れ帰り、聖職者であった両親に見てもらった。その後修道院で引き取りすくすく育っていったのだそうだ。
順調に育っていたが、カリーナが十二歳の頃から変身してしまうことが起き始めた。カリーナは落ち着いた性格だったため、そこまで頻繁に変身はしなかったが、要らぬ混乱を避けるため変身については隠すことにした。
「当時はなぜ変身してしまうのか判りませんでしたが、今思えば高過ぎる魔力が暴走してしまったのでしょう。そしてなぜ魔力が高いかを考えると」
ソフィアさんは悲痛な表情を浮かべ言った。もしかしたらあの子は魔族かもしれないと。
「ただそれでも! たとえ魔族であったとしても! あんな優しい子が悪事を働くなんてあり得ません‼︎ だから私は戦います」
戦ってあの子を守るのです。
そう言い放つ彼女に心を打たれた。
そうだ。止まってる場合じゃない。動かないと。
「おれも出来る限りのことをさせてもらいます!」
「ありがとう! 頼みます! ユウマさん!」
しかしこの後、事態は急速に悪化していくことになる。
暗雲が王都の空を覆っていた。