3-3 顔見せ②
侍女に悲鳴を上げられてしまったので、とりあえず衛兵を呼ばれる前に退室した。談笑出来る場所もなくそのまま城を出る。
「クエストの詔令があればまた会うことになるだろう。ではな」
「んじゃあたしも。ばいばーい」
騎士と踊り子は帰路に着こうとしていた。
「ちょ、ちょ待てーい‼︎」
「なんだ?」
「なに?」
おれは思った。人選ミスか知らんがこのパーティはヤバい。騎士はまだクズでも戦えるからいいとしても、踊り子はどう見ても戦えそうに見えない。魔法貴族の出らしいが。
最悪王様に考え直してもらう時のためにも、最低限踊り子がどの程度魔法を使えるか見ておく必要があるだろう。
「もうちょっと話していかないか? このままだと次魔獣のクエストで会った時、お互いの顔と名前くらいしか分からないぞ?」
「確かにいざ戦闘でもたついて足を引っ張ってもらっては困るが、あいにく今日は社交場……予定があってな」
「それ絶対ナンパだろ!?」
「ああ」
こいつ休日に独りでナンパしているのか!? 猛者過ぎる。
「分かった! とっておきの美人を紹介してやる! それでどうだ?」
「なに? それは本当だろうな?」
「まじまじっ! スタイルはそこそこだけど顔はめちゃくちゃかわいいっ! しかもタメ!」
「愚か者。それを先に言わんか」
買収完了。あほで助かった。
ごめん、カリーナ。
「ドロシーはどうだ?」
「あたしは今日一日開けちゃったからいいよ」
「よし! そしたらうちのギルドに案内しよう!」
とりあえず話の運びは成功し、ギルドに向かうことになった。
「しかし十六で踊り子って法律に引っかかんないのか?」
「十五からはおっけーだよ。うちの店は健全だし」
十五って。中三じゃん。なんかこういうの聞くと日本ってちゃんとしてんなと感じる。
「着いた。ここがギルド。おれは二階に住んでる」
「え? ここ? ちっさくない?」
「かなり古いな。営業してるのか?」
えらい言われようだが気にしない。
おやっさんは……仕事中か。
三人で端っこの丸テーブルに掛ける。
「ねえ、そういえばさ、アレ見せてよ。聖剣」
「ん?」
そういえば二人にはまだ見せてなかったか。
「ああ、いいぞ。ほら」
聖剣(小)を見せる。
「ふーん、綺麗だけど、ほんとに小さいね」
「このサイズでは得物が無い時しか使えんな」
言葉の割にはしげしげと色んな角度から見るドロシー。興味を持ってくれてちょっと嬉しい。
「触ってみるか?」
「いいの!?」
「いいのか?」
「お前には言ってねえ」
「器の小さいやつだ」
切れ味はあるので注意してドロシーに手渡す。
「へえ。見た目通り軽いね。……見て。勇者っぽい?」
立ち上がりそれっぽくポーズを取るドロシー。
「「盗賊だな」」
「アンタらに期待したあたしがバカだったよ」
「ほれ、ついでだから触っていいぞ」
実を言うと聖剣を勇者候補筆頭だったこいつに渡すとどうなるか密かに興味があった。
返された聖剣をアルカイオスに渡そうとした時、なにか抵抗を受けた。
「……? 渡さないのか?」
手を出したまま固まるアルカイオス。しかし何度渡そうとしてもなにか反発めいたものを聖剣から受ける。例えるなら磁石のN極同士を近づけたような。
待てよ。聖剣は持ち主を選ぶ意思がある。ということは……。
「ちょっと持ってくれ」
聖剣をテーブルに置き、手に取るよう促す。
「……? ああ」
アルカイオスが手を出すと同時に聖剣が勝手に離れた。
「「「……」」」
聖剣が避けた……。
「……くくっ。ははははははははははは」
やべえ。騎士が壊れた。
「ここまで虚仮にされたのは初めてだ。しょうがない。諦めて……」
よかった。諦めてくれた。
「諦めて……実力行使といこうっ‼︎」
訂正。諦めてなかった。
予想外のスピードで聖剣を掴みにかかるアルカイオス。
しかしそれと全く同時に聖剣はテーブルを飛びたち、おれの側で宙に浮いた。
「まじで……?」
「本物か……?」
目を見開いて驚く二人。
聖剣の聖剣らしい所をこんな形でまた見ようとは。そんなに嫌だったの?
おれが手を出すと移動してすっぽりと収まった。
「どうやら聖剣的にNGらしい。残念だったな。変態はお呼びじゃねえってさ」
アルカイオスは羞恥に打ち震えていたが開き直った。
「もしかしたらと思ったが、選ばれないなら是非もない。その果物ナイフはお前の物だ。お似合いだぞ?」
「てめぇ……」
的確にこちらをイラつかせてきやがる。
「まあまあ、いいじゃん。いいもん見れたんだし。意思を持った魔法具なんてあたし初めて見たよー」
そこでカウンターの裏からおやっさんが出てきた。
「そうだ! おやっさんにあんたの魔法を見てもらおうと思ったんだよ」
おやっさんに勇者パーティ二人を紹介し以前やったネクタルを用意してもらった。
「ふふふ。あたしをなめてもらっちゃあ困るぜ」
ドロシーはネクタルを波立たせるどころか自在に操ってみせた。そして最後には。
「凍った……?」
「ほう」
「こりゃあ初めて見る……。氷結魔法か」
ネクタルが波打った状態で凍りつき固まっている。
ドロシーはなにも言わず、したり顔を決めた。
うぜー。
おやっさんによると氷結魔法は水の派生系、魔法の中でも攻撃、防御に優れ、近接戦も遠距離戦もこなせるので使い手はとても重宝されるらしい。それ以外にも足止め、捕縛など汎用性は高い。
「貴様、等級はいくつだ?」
「そう言われるだろうと思って魔法占いのカード持ってきたよ」
カードを覗き込むと、
「二等級!? しかも氷結魔法で!?」
ドロシーはなにも言わず、またしたり顔を決めている。
ドヤ顔がうぜー。喋れや。
「でも、なんでそんなやつが踊り子やってるんだ?」
踊り子はさっと顔を背けた。
「おい、知力を見てみろ」
「知力が……十等級だと……!」
「こりゃあ初めて見る……知力十等級か」
ちなみに十等級は平均を大きく下回る。なかなかお目にかかれないレベルのある意味希少種。
男三人の憐みの視線がドロシーに集まる。
「〜っ! ああバカだよ! 悪いかっ!」
「いや、悪くはないけど、そういや家の人と仲悪くて別で住んでるって言ってたな」
「バカすぎて家を追い出されたという意味だったか」
「なるほどな。氷魔法に全部持っていかれた感じか」
「アンタらまじで失礼だな……!」
あまりの怒りでぷるぷるし出した。
とりあえず踊り子が戦力になることは分かった。
「そういや、お前はなにが使えるんだ?」
「土が得意だな、三等級だ。貴様は?」
「おれは二等級で風と火が使える」
「へえ。あんたも二等級なんだ」
「ほう。伊達に聖剣に選ばれてないということか」
「なかなか豪華なメンツじゃねえか。よかったなユウマ」
「ちなみに知力は七等級だ」
「聞いてない」
「聞いてないな。平凡そのものだしな。おれは五等級だが」
「「五等級……!?」」
ここ最近で一番驚かされた。このクズナイトが五等級だと?
「案外魔法占いも当てにならないな」
「ねー」
「嫉妬は醜いぞ。平民ども」
「いや、五等級はそこまで大したものでもないぞ。お前らのやってることをなんて言うか知ってるか? どんぐりの背比べだ」
「「「……」」」
おやっさんの的確過ぎるツッコミが入った。ぐうの音も出ねえ。