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勇者と言ったら勇者  作者: ゴリマッチョ見習い
3章勇者パーティ
13/23

3-1 国王陛下

 呼び出された時刻の三十分前。おれは既に王城の城門にいた。

 緊張して早く来過ぎた。まあ、待たせるよりはいいだろう。

 さすがに国の最重要人物の住まいだけあって威厳がある。どれだけの人手と時間があればこんな馬鹿でかい城造れるのやら。

 警備も万全。門で身体検査と荷物検査やったんだが、検査するだけの人さえ屈強。どう見てもおれより強い。

 やっぱり来るのが早過ぎて待合室で待つよう言われる。

 緊張のあまりトイレに行きたくなり、こんな高貴な場所で申し訳ないが用を足させて頂いた。

 

 「あ〜痛いのお……」

 トイレを済まして待合室に向かう途中、廊下で腰を痛めたポーズのおじいちゃんがいた。杖をついているが、服はみすぼらしいし清掃員だろうか。

 「あ〜痛い……」

 チラッ。

 声を掛けようとしたが、なんかわざとらしかったのでやめた。

 「お〜痛い。腰が悲鳴を上げてここから動けそうにないの。だれか助けてくれる心優しい若者はいないものか」

 横を通り過ぎるタイミングでかなりの大声で喋っていた。

 爺さんはこちらをガン見していた。

 三秒くらい目が合う。

 頷き合う両者。

 おれはそのまま歩き始めた。

 「スルーっ!? ま、待たれよお主っ!」

 なんか変なのに絡まれた。

 「なんですか?」

 「あれほど見つめ合ったのに、助けてくれぬのかっ? わし困ってるよ〜?」

 見つめ合ったとか言うな。あとほんとに困ってる人は困ってるよ〜とは言わない。

 「いやなんか芝居臭かったし、あとセリフも妙に説明口調だったし」

 「ダメ出しされたっ!?」

 「ほんとに痛い時を思い浮かべて、感情込めていこう!」

 困惑しながら言う通りにする爺さん。

 「っつ! あたたたた……」

 爺さんは腰を押さえしゃがみ込んだ。

 「こ、こんな感じかの?」

 「さっきよりぐっとよくなったよ! おれ今めっちゃ助けたいもん!」

 「そ、そうかの?」

 満更でもないじじい。

 「その調子で次も頑張れ爺さん! 助けてもらえるように!」

 「わ、わかった!」

 片手を挙げて颯爽と立ち去る青年。

 「……いや助けて!?」

 「ちっ」

 「今舌打ちしたかの!?」

 「してないしてない」

 結局おれは爺さんを助けてあげた。

 「うわっ! 加齢臭っ!」

 「わしの扱い酷すぎぬか!? 最初より心ズタボロなんじゃが!?」


 その後も。

 「お、応接間に持って行きゃ、行かなきゃなんですけど、重いなー(棒)」

 噛み噛み侍女。そんな短いセリフ噛むな。

 「…………うわーん! ママどこー!?」

 目に水を差してから泣く男の子。隠れて差せ。

 どいつもこいつも大根芝居。

 なにを隠しているのか知らないが乗ってやろう。

 てゆーかなんでこの状況で衛兵は放置なの? おれ今爺さん背負いながら左手で荷物持って右手で子供の手引いてんだけど。警備兵全然見当たらんし。もはやおれの方が困ってるだろ。


 結局城の廊下を行ったり来たりして三階の応接間に着いた。

 「ありっ、ありがとうございますっ」

 「ありがとう! 兄ちゃん!」

 「ご苦労じゃったな。水でも飲むか?」

 「じゃあありがたく頂くよ」

 どうやら三人とも応接間が目的地だったらしい。

 「ほら、入りなさい」

 なんでこんな我が物顔なんだろうと思ったが疑問はすぐに解決した。

 控え室に入ってすぐ騎士らしき人が数人いた。

 「御勤めご苦労様です。陛下」

 「うむ。この者に飲み物を出してやっとくれ」

 「はっ」

 え? 陛下って国王の呼び方だよな?

 ということは……。

 「この人が国王? 清掃員じゃなくて?」

 言った瞬間場がしんと静まった。

 あ、やばい。これガチの粗相だ。

 騎士のおっさんがいつ殺そうかみたいな目でおれを見ている。

 「し、失礼しました、陛下。お会いできて光栄です」

 跪いて恭しく拝礼する。冷や汗だらだら、社会的に死ぬか生きるかという瀬戸際で、ほっほっほと国王は笑ってくれた。

 「よいよい、先ほどわしの演技は扱き下ろされたが、そこは騙せたようでなにより。それともわしはみすぼらしかったかの?」

 「いえ、微塵も」

 「め、滅相もないですよ」

 こ、こええ。即答したこの騎士のおっさん怖すぎだろ。おやっさんと違って堅物そのもの。冗談が全く通じなさそうなんですけど。

 「あとわしは臭うかの? さっき負ぶされた時に言われた……」

 「とてもいい匂いがしましたっ! お日様の香りがっ!」

 「……」

 頼むから余計なこと言わないで‼︎

 「ほっほっほ。お返しじゃよ。わしのドッキリをボロカスに言っとくれたお主へのな」

 じじいっ!


 「やっぱりドッキリだったんですね?」

 「左様。勇者であるお主の人間性を暴く巧妙な仕掛けの数々。要は試したわけじゃな。色々と準備したというに、お主ときたらやれ重いだのやれ疲れただのばかり……気に入ってもらえんかったようじゃな」

 王様はしゅんとした。

 堅物騎士の睨みがキツくなる。

 「いえっ! 大変楽しくありましたっ‼︎」

 「ほっほっほ。そうじゃろう、そうじゃろう」

 じじいっ!

 なにこの誘導される感じ!


 「さて、場も和んだ所で」

 一ミリも和んでないです。王様。

 「続きは応接間でしよう、客人よ。わしは場に相応しい服に着替えるとするかの。少し待っておいてくれ」

 「御客人。こちらへどうぞ」

 堅物の騎士とは別の騎士に応接間に案内された。


 そこは今まで見てきた中で最も豪華絢爛な空間だった。

 白を基調とした大理石。金銀の煌びやかな装飾を施したシャンデリア。壁面には絵画。

 城の外観から察するに最も広い部屋ではないだろうが、それはつまり一番金を注ぎ込んだ部屋でなくてこれということ。財力の違いを叩きつけられる。

 食い入るように眺めていると、陛下が現れた。

 今度はしっかりとこの部屋の主人、王に相応しい服に身を包んでいた。

 跪いて礼をする。

 「待たせたの。では、改めて。わしの名はネストル・アレクサンドロス・フィリッポス・シデロじゃ。ここシデロ王国の国王をさせてもらっておる。お主の名は?」

 名前ながっ! スが多っ!

 「ご丁寧にありがとうございます。私は菊地雄真と申します、王様。この度はお招き頂きまして誠に嬉しく存じます」

 「うむ。礼儀は大事じゃ。要らんいざこざを招かんためにもな。しかし、ユウマという名はあまり耳馴染みがないの。異国から来たのか?」

 「はい、日本という遠い異国からやって参りました。今は冒険者をやっております」

 「ニホンという国は聞いたことがないの。 まだ新しい国なのか?」

 「陛下。世間話より先に本題へ入られた方がよろしいかと。この後の御公務も残っておりますので」

 例の堅物騎士が割り込む。

 「そうじゃったな。すっかり忘れとったわい。代わりに説明しとくれ」

 「はっ。先日、成人の儀の日、城の宝物庫から光が発生した。確認した所、俗に聖剣と呼ばれる宝剣のみが無くなっていた。宝物庫から痕跡なしに盗むのは困難なため、伝承通り聖剣が持ち主を選んだと判断した」

 「お主が持っておるとの噂を聞きつけてな、ここへ呼んだ次第じゃ。あの日、なにか不思議なことはあったかの?」

 「はい。確かにあの日、光を伴って私の前に剣が現れました。ただ……それが聖剣かどうか」

 「わしなら見れば分かる。見せておくれ」

 「どうぞ……」

 聖剣を取り出したおれを見てその場の全員がしょっぱい顔になった。

 「どういうことじゃ……?」

 「……」

 まあ、そうなるよね。

 「確かにこれは聖剣なのじゃが」

 「え! そうなんですか!」

 「うむ。細かい所までは覚えとらんがなんかこんな感じのデザインじゃった! のう?」

 うろ覚えか。

 「ええ。確かに聖剣の意匠と同じです。ですがこれは……」

 なんとも言えない微妙な空気が広がる。

 「手にする前からこの大きさでした」

 「なぜかわかるかの?」

 「いえ。分かりかねます」


 とにかく。聖剣に選ばれたのだからユウマが持っているべきとの結論になった。

 「いつまでも小さいままなら考えなくてはならぬが。とりあえずそれは措こう。勇者となったお主にはやってもらいたいことがある」


 陛下は視線で堅物騎士を促す。

 「近年、竜に代表される魔獣の目撃情報が多くなってきている。通常の兵士では多大な被害が予想されるため、勇者にはパーティを組みこれらに対処してもらいたい」

 パーティ? 何人かでまとまって行動してくれってことか?

 「何もない時は今まで通り暮らしてもらって構わんぞ」

 「魔獣との闘いは苛烈を極めるだろう。メンバーは戦闘に関しては言わずもがな、日常生活能力や政治方面などを熟慮し、誠に勝手ながらこちらで決めさせてもらった」

 「でじゃ。ひとりひとり呼び出して説明するのも億劫じゃったから、顔合わせも兼ね今日全員に来てもらっておる」

 「!」


 「入ってもらえ」

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