2-4 成人の儀、その後
遂に念願の聖剣を手に入れたのだけれど……ちいちゃい。
とりあえずおれ達はギルドへ場所を移した。昼飯食べるついでにこの剣? の謎を解き明かそうとなった。
改めて小さ過ぎる。例えるなら、
「ナイフですかね?」
「……否定出来ない」
おれの拳二つ分しかない。
絶対聖剣だと思ったんだが、聖剣にしては小さ過ぎ、ナイフにしては登場が神秘的過ぎる。
「でもなんかかわいいですね」
「かわいくてどうする」
翼を模した鍔、銀を基調としたシンプルなデザイン。
よく見るとルーンみたいな文字が刻印されてて意味不明でかっけえ。
が、やっぱりサイズがかわいらし過ぎる。
「どうだったユウマ。結果は?」
仕事が一段落して暇になったのか社長ことファウロスさんがカウンターから出て来た。
おれは憂鬱になりながらも紙を見せた。
「一応、二等級です」
「なんだとっ! おお! さすがおれの見込んだ男だ! あっさり取りやがって……ってなんでそんな落ち込んでるんだ?」
目敏くテーブルの上のカリーナの紙を見つける社長。
「おお! そういやカリーナちゃんも成人だったな! おめでとう! 大きくなったな!」
「ありがとうございます」
「いい結果出たか? つってもシスターならあまり関係は無いがな。がはは!」
「良過ぎるんですよ、こいつが」
「こいつとはなんですか、こいつとは」
シスターの紙を見て固まる社長。
「……一等級って出るんだな……完全に眉唾だと思ってたが、こいつあ驚いた。それでお前さんが意気消沈しちまってると」
「ノーコメントで」
しばらく眺めて社長はポツリと。
「しかしどうするつもりなんだ? カリーナちゃんは?」
「え? なにがですか?」
「これほどの記録だ。方々から声がかかるだろう。それどころか、魔法使いぶっ飛ばして魔法貴族の嫁として取り合いになってもおかしくない」
「貴族ぅ!?」
「貴族……」
「遊んで暮らせるとは言わねえが、今より贅沢出来るのは確かだな」
「遊んで暮らせる……」
あ、悩んでるコイツ。信仰はどうした。
「迷ってるな?」
「はっ! い、いえ! 迷ってません! 私の道は決まってますから!」
「いーや、今絶対そっちの方が楽だなって思ったね」
「思ってません!」
カリーナは居直ると、
「私は……神の家で他のシスターと共に清貧に暮らす、今の生活に満足しております。欲に目が眩むほど浅くは無いつもりです」
「そうか。ならいいんだ」
「おれは……ボロい家に独り安月給でこき使われる、今の生活には不満があります。靴を舐めてでも貴族になりたいです」
「あの、私と同じ感じで言うの不快なのでやめて貰えます?」
「そうか。貧乏冒険者はもう懲り懲りだと?」
「いや、冒険者はいいんですが、貧乏が……そうだ! 冒険者貴族になればいいんだ!」
「そんなもんねえよ」
「それよりも! ファウロスさんに見て欲しい物があるのでは?」
「ああ、そうだった!」
おれは聖剣(仮)を取り出し見せる。
「これなんだと思います?」
「護身用のナイフか?」
「ですよねー(棒)」
気落ちしてテーブルに突っ伏す。
「まさかこれが聖剣とでも……?」
「そのまさかなんですよ。魔法占いの後におれの元に光りながら飛んできたんです」
「飛んできた? 剣が?」
社長はカリーナに目を向ける。
「はい。私もその時一緒にいて、確かに飛んできました」
社長は疑いの目で聖剣(仮)を手に取り矯めつ眇めつ眺める。
「確かに精巧な造りだ。どうやってこんな小さい剣を創ったのか検討がつかん。しかしそれだけの技術があってなぜこのサイズなんだろうな」
カリーナも触りたそうに見てたので手渡す。
「社長でも分かんねーか」
「こんな小さいナイフじゃ、メインで戦闘に使える訳ねえしな。国宝だぞ? なにか間違いじゃないか? 例えばお前さんを狙った刺客が放った獲物とか」
「まだそっちの方が可能性ありそうですね」
ふと喋らないカリーナを見ると聖剣で果物を切っていた。
「いやなにしてんのっ!?」
「え? 切れ味を試そうかと。すごいですよこのナイフ! 硬いのでもすっと刃が通ります」
「ナイフじゃねえ!? 本物だったらどうすんだっ‼︎ 国宝だぞ!」
カリーナの手から聖剣をひったくった。
カリーナは偶にこういう天然をかますから困る。
「とにかく。大事に持っておくこったな。それが本物なら城では騒ぎになってるはずだろう。売ったりするなよ?」
「しませんよ。さすがに」
とりあえず、肌身離さず持っておこうと思う。もし偽物でもそれなりに希少価値はある訳だから売れるし。
数日後、いつものように簡単なクエストを終え、昼過ぎにギルドに戻ってくるとおれにお客が来ていた。
「おお、帰ったか。ちょっとこっち来い」
白のジャケットに白のパンツ、おまけにハットまで白。お客さんは派手な正装に身を包んでいた。
「こちらの小僧が話したユウマです」
「初めまして。私は国王陛下より遣わされた使者のベリアントと申します。あなたがユウマ様でしょうか?」
「はい、そうですが……まさか」
おやっさんの方を向くと、
「そのまさかだぜ……」
冷や汗を垂らしていた。
「簡潔に申し上げますと」
国王陛下があなた様に会いたがっておられます。
「……」
まじかい。