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勇者と言ったら勇者  作者: ゴリマッチョ見習い
2章成人の儀
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2-3 成人の儀

 おれが冒険者兼雑用になってから半年が過ぎた。転生してきたのが年の始め、修道院を出たのが春だったが、もう夏も終わり季節は秋に移る。

 半年端折った理由は……って違うよ? 別に平穏無事な毎日でショボかったからとかじゃないよ? 色々事件とかあったし!

 例えば? 魔法結構使えるようになったとか、あとは……社長にごにょごにょなお店に連れて行ってもらったりとか?

 はい。空しくなってきたのでここらで止めます。

 ともかく、半年後の秋から、ただのよそ者だったおれの物語が動き始める。

 


 成人の儀。この国では十七歳になる秋に新成人を祝う祭りというか催しが行われるらしい。

 街道に出店が多くなったり、新成人はお酒が飲めるようになったりと王都が賑わうが、それだけじゃなく成人の儀にはしっかりとした意味がある。

 魔法占い。それは知力、体力、魔力などの素養を、魔法を使って分析して自分に合った職業を教えてくれるというものだ。占いと言っても生まれた時の星の配置云々ではなく、本人の体から読み取るので正確だと評判がいい。

 これを普通にやるととんでもない額持っていかれるが、成人の儀に参加する者はなんと無料で受けられる。

 大人の仲間入りを果たした者にどんな職が向いているか、迷う背中を押してくれる。

 なかなか粋ではないかと思う。


 そしてもうひとつ見逃せない点がこの儀にはある。それは……。

 「聖剣……があるんですか?」

 「ああ、お前さんは知っておいて損はないだろう」

 聖剣の伝説。遠い昔に国王が神から賜った宝剣がまだ城のどこかにあるらしい。

 その剣の不思議のひとつが、持ち主を選ぶこと。その選ぶタイミングが。

 「成人の儀ですか。テンション上がってきた!」

 おれの勇者としての華々しいデビューがすぐそこまで来ている! この半年で魔法も使えるようになったし! 

 魔法が見たい? 今度な。

 「まあ、ここ百年以上は選ばれてないらしいがな。勇者候補は他にいるし」

 「じゃあなんで言ったの!?」

 「いや、もしかしたら……と思ってな」

 ぬか喜びしちゃったじゃん。候補いんのかよー。なんかとびきり優秀な騎士がいるらしい。しかも貴族の出でイケメン。まじ害悪。



 数日後、成人の儀当日。

 結構な人数がいるため、都市の中央広場にてお偉方より有難きお言葉を頂く。

 その後、先着順に市庁舎にて魔法占いが行われる。市庁舎は結構大きい。けど豪奢ではなく内部に柱がいくつもあって無骨な印象。

 さすが王都の新成人だけあってドレスやコートなど華美な装飾の人が多い。かくいうおれはクエスト行く時の格好。上下黒い肌着に茶色のレザーアーマーとブーツ。青いマント。地味とか言うな。金無いから一張羅しかないんだよ。

 順番待ちが長蛇の列になっていたので、暇つぶしがてら出店を見て回ることにした。

 出店らしく棒で刺したソーセージ、サンドイッチなどはなかなかお手頃で美味。

 ケーキのような菓子パンも売っていたが祭りで財布の紐が緩んでいても手が止まる位には高い。

 食べ物に限らず衣服や小物などもお祭り価格で売っていた。なので人通りも普段より多く騒がしい。

 こういう祭りの雰囲気は嫌いじゃない。日本じゃ病弱であまり外に出られなかったしな〜。

 一通り見て回った所で魔法占いの列に並ぼうと戻ってくると、シスター服で目立つカリーナを見つけた。

 「よっ。久々」

 「ユウマ! お久しぶりです。元気でしたか? 少したくましくなりましたね」

 言いつつ二の腕をぺたぺた触ってくる。

 カリーナは特に変わり映えしないが、綺麗な所も変わらずだった。

 「ぼちぼちな。並ばないのか?」

 「並びます。並ぶのですが……」

 なにか煮え切らない様子だったが、特に気にはしなかった。

 「せっかくだから一緒に占ってもらおうぜ」

 「そうですね。はい」

 「なんだかんだ半年ぶりじゃないか?」

 「そうです! 全くあなたは薄情な……」

 「一回暇な日見つけて手伝いに行ったんだが、みんな忙しそうでなー」

 「そうでしたね。それなら許しましょう」

 「なんでやねん」


 それからは自分達の近況について話し合った。ミリアンヌがおれのいた部屋を汚物扱いしていることやおれのクエストの話など。

 そうこうしている内に順番が来た。魔法石で出来た水晶に両手を触れて結果とアドバイスを受ける。

 ここまでおれは一貫して魔法の話はしなかった。なぜなら。

 「どうせ大したものは出ませんよ。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」

 「ふっふっふ。戦慄するがいい、カリーナ」

 おれは両手で水晶に触れた。途端に千人以上見てきた占い師の顔色が変わる。

 「こ、これは! 凄い!」

 そう。おれの魔法適性はずば抜けて高いのだ。魔法を扱える者の多いギルドでも群を抜いている。

 「魔法適性、二等級です‼︎ 体力も三等級! 知力は七等級と他も普通ですが、いや、凄い!」

 知力ふつーとかディスってんのか。

 因みに等級は一から十まであり、一に近いほど能力が高いとなっている。平均はどれも七、八等級程度。

 「魔法二等級は王国でも両手で数えられるほどしかいません! 魔法の才能を活かして魔法使いなどになることを強くお勧めします! あとこちらにお名前、ご住所、職業を記入してもらえますか?」

 ここでも魔法使いを勧められるとは。つか二等級ってそんな少ないんだ。自分でもびっくり。

 三等級以上の人は名前などを書いてもらう決まりで後日特定の職業からスカウトされることもあるらしい。恐らく優秀なやつを引き抜こうという話だろう。

 「どうだカリーナ? おれの溢れんばかりの才能ってやつを見たか……」


 「一等級っ⁉︎ 魔法一等級っ……‼︎」


 見たら隣でカリーナが占い師を戦慄させていた。

 「なんでやねんっ‼︎」

 占い師驚き過ぎて一等級しか言えなくなってるし!

 徐々に周囲にどよめきが広がる。

 なんか控え室から出てきた責任者っぽい人が出てきた。

 「一等級? そんな三等級以上がほいほい出る訳が……一等級っ⁉︎」

 支配人も戦慄してるし!

 あ、なんか魔法に詳しそうなゴツい杖ついた老師が出てきた。

 「愚か者。伝説の国王と同じ等級がそうそう出るものか。もう一度やってもらえ」

 「はい。お願いします!」

 「分かりました」

 水晶に両手を添えるカリーナ。


 「……一等級じゃな……」

 クソじじいっ!


 「お、お名前をこちらの用紙に記入してもらえぬか!」

 「は、はあ」

 「ペンはこちらにっ!」

 突然の快挙に終始興奮しっぱなしの占い師三人組。場内もざわめいている。

 「あっ! すいません、ユウマさん。こちらにご記入願います」

 書いている途中、おれの担当の占い師も目を奪われていた。

 実に面白くない。

 聞けば一等級は老師の言う通り、遠い昔聖剣を授かった国王以来のものらしい。

 実に面白くない。



 不貞腐れ、牛乳を一気飲みする冒険者の姿がそこにはあった。

 なぜ? 頭の中ではそればかりが渦巻いていた。

 なぜカリーナに勇者フラグが立っている?

そこは異世界転生した者の特権じゃないの? ってゆーかこの展開は誰得なの? など。

 占い結果の紙をもらったが、喜びは無かった。

 とそこで、ようやく喧騒から解放されたカリーナがやってきた。

 「ふう。参ってしまいますね。実際」

 「……」

 当のカリーナはあまり気にした素振りも無く、気疲れしている様子だった。

 おれは不貞腐れていた。

 「どうしたんですかユウマ? 馬に蹴られて財産落としたみたいな顔して。あ! そうだ結果どうだったんです?」

 見せるか迷ったが、素直に紙を見せる。

 「魔法適性二等級! すごいじゃないですか! 知力は……まあそんなもんでしょうね。聖剣の勇者にはなれそうですか?」

 「……いや、無理そう」

 無理だよ。一等級のあなたがいるんだもん。

 「なんか……ごめんなさい」

 むしゃくしゃしつつ牛乳瓶を煽る。

 「いいじゃないですか、充分凄いですよ。才能の宝物庫や〜」

 すごい。一位の人に言われても全然嬉しくない。あと誉める才能が壊滅的だな。

 牛乳瓶をテーブルに叩きつけるように置く。

 「どうして……おれが一位じゃないんだ。おれが望むのは圧倒的な、並ぶ者なき頂点なのに」

 「目標を高く持ち過ぎでは?」


 そうか、おれは……選ばれなかったか。


 もう一本牛乳を頼み瓶の蓋を開けようとするも開かない。

 「くそっ! おれには瓶を開ける力すらねえのか!」

 力任せに開けようとしたら、周りに飛び散ってテーブルと床が汚れた。

 一部始終を見ていたウェイトレスに無言で雑巾を渡される。

 床に膝を着きながら牛乳を拭く。

 「哀れな……」

 さすがに目が潤んできた。

 

 ……許さん。

 人の心を弄びやがって。

 こんな無様な異世界転生、おれは認めん。

 これが神の定めたレールと言うのなら。

 よろしい。戦争だ。


 「変えてやるっ……!」

 「え?」

 「こんな呪われた運命……全部おれが変えてやるんだっ‼︎」


 床を殴り、その負け犬は吠えた。

 数瞬の後、周囲が微妙な雰囲気に包まれようとも、この決意だけは曲げないつもりだった。

 「……別に呪われてないかと。とりあえず拭いて下さ……い?」 


 カリーナの言葉の途中で、遠くから光がこちらへ来る。

 光は尾を引きながら会場のドアを通った。

 「なんだあれ?」

 強い光のため会場の衆目を集めた。

 光は雄真の眼前で止まると、剣を象る。

 「……まさか聖剣……ですか?」

 「……おれ?」

 その光は明滅した。

 先程の雄真の宣誓に呼応するかのように。


 雄真は光の剣へと手を伸ばし、

 ここに勇者が誕生した。


 が、しかし。


 「ちっさくね?」

 「ちっさいですね」

 その剣は聖剣に相応しい威容を……そんなに携えてなかった。

 

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