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勇者と言ったら勇者  作者: ゴリマッチョ見習い
2章成人の儀
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2-2 冒険者ギルド

 約束の時間にギルドを訪ねると、出迎えてくれたのは景気のいいおっさんだった。

 「お前さんがユウマか。おれはこのギルドのオーナーのファウロスだ。マスターでもなんとでも呼んでくれ」

 「はいっ! 雄真です! よろしくお願いします、ファウロスさん」

 おれはこれでもかという位畏まる。

 「そんな杓子定規にしなくてもいいぞ? お前さんがシスターにセクハラしまくってる変態ってことはミリアンヌとカリーナから聞いてる」

 「あいつらああああああ!」

 早速面接落とされそうなんだけどっ!

 「推薦文にもこうある。セクハラー。だけど見た目より力持ち」

 「フォローになってねえ‼︎」

 もっと考えろよ! 他にも色々あるだろ!

 ……自分でもパッとは思いつかないけどさ。

 ってかカリーナはともかくミリアンヌまで。いらない所ばっかり出しゃばりやがる。

 がっはっはと笑い飛ばすファウロスさん。

 「するとセクハラし過ぎて追い出されたのか?」

 「違いますっ!」

 「いい、いい。隠すな。その歳の男はそれくらいじゃなくっちゃな」

 「違うんですけど!?」

 「じゃあ、セクハラは一切してないのか?」

 「そりゃ、しましたが……」

 「自首するなら付き添うぞ?」

 「なぜそうなるっ!? おれは絶対自首しません!」

 あれ? おれは初対面の人になにを言っているんだろう?

 「……ですから! あれはコミュニケーションの一環であって、やましい気持ちは一切ありません! どうかおれを信じて! ビリーブ!」

 「……反省の意思は見られない、と」

 「そんな! ファウロスさん……いや社長!」

 そこまで言ってようやく許して? くれた。

 「冗談だ。反応がよくてつい、な。社長?」

 既にひどく疲れた。

 「そしたら、仕事内容とギルドについて説明して、気に入ったら冒険者登録だ。ほら、入れ」

 「あ、はい社長。って面接はいいんですか?」

 「面接? 今やったろうが。お前さんは合格だ」

 「今のが!? いや、合格出来る要素皆無だった気が……」

 「心配するな。お前は面白い」

 「……」

 がっはっはと脳天気に笑う社長。

 テキトー以外の何ものでもない。とりあえずおれは。

 セクハラのおかげで冒険者になれた。



 ギルドと言ってもそんなに大きくはなく、敷地の大きさは小さめのコンビニくらい。

 丸テーブルが五つにカウンター席五つ。カウンターの裏にはドリンクや軽食が並んでいて、入って左の壁にはクエストの募集掲示板。

 冒険者というだけあって体つきがゴツい男が多い。


 ここらで冒険者の仕事について解説を入れておこうと思う。

 基本的には短期のクエストの募集の中から自分が出来そうなやりたい仕事を選べる。

 報酬や内容はピンキリ。日常の雑用から命に関わるものまで。

 冒険者らしいものといえば採取とか討伐辺りだろうか。採取は宝石や薬草が欲しいとか。討伐は害獣や魔獣の討伐。魔獣はその名の通り魔法を使える種類の獣で、近年出現数が多くなっており知能も高いため怪我人死人が出ることもあるのだとか。

 ちなみにここ数年王国は魔獣の出現数は多くなっているものの、戦争などはなく平和なので傭兵などはいないらしい。


 それよりも。

 「魔法があるんですか?」

 「なんだ、そっちの記憶も無いのか? 魔法っつーのは……まあ、見りゃ分かる」

 社長の大雑把な説明になってない説明で気になって本を借りて調べた。


 魔法とは世界に満ちている魔力、マナを使って通常の物理法則から外れた超自然の現象を起こすことを指すらしい。

 古代の学者によると、この世界は地水火風の四つの元素から成り、それぞれに対応したマナが存在する。

 基本的な魔法は地水火風を生み出し操るというもの。後は特定の自然を操る魔法や現代でいう超能力に近い魔法もあるらしい。テレポートやサイコキネシスなど。

 ただ、魔法を使うには先天的な才能が重要らしく素質のある者自体がそんなにいない。それが更に有効に扱える者となるとぐっと減るらしい。通りで三ヶ月こっちの世界にいたのに知らないわけだ。

 冒険者ギルドでも半数は使えないそうだ。

 「基本の魔法以外が使える奴は大体有名になるな」


 で。肝心なのは。

 「おれって魔法使えますかね?」

 「わからん」

 ずっこけた。

 「あー、でも待て。あれがあったはずだ」

 社長はそう言って店の倉庫を調べる。

 すると、皿と小瓶を持ってきて中身の水を皿に入れる。

 「これはネクタルという水でな。マナを溜め込む性質がある。これを操れるかどうかで魔法の適性を測るんだ」

 冒険者は魔法が使えるかも重要なため、その人の素質を知るために置いてあるらしい。

 「指を入れて指を動かさず、なんでもいい、水を動かしてみろ。それが出来ればとりあえず、魔法は使える」

 「指を動かさず……?」

 「そうだ。マナを動かせ。イメージしてみろ」

 とりあえず一番簡単な動きを想像する。

 (簡単というと注入か?)


 すると指からなにかがネクタルに注入されたように水流を作り始めた。

 「やるじゃねーかユウマ! 微量だがマナがネクタルに注入されてる。魔法は使えるな!」

 「これが……!」

 感覚的には指の先に超小型の扇風機を付けてるというのが近い。それか少しずつ血が指先から漏れている感覚か。

 「すげー! まじですげー!」

 すげーしか言ってないけどすげー。水動かしてるだけなのにめちゃめちゃ楽しい!

 慣れてくると気泡や波を作って遊べる。

 平皿ぎりぎりまで波たてて遊ぶ様子を見て、社長が初めて渋い顔を浮かべた。

 「……ユウマ。ちょっとついて来い」

 遊び過ぎたかなとちょっと反省していると、路地裏まで連れてこられた。

 「ユウマ。今ならマナが分かるだろうが、ここで感じるマナは、どんなマナだ?」

 「どんなマナ? ……うーん、ポカポカした暖かさと……野原でそよ風に当たってるような感覚です」

 「なるほど。火と風だな。その二つがお前さんは強いらしい」

 「火と風……」

 「火はあぶねーから、最初は風のマナだけを集めてみろ」

 「……」

 感覚に意識を集中する。緑のマナだけを両手の間に集めるイメージ。

 すると、ヒューと風の音が鳴り始める。

 「おいおい、まじかよお前さん……」

 目を開けるととても小さく穏やかだが、手の中に竜巻が生まれていた。

 「……」

 絶句する。度が過ぎて脳の認識が追いついていないらしい。

 「風起こせれば上出来くらいに思ってたんだが……一発で竜巻創るとはな」

 だが疲労感から集中が切れ、すぐに霧散してしまった。

 「まだ慣れないだろうからこれが限界だろう。もうやめていいぞ」

 「社長……もしかしておれって……」

 天才なんじゃないでしょうか?

 「ああ、お前さんは……冒険者辞めて魔法使いになれ」

 冒険者人生を否定された。


 そしておれは類稀なる才能を発揮し、それを活かして魔法使いとして名を馳せる。

 こともなく、普通に冒険者としてやっていくことにした。

 住み込みの件については、

 「おー、少し前に雑用……事務のやつが辞めちまってな。仕事が山程溜まってる。今なら即採用だ」

 「やります!」

 と秒で決まり、問題も解決した。

 仕事内容は受付事務、飲食もやっているのでホールとキッチン、書類整理、あとは社長の荷物持ちなど。

 クエストのない日にそれら雑用をやってくれればオーケーで、ちゃんと休みも出すらしい。

 「住むなら二階に一部屋空きがある。元々おれが寝たりする時に使ってた部屋だから片付いてはいないがな。がはは」

 階段で二階に上がると、思ったより片付いて無かった。というか汚い。

 広さは十畳程度。中央にどんと置かれた年季の入ったソファ。それを囲むように酒の空き瓶が転がっている。

 収納棚には未開封の酒瓶。それ以外はゴミやらなにに使うか分からない道具など。

 「ここにあるのは使うなり捨てるなりすきにしていい。ただ、酒には触るな。ソファも残しておいてくれると助かるな」

 「寝る気なんですか?」

 「がはは、たまに帰るのが面倒な時にここで寝たくなるんだ。問題あるか?」

 「問題しかないです」

 寝る所ひとつしか無いし、いびきうるさそうだし。

 「まあ、住まわせてくれるなら文句ないです。前は野宿だったし」

 「お前さん、がさつだなあ」

 「あんたに言われたくないわっ!」

 


 三日ほど仕事を体験させてもらって問題無かったので、ついに荷物を纏めて修道院を出て行くことになった。

 皆仕事中だったのでとりあえず院長代理のソフィアさんには挨拶しておこうと訪ねた。


 「もう行かれるのですね」

 「はい、なにからなにまでお世話になりまして、ありがとうございました」

 「寂しくなりますね。またいつでも遊びにいらして下さい」

 「はい。なにかあったら呼んでください。雑用でもマッサージでもなんでもしますから」

 「マッサージはあなたがしたいだけでしょう? それにまだそんな歳でもありませんので」

 「そういえば先日お誕生日だったそうで。おめでとうございます。おいくつでしたっけ? 確か二十……」

 するとソフィアさんは能面のような笑みで、

 「女性に年齢を聞くのは野暮ですよ?」

 「失礼しました!」

 どうやらカリーナは胸イジりが、ソフィアさんは年齢イジりがダメらしい。

 普段いつも穏やかでいる分、怖さが倍増している。

 「いえ、いいのです。これから気を付けて下さいね?」

 「はいっ!」

 どうもこういう所はカリーナに受け継がれてるっぽい。

 「それじゃあ、行ってきます!」

 「はい、いってらっしゃい」

 手を振り合い、執務室を後にした。


 修道院の門を潜り、三ヶ月生活した場所を見ながら感傷に浸っていると。

 カリーナが小走りでおれの元に駆けてきた。だいぶ急いだようで息が上がっている。

 「おっす。カリーナ。どうした? そんなに急いで。トイレか?」

 「どうしたじゃないですよ。……はあ、はあ、……執務室に行ったらもう出発したっていうから急いできたんですよ……はあ」

 息を整え、腰に両手を添えるカリーナ。

 「命の恩人の私に、挨拶無いなんてちょっとどうなんですか?」

 少しお怒りのご様子。

 「いやだって、ここ数日忙しそうだったし。まあ、会えなくなるわけじゃないからいっかなって……」

 「薄情ですねー。姉さん以外にも挨拶してないみたいだしー」

 ジト目で言ってきた。

 「分かった、悪かったよ。確かに薄情だった。この通り!」

 頭を下げて誠意を込めて言う。

 

 「今までお世話になりました。みんなにもよろしく」

 「はい、こちらこそ。承りました」

 満足そうに頷くカリーナ。子供に礼儀を教える母親か。

 「またいつでもいらして下さいね。早い時間に来てくれればご飯作りますので」

 「サンキューおかん」

 「だれがおかんですか。忘れ物はないですか?」

 「ないよ。おかん」

 「だれがおかんですか」

 「ソフィアさんにも言ったが、人手とか足りなかったら言ってくれ。んじゃ、行ってくる」

 「はい、いってらっしゃい」

 大きく手を振って見送るカリーナ。だからおかんか。

 そうしておれは修道院と恩人に別れを告げた。

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