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第四話 多分こいつも中二病

 去っていく怪しい冒険者を見ながら、僕は思いました。


 いや、あの剣普通にダミアンさんのじゃん、と。


 しかも、最後の露骨な誘導。さすがに怪しすぎるッス。


 一刻も早くここを離れるべきだ、と理性が訴えるッスけど、僕はそれ以上にあの謎の扉が気になるンス。


 周りを警戒しながら歩きます。


 巨大な魔物が荒らして行ったような通路に、不自然な扉。もしこれがダンジョンというやつだと言われても僕は驚かないッス。


「ダミアンさーん?」


 石造りの扉を開ける時、それはズッシリとした感触がありました。

 少しヒンヤリとしていて心地いいです。


 そして目に映るのは今までの自然な洞窟とは違う、生活感が無いながらも手入れされた印象を受ける大きな部屋。


 特に惹かれるのが、熟練の石切工でも作るのが難しいだろう石でできた玉座。


「な、なんっすか、これは……」


 でも、僕が驚いているのはそこではないッス。


 ――そこに座る、(むくろ)に驚いているンス。


「『骸の王』?」


 王冠でもつけていれば更に様になっていただろうと、そう感じます。

 そして、思わず昔ダミアンさんに教えて貰った童話を口にしていて、そんな自分に苦笑いッス。


「ダミアンさんは、やっぱりあの人に殺られちゃったッスかね」


 まあ、そういう職業についていたので衝撃に打ちひしがれることはないです。

 でも、


 ――痛い。


 何故かとても痛いンス。


 まるで、腹を剣で貫かれているような、そんな感覚ッス。


 ダミアンさんのことをこんな痛みを覚えるほど思っていたのかなあ、と案外情が深い自分に感慨を覚えるッス。


「あ、あれー?」


 あまりに痛いので腹を見てみると、剣が生えてました。ニョキっと。


 いや、例えとかじゃなくて、マジに。


「――『骸の王』? ノンノン、『魔王』だよ」


 耳元でねっとりと囁かれます。


 僕は自分の恐怖を誤魔化すために後ろを振り向きました。

 そうすると、瞳に狂気を据えた、騎士がそこにはいます。黒髪黒目で、ドンヨリと底なし沼のように見える目。


 そしてその目の奥に宿る野心の火を見て、この亡主の騎士はその身に余る野心を抱えていることを理解させられました。


「――でも、ここで死ぬのは冒険者あらず、ッスね」






 ◆ ◆ ◆




 なーんかお腹でも刺しておけば死ぬだろ、って思ってたのに剣を振り抜いてこっちに切りかかってきた。


 どんな狂った精神持っているんだろう。


 それより肉体労働はダンジョンマスターの仕事に入ってないと思うんですけどー!

 おいダンジョン! 労基に訴えんぞ!


 ……え、肉弾戦が好きすぎて魔物を召喚しないで戦っているダンジョンマスターもいるって?


 いやいや、そんなの極一部の狂人だけで……あ、いや、はい、すみません。俺が間違ってました、ダンジョンさん。


 ああ、やめてっ、俺を捨てないでー!(いたいけな悲鳴)


「剣でかかってこいッス!」


 そしてこんな可哀想な俺の心情も考慮しないで、なんか勝手に盛り上がってるお相手。


 ちょっとは俺の気持ちも考えろや!(逆ギレ)


「いや、わざわざ君と剣戟をする危険を侵す必要もないんだよ」

「……それでも漢ッスか!? 情けない!!」

「……あ?」


 そういえば。


 俺がさっき獲得した称号、【野心の王】は大雑把に言えばプライドとかがちょぴっとプラスされるものだ。


 んで、それに【偽りの王】で【野心の王】の効果が二倍になっている! なんという負のコンボ!!


 まあまとめると、だ。


 今の俺は、めちゃくちゃキレやすい(プライドがやべえ)


「……いいぜ、ぶち殺してやんよ」


 抜剣。


「……ッ! ようやくその気になったって感じっすね!」

「この俺、久野東寺(くのとうじ)の名の誇りにかけて、正々堂々とてめえを倒させてもらう、ぜ」


 こうして剣を構えていると、実家を思い出す。


 家は剣道の道場だったのだ。まあそこまで熱心に習うことも無く初心者に毛が生えた程度で、おじいちゃんにボコられてばっかりだったが。


 だが、嫌いでは無い。むしろ好きだ。


 そして特に好きなのが、この独特の、夏の酷い湿気のようなジットリとした緊張感。


 この高揚感と、胸に満ちる形容しがたい幸福感がとても印象に残ってる。


「行くッス!」


 とは言えまあ、しっかりと剣の基礎がなっている人を思い出補正だけで簡単に倒せるわけはないわけで。


 俺の頬を相手の鋭利な剣が撫でる。

 避けきれなかったか。……ちょっと痛い。


「『飛泉(ひせん)の太刀』!」


 滝から落ちる水の如く、お相手は勢いよく剣を振り下ろした。


「んな簡単に読める剣があたるか!」


 もし当たったら死のう。いや、多分当たった時点で即死だけど。


 避けるためにバックステップをしたが、今度は反撃のために地面を蹴って、一気に接近。


 地面を蹴って得た推進力は俺の想像より大きいらしくて、その勢いからヒュウヒュウとした風の音が耳をつんざく。


 もしかしたら身体能力が少し上がっているのかもしれない。


「はっ。この()()を知らないンスか? 『登り(こい)』!」

「へえ!」


 俺が一気に相手に接近したのは、小学生でも考えられるくらいの単純な理由がある。


 ――勢いよく振り下ろしたし、しばらく反撃できないだろ。


 と、言った感じの。


 だが、相手はどうだ。


 『登り鯉』と唱えた瞬間、それまで地面に接しているほど降ろされていた剣が、何かに引っ張られるように上に登るじゃねえか!


「ドーピング! 卑怯だ!」

「不意打ちで腹に剣を生やさせる人が何を言ってるンスか」


 そのままそのままスッポーン! と首を切られそうになったが、そんな簡単にはくたばれない。


「ダミアンさん、見ててください……! 『決裂・烈火の(げき)』」

「ま、まさか、それはッ!」


 そして俺は気づいた!


 何故こいつは剣を振るう時、技名のようなものを叫ぶのか!


 そう、こいつは厨二病を患っている!(多分)


 だから、俺もそれっぽい反応をすれば油断してくれるだろう。IQ300の頭脳がグルグル回ってるね。


「あ、あの技をお前がーッ!?」

「そうッス! この技を僕がッス!!」


 おかしい! 俺の考えは完璧なはず!


 だというのに、俺が心の奥底に封印したはずの厨二病が再発したのか、相手の剣が炎を纏っているように見える!!


 なんて幻覚なんだーッ!


「なら、こちらもだ、ってやつだ……!」


 喰らえ、『ただの剣』!


 うおおおおおおおお!!


 俺の剣と相手の剣がぶつかった、その瞬間。


「ぐ、ぐあーッ!?」


 信じられない程の怪力で俺の剣は吹っ飛ばされてしまった。骨が折れるかと思ったぜ。


 しかも相手は俺の剣を吹っ飛ばしただけでは終わらず、俺を切り刻もうとしてくるのだ。


 一連撃目。


 バックで避けるが、それもスレスレであり、服を軽く燃やす。


 二連撃目。


 俺を洞窟の隅に追い詰めたお相手は、己の勝ちを確信したように剣を再び振るう!


 だが、ここでビビり散らかすと死ぬのは目に見えているため、足を相手に絡ませて転ばせる。


「ぐっ……や、やるッスね。だけど、次の、最後の一撃で仕留めるッス……!」

「おー。マジにやばい状況だぜ、俺は。剣も無くて、能力もてめえが上。いやー、参ったなあ」


 やれやれだぜ。


「……惑わされないッスよ!」

「でも、俺の誇りが許さないから最後まで戦うぜ」


 俺のセリフを聞いて、相手は一瞬動きが鈍くなった。

 相手の目からしたら俺は誇り高い何かにでも見えるのかもしれない。


 もしそうだとしても、【野心の王】の効果だけど。


「喰らえ、俺の必殺の拳!」


 お相手さんはもう完全に俺の挙動に目が行ってる。

 どんな技を撃ってくるんだろう、って考えてるんだろう。何も撃てないけど。


「――と、茶番はここまでにしよう」

「……はい? 何を言って――ッ!? ……も!?」


「チェックメイト、ってやつだ」


 事後の指パッチン。


 湿気が足りなくてちょっと掠れた音が鳴ったのは内緒だ。……もちろんいつもはできてるけどね。うん。


「……終わったのですか?」

「イエス」


 ひょこっと本ちゃんが顔を出す。

 あんまり戦えないらしいので本に化けてもらって、隠れさせた。


「というわけで、本日のMVPはスラちゃん!」


 結局最後まで名前がわからなかったお相手さんは、天井から落ちてきたスラちゃんに窒息死させてもらってる途中です。合掌。


 そして、何があったか。それは、俺が必死の演技で乱舞している間にスラちゃんが天井を這って、油断した瞬間に頭にスラちゃんが急降下した。以上。


 卑怯? プライド? 【野心の王】?


 バーカ、そんな称号だかスキルだかの効果に操られてたまるかよ。俺は俺、ってやつだ。


【DP300を獲得しました】


 そんな心地よいアナウンスを聞きながら、俺たちは戦利品を漁り始めた。みすぼらしいね。

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