第十二話 どうも、魔王(になる予定の男)です。今日は冒険者ギルドに行きます。
この世界の金銭の価値ですが、金貨=十万円、大銀貨=一万円、銀貨=五千円、白銅貨=千円、銅貨=百円とします。
「いやあ、文化に触れたって感じだわ」
『ふわぁ……よかったですねー』
歩くことによってプラプラと揺れる感覚が気持ちよかったのか、小雪はとても眠たそうにしている。
「それで、ここが多分冒険者ギルドだよな」
木の柱に手を置く。ささくれが刺さった。痛い。
街をブラブラ歩いた感想としては、建物はゴシック様式で、建材を見る感じ暖かい地域、という印象が強い。
ダンジョンにいると感じられないが、暖かい、どこかねっとりと優しく自分を包み込んでくる風は気持ちがいい。
そしてこのぐらいの暖かさになるとマントが少し暑苦しい。でも外さない。
なぜなら、俺は将来魔王になる男なのだから。ロールプレイ上等じゃゴラ。
「邪魔するぞ!」
堂々と挨拶をして入る。さっきまでボケーと見ていたが、入る時に挨拶をする人なんていない。
だから、俺のようなタイプは珍しいのだろう。視線が集まる。
――普段は無い、入る時の挨拶。なんだなんだ、とギルドで暇潰しに酒を飲んでいた野郎共(偏見)は挨拶をした俺を見る。そして、そこには、おおっと、なんかすごいイケメンな男子が!(自称)
「俺はダンジョンを発見した! 己の好奇心から潜り込み、ああっと貴重な宝箱を発見して開けようとした瞬間! そこには強大、凶暴、悪逆なるモンスターが! 残念、俺は忘れていたがとても弱い! どうしようと考えた末の戦略的撤退をしてここまで来た! 誰かこの話を聞いて、俺とパーティーを組みたいと思った冒険者はいるか! 組めば一攫千金は保証しよう!」
いいぞー、兄ちゃんとか、ヒューヒューとか口笛と野次が飛ばされる。ちょっと思っていた反応と違うけど、ヨシ!(適当)
「……えー、臨時パーティーのご依頼でしょうか? では、ランク証をご提示ください」
「……ら、ランク証?」
ナニソレ。聞いてない。
「……あ、もしかしてギルド登録がまだお済みでない方でしたか?」
「ああ」
「承知いたしました。では、こちらへお願いします」
受付嬢さんはスーッと受付の隣にある扉へ腕を伸ばした。
「感謝する!」
うーん。偉大なる魔王風演技で冒険者たちを畏怖させるつもりだったのに、なんかバカを見る目になっている気がする。
……まあいっか。
俺はマントをバサッとなびかせて、風を切るように歩いていく。
あ、そういえばカッコつける演技はスケ方が得意だから後で聞いておこう。
◆ ◆ ◆
やった。やっとFランク証を入手することができた。結構頑張った。
そして、こんなにも努力しているというのに、途中で起きた小雪に呆れた声で何をしているのですか、と言われた。
復習のため、冒険者ギルドの仕組みとかそういうのをまとめた紙を見る。
・ランクシステムであなたの討伐可能魔物ランクをざっくり設定してあげるよ。
・ランク上昇は義務だよ。そしてランクが上がると恩恵も増えるよ。
・Aランクからは地方中枢都市に派遣されて居座らないとダメだけど、マジで手厚くサポートしてあげるからね♡
・基本的に自己責任であるということを承知してください。
ということらしい。
相互組合というか会社感がある。おえー、夢がない。
後ランクの決め方は、Cランク冒険者だったらCランクの魔物は討伐できるよ、っていう一種のギルドからのお墨付きのようなものなんだとか。嬉しいね。
とはいえ、魔物はランクC+とかがいてそこは色々揉めているらしい。でも、そんなゴタゴタ、一攫千金夢見る初心な新人冒険者に教えることなのだろうか。
『で、よーやく今から依頼ですか……』
「仕方ないだろ……」
小雪はずーっと何もできないから酷い拷問を受けているみたいです、と呟いていた。ごめん。
ランク証を得るのに何時間かかったかは分からないが……少なくとも、もうちょっとで陽が落ちる、という時間まで来てしまってはいる。
思わずため息をついた。今からの依頼を取ってくれる人は少ないだろう。
ランク証を取るのに銀貨三枚、今から依頼を出すのに銀貨一枚。
銀貨一枚の価値がどれほどかはよくわからないが、結構ぼったくられている気がする。多分。
なーんてグチグチ考えながら、依頼書を貼る。
そしてまばたきをしたら俺の依頼書が消えていた。あれー?
「よっ、やっと来たか。待ってたぜ、ダンジョンの兄ちゃん」
「あ?」
後ろを振り向くと、ガタイのいい男がいた。
長い金髪をポニーテールでまとめていて、目は緑。
髪の色や目の色までは街をブラブラしている時にチラホラ見かけたが、その中にある黒の眉毛が異彩を放っている。
そしてそれが、なぜか妙に男前な雰囲気を引き立てていた。
まあつまりナルシスト感があって、どこか女性っぽいエレガントさもあるイケメンってことだ。
そしてそんな男が、俺の依頼書を手に取っていた。
言葉からして、出待ちしていたのかもしれない。もしかして、俺はこの男にボコられる運命?
「俺はグリフィス。名前から分かる通り、ここらの出身じゃあねえな。ま、グリフって呼んでくれ。よろしくな」
「よろしく。俺は東寺だ」
「へぇ、お前も珍しい名前だな」
器用に片眉だけ上げるグリフ。
ボコる前に名乗っておくタイプなんだろう。嫌いじゃない。
「で、こっちが――」
「あたしはあたしでできるわよ! ……あたしはソフィアよ。よろしくね、トージ君?」
「に、二対一……!?」
ボケてみたもののよく分からない、という顔をされた。ショック。
……まあ、俺と臨時パーティーを組んでくれるのがこの人たち、ということなのだろう。やったね。
「さて、臨時パーティーを組むことになったわけだが……」
グリフが腕を組んで、爽やかに笑みを浮かべる。
「臨時だからこそ、お互いが足を引っ張らないための連携が必要なわけだ。ってことで、恒例のやつをしようぜ」
おお、とこの時間になっても残っている冒険者共が声だけで地面を揺らした。
なるほど、何となく言っていることが理解できるぞ。
「Cランク冒険者、グリフィス・ソウルはトージに決闘を申し込ませてもらうぜッ!」
「受けて立とう! 俺は久野東寺! Fランク冒険者だ!」
……あれ、ボコられるかもしれないのは事実だったかもしれない。
そんな俺の考えはすぐにどこかに吹っ飛んだ。
グリフがムカつく顔で、挑発の手招きをしたからだ。
「生意気じゃボケ!!」
「うぐぉっ!?」
むきー。俺は挑発に弱いんだ。
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